解説
中国共産党(中共)のリーダー、習近平による中共軍の粛清は、トップ層の服従を確実にした。しかし、それは実戦能力を犠牲にしてのことである。中国が台湾に攻め込めない理由は数十年前から変わっていない。兵站(ロジスティクス)の不備、経済的な脆弱性、そして米国を中心とした同盟関係が、今も大きな障害として立ちはだかっているからだ。
1月下旬、中共は中央軍事委員会副主席で政治局員でもある張又侠(ちょう・ゆうきょう)への調査を開始した。憶測は汚職や派閥争いに集中しているが、その深層にある真の目的は、毛沢東やスターリンがかつて行ったように、異論を許さない徹底した思想統制と、自らの権力を盤石にするための組織の再構築にあると思われる。
これまでの党による調査の実態を見れば、一度ターゲットになれば逃げ場はない。張が有罪とされ、軍から追放されるのはもはや既定路線であり、その確率は100%に近い。
2022年以降、習は中央軍事委員会の幹部の過半数と党のトップ将官の多くを解任してきた。これは短期的には軍を弱体化させるが、習の視点では長期的な信頼性を高める行為である。習は旧世代を一掃し、自身に忠実で、かつ人工知能(AI)、ドローン、サイバー、宇宙、水中作戦といった先端戦域に精通した中共軍の現代化目標を達成できる新しい将校グループのために道を譲っているのだ。
最終的な目的は、台湾を征服し、米国との潜在的な衝突に勝利できる軍隊を築くことにある。今回の粛清により、7名で構成される中央軍事委員会は習と張昇民(ちょう・しょうみん)上級大将のわずか2名にまで減少した。これは、近い将来に台湾との戦争を遂行する中国の能力や意欲に重大な疑問を投げかけている。
指揮系統の混乱と麻痺
粛清は、中共軍指導部から膨大な知見を奪い去った。75歳の張又侠は、1979年の短い中越戦争を経験したベテランであり、軍の中で数少ない実戦経験を持つ指揮官の一人である。短期的には司令部は混乱状態にあり、中央軍事委員会や戦区司令部における重要な欠員は指揮系統を分断させ、近い将来の大規模作戦のリスクを高めている。
また、軍から経験豊富なシニアリーダー層を失わせるだけでなく、粛清は軍内部に麻痺を引き起こしている可能性が高い。全指揮系統の将校たちは、「不忠誠」のレッテルを貼られることを恐れ、準備レベルに関する正直な欠陥報告を躊躇するかもしれない。
構造的・経済的障壁
人員の欠陥に加え、共産党はいまだに解決できていない長年の構造的問題、特にロジスティクスと揚陸能力の格差に直面している。台湾侵攻は、史上最大の作戦と言われたノルマンディー上陸作戦の規模をはるかに超える、史上最大かつ最も複雑な揚陸作戦となるだろう。台湾海峡は約100マイル(約160km)の幅があり、海が荒れることで知られている。気象条件が良好な時期は、通常4月と10月の年2回であり、短い期間に限られている。
中国は艦船数で世界最大の海軍を保有しているが、島を占領し維持するために必要な数十万の軍隊を輸送するための専用の揚陸艇が不足している。民間の「ロールオン・ロールオフ船(ローロー船)」への依存は代替案となり得るが、これらの船舶は台湾のミサイル攻撃に対して極めて脆弱である。

もう一つの大きな制約は、中国の経済的な脆弱性と、台湾のいわゆる「シリコン・シールド」である。逆風にさらされる中国経済にとって、ハイリスクな戦争はもはや魅力的な選択肢ではない。台湾は世界の最先端半導体の90%以上を供給しており、紛争によってこれらの拠点が破壊されれば、世界規模の供給ショックが起きるのは必至だ。その結果、世界恐慌が引き起こされ、依存度の高い中国のハイテク・製造部門は、他国を上回る壊滅的な打撃を被ることになる。
国際的抑止と米国の介入
中国は制裁に対しても極めて脆弱である。大豆などの主要な農産物輸入において依然として西側市場に依存しており、国際銀行間通信協会(SWIFT)へのアクセスも不可欠である。ロシアへの制裁と同様に、国際決済網からの排除や資産凍結といった強力な経済封鎖が行われれば、中国経済は瞬く間に大混乱に陥るだろう。共産党が成長と安定の維持に必死な中で、このような制裁は国内の不満を爆発させ、体制を揺るがすリスクを急激に高めることになる。
軍事面では、中国は台湾の「ヤマアラシ戦略」を克服する準備ができていない可能性がある。台湾は小規模で機動力のある軍隊へと移行し、対艦ミサイル、機雷、ドローン群といった、標的にしにくく、侵攻艦隊に許容しがたい損失を与えうる低コストな非対称兵器を数千規模で備蓄している。地政学的にも防御側に有利であり、台湾には大規模な上陸に適した砂浜は約14箇所しかなく、そのすべてが厳重に要塞化され、背後には山岳地帯が控えている。
そして、過去70年間にわたる中国への最後にして最大の制約は、米国の介入リスクである。中国の軍事計画は、日本、オーストラリア、フィリピン、韓国、そしておそらく英国を含む米国の同盟国の関与が高い確率であることも考慮しなければならない。中国は数においてより多くの艦船を有しているが、米海軍は依然として世界最強であり、台湾侵攻シナリオにおいて決定的な要因となる水中戦において圧倒的な優位を保っている。
一部のメディアは米国の関心が台湾から離れたと推測しているが、2026年の「国家防衛戦略」は、インド太平洋における中国への対抗を最優先事項に掲げている。ホワイトハウスからのレトリックやシグナルに変化があったとしても、米国が台湾を見捨てる準備をしているという兆候はない。
結論
経験豊富な指揮官を一掃したことで、習近平への権力集中は一段と進んだ。しかしその代償として、軍内部から「米国と戦う準備はまだ整っていない」と忠告できる実力者がいなくなった。誰もが総書記の顔色をうかがうばかりで、軍の実態を直視できない「裸の王様」による独裁体制が、作戦の遂行能力を根本から危うくさせている。
短期的には、今回の粛清によって習近平への絶対服従が徹底された。しかしその一方で、軍の実戦能力が低下した可能性は高い。いくら力ずくで忠誠を誓わせたところで、侵攻の足かせとなっている根深い組織的問題や、他国による抑止力といった「壁」が消えるわけではない。台湾侵攻が北京にとって「負けるかもしれない危険な賭け」である事実は、何ら変わっていないのだ。
結局のところ、タイミングは習自身の判断に委ねられている。彼は歴史に名を刻むために攻撃を開始するかもしれないが、その決断は、同時に彼を「中国共産党を崩壊させた男」にする可能性も秘めている。

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