中国で臓器移植をめぐる不信感が再び広がっている。
発端は、中国の病院で行われたとされる講演の写真だ。壇上のスクリーンには「潜在的ドナーの評価と維持」(潜在供体的評估和維護)と表示されていた。講演者は、雲南省昆明市第一人民医院ICU所属の黄志剛医師だった。
この画像がSNSに出回ると、「人を物のように扱っているのではないか」「命を救うはずの医療が、臓器を確保する発想にすり替わっていないか」といった不安と怒りが一気に広がった。
多くの利用者が、「潜在的ドナーとは誰なのか」「維持とは何をすることなのか」と問いかけた。

国営メディアの説明によれば「潜在的ドナー」とは主に脳死と判定された患者を指し、「維持」とは人工呼吸器や薬剤などで臓器の機能をできるだけ良好な状態に保つ医療管理を意味する。制度上は、脳死判定を行い、家族の同意を得たうえで臓器を提供し、その間ICUで適切に管理するという流れだとされている。しかし、疑念は消えていない。
中国では毎年多数の臓器移植が行われているとされるが「それほど多くの脳死患者が本当に存在するのか」という疑問は以前からくすぶってきた。
官製メディアでは、子どもや若者が事故や急病の後に脳死と判定され、その臓器が短時間で複数の患者に移植された事例が、美談として繰り返し紹介されてきた.
「一人の死が、多くの命をよみがえらせた」「悲しみの中から希望が生まれた」といった語り口で伝えられてきたのである。
しかし、こうした報道が重なるほど「あまりに手際が良すぎるのではないか」という疑問も同時に広がり、不信を招いている。
「潜在的ドナーの維持」は集中治療の専門用語にすぎないのかもしれない。だが、多くの人にとってそれは、「助かるかもしれない患者」ではなく「将来の臓器提供者」という視点から人を見ているように響いた。
そこに強い違和感が生まれた。
事故や急病で運び込まれた家族が、いつの間にか「提供候補」として扱われるのではないか。治療と臓器確保の線引きは本当に明確なのか。
その境界が見えないことこそ、不安の正体である。

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