中国系米国人地震学者 中共に拘束 核実験探知研究めぐり波紋

2026/07/14
更新: 2026/07/14

中国系アメリカ人の地震研究者が、中国での学術交流を終えて帰国しようとした際に拘束された。この事件は、米中関係にとって重大な試練となっているだけでなく、国境を越えた科学協力に警鐘を鳴らしている。

ロイター通信は7月13日、この件を初めて報じた。米マサチューセッツ州ボストン在住で、北朝鮮の核実験を研究している中国系科学者の陳博士(フルネームは非公表)は、2024年11月5日、北京首都国際空港で中国共産党(中共)国家安全当局に拘束された。当時、陳氏は親族訪問と2つの大学での学術講演を終え、アメリカへ戻るところだった。

陳氏の妻、ユーファン・ロンさん、米国議会議員、2つの人権団体がこの事実を確認している。

陳氏は中国生まれで、2011年に米市民権を取得した。現在、陳氏は中共に約2年近く拘束されており、スパイ罪に問われている。

公開研究が国家安全保障問題に

この事件は、通常の学術研究であっても、国家安全保障上の問題に巻き込まれかねないことを浮き彫りにしている。とりわけ、核実験監視のような機微に触れる分野では、そのリスクが高い。

陳氏はこれまで、公開データをもとに北朝鮮の核実験を探知する研究成果を発表していた。この研究はアメリカ政府の資金提供を受けていたが、機密情報は含まれておらず、すでに公開している。

ロイター通信によると、関係筋は、アメリカ政府が陳氏を「中共に不当に拘束されたアメリカ市民」と正式に認定し、この案件を最優先の外交課題に位置づけたと明らかにした。

人権団体やアメリカ政府当局者は、中共による陳氏へのスパイ罪の容疑には信ぴょう性がないとみている。

陳氏の家族によると、ルビオ国務長官は陳氏の釈放に向けて働きかけを続けており、トランプ大統領もこの件について、習近平と直接協議したという。

ロンさんは、ホワイトハウスと国務省から、トランプ氏が5月に北京を訪問した際、習近平に夫の拘束について言及したとの説明を受けたと述べた。習近平は当時、この件を調査すると約束したという。しかしロンさんによれば、中共がこれまでに具体的な対応を取った形跡はない。

ロンさんは、中共当局は陳氏を裁判にかける前からすでに有罪と決めつけ、スパイ罪で有罪にする方針を固めているのではないかと懸念している。「いずれにしても、夫は有罪にされると思う。裁判も非公開で行われるだろう」と語った。

ロンさん自身も地震学者だが、夫の研究には関与していない。

ロンさんによると、在中国アメリカ大使館の職員がこれまで何度も拘置施設を訪問して面会している。しかし、面会のたびに中共当局者が同席し、陳氏が自由に話すことは許されない。また、ロンさんが依頼した中国の弁護士が陳氏と面会を許されたのは、拘束から13か月以上が過ぎた後だった。

核実験探知研究に中共が関心か

ロンさんによると、中共側は、北朝鮮の核実験に伴う地震波の特徴に関する陳氏の研究について、100回以上にわたって取り調べを行ったという。

ロイター通信が確認した陳氏の2020年12月発表の論文では、北朝鮮が実施したことが知られている6回の核実験のマグニチュードと、核実験による地震波の特徴を通常の地震波とどのように区別するか分析していた。

論文の表紙には、この論文はアメリカ国務省の軍備管理部門のために作成したものであり、「公開は承認されている」と記していた。

一部の国家安全保障専門家は、中共が陳氏を拘束した背景には、戦略的な狙いがあるのではないかとみている。

ロンさんのコンサルタントをしている人質支援団体「グローバル・リーチ」のメンバーで、元アメリカ国家安全保障当局者のエリック・レブソン氏は、中共は地下核爆発を隠蔽する技術、とりわけ「デカップリング」と呼ばれる技術に関心を持っていると指摘する。中共側は陳氏の専門知識を利用し、地下核兵器実験を隠蔽する能力を高めようとしている可能性があるという。

同氏によれば、同団体が相談した核実験の専門家も同様の懸念を示している。陳氏の研究の中心は、核実験によって生じる地震信号の探知と識別にあった。

中共は秘密核実験の実施を否定しており、陳氏に対する容疑の証拠も公表していない。

2026年2月、アメリカ政府は中共に対し、2020年6月22日に低出力の地下核実験を行い、それを隠蔽しようとしたと非難した。アメリカ側によると、中共は大型の地下実験施設内で装置を爆発させ、衝撃波の強度を低下させたという。

中共はアメリカと同じく、1996年の「包括的核実験禁止条約」に署名しているが、この核実験の実施は否定している。

レブソン氏によると、陳氏はアメリカ政府と契約する企業に勤務していたが、本人はアメリカで機密情報を扱う資格を取得したことはなく、機密性の高い業務に関わったこともない。

同氏は、北朝鮮の核実験に伴う地震波に関する陳氏の研究は、アメリカ国務省と空軍研究所の資金提供を受けたものだと説明した。この研究は中国の学者との共同研究として行われ、使用したのは公開されている中国のデータで、いずれもインターネット上で閲覧できるものだったという。

健康状態悪化 裁判は未開始

陳氏の家族や支援者は、拘束期間中に陳氏の健康状態が悪化していると訴えている。

ロンさんによれば、陳氏は拘束初期に過酷な扱いを受けた。長時間にわたり硬い椅子に座らされ、立ち上がることも、読書や運動をすることも許されなかった。また、糖尿病やその他の持病の治療に必要な薬も十分に受け取れなかったという。

ロンさんは、陳氏がどのような環境で収監されているのかを正確に把握するのは難しいとしながらも、体重は13~18キログラム減少し、食事も十分ではなく、タンパク質や果物、野菜も不足していると述べた。受け取れる薬も限られているという。

陳氏は2025年5月1日にスパイ罪で起訴されたが、現在まで裁判は開かれていない。

9月に予定している米中高官会談でも、陳氏の案件が再び取り上げられる見通しだ。

エド・マーキー上院議員は、2025年12月17日、他の2人の上院議員と共同でルビオ氏に書簡を送り、陳博士を「不当に拘束された人物」として認定するよう求めた。マーキー氏は、陳氏の安全と健康を深く懸念していると表明した。

マーキー氏は声明で、「陳博士が不当に拘束されていることへの関心を高めることで、中共政府に正しい判断を促し、陳博士の釈放につながると期待している」と述べた。

林燕