食への不安で「自給自足」 広がる農場経営ブーム 権力者には「特別供給品」

2011/05/10
更新: 2011/05/10

【大紀元日本5月10日】大連に住む72歳の李さんと妻はともに元大学教授。最近、夫婦は市内のちょっと変わったツアーに参加した。それは「ブタの放し飼い見学ツアー」。

「そこのブタはとっても清潔でよく動いていた。何よりも『天然』だ。安心して食べられる」。そう話す李教授はさっそく、ツアーの多くの参加者と一緒に、農家に豚肉の定期宅配を申し込んだ。

そんな李教授は家庭菜園にも精を出している。夏はナス、ピーマンといった定番野菜からヘチマやゴーヤ、冬はエンドウ豆やほうれん草など、年間を通じて多種多様な野菜や果物を育てている。「土いじりが楽しいというのもあるけど、毒肉や毒野菜が市場に溢れているから、身の安全を守るには『自給自足』せざるを得ない」

金持ちに広がる農場経営ブーム

李教授のように自前で「食の安全」をはかる人は中国で急増している。特に富裕層の間では、家庭菜園よりはるかにスケールの大きい農場経営ブームが広がり、ビジネスとしての側面を持つ一方、多くの人は「身内の安全確保」を第一に考えているという。

中国の大手ポータルサイト「網易」の丁磊CEOが先月、敷地面積1200ムー(80ヘクタール)の養豚場を建設すると発表した。丁氏が養豚場建設を思い立ったのは、2008年にある鍋料理店で食事中、出された「猪血(豚の血を固めたもの)」の色がおかしいことに気づき、気分の悪い思いをしたのがきっかけだという。養豚業者の不衛生な飼育環境や飼料の薬品濫用が頭をよぎった丁氏はその後、「合理的で有効な養豚法を探し出し、全国に広めたい」と話し、養豚場経営に乗り出した。

少し前の2月17日に、「京東商城」の劉強東CEOはミニブログで、故郷に5000ムー(333ヘクタール)の土地を購入し米を栽培すると公表した。劉氏は昨年にも700ムー(47ヘクタール)を購入し、自社社員用の米を作ってきた。

劉氏を5000ムー購入に駆り立てたのは、2月14日発行の「新世紀週刊」で明らかになった中国産米の「カドミウム汚染」の実態だった。記事では、国内で流通している国産米の約1割がカドミウムに汚染されており、しかもその流通が自由だと明らかにした。記事を読んだ劉氏は「自分で作るしかない。退職したらすべてのものは自ら栽培する」と話したという。そして2日後劉氏は5000ムーの土地を購入した。

また、北京では近年、郊外の順義区に一軒家を購入する富裕層が増え、そこで有機農場の開拓も盛んになっている。区内の「幸福園」では投資者にそれぞれテニスコートくらいの広さの「ミニ農場」を提供しており、そこで有機飼料を使って鶏やアヒル、豚を飼育する人も多いという。「幸福園」の管理者の楊丁さんは、「彼らにとって、北京で有機栽培や養殖を行うのは自分で食べるため。土地がもっと安い地方で大農場を買って経営するのは儲けるため」とその内情を明かした。

権力者には「特別供給品

庶民が自家菜園、金持ちが農場経営で「食の安全」を確保しているなかで、権力者たちは特権で自らの食卓を守っている。6日に掲載され間もなく削除された「南方週末」の記事で、その実態が浮き彫りになった。

記事によると、「幸福園」と同じ順義区にある広さ200ムー(13ヘクタール)の「税関ハウス」は北京の税関に野菜を供給する「基地」。周りが2メートルの塀と5人の警備に守られているこの野菜ハウスは、すでに10年以上、北京税関だけに野菜を供給している。

中国では、自家栽培の野菜は農薬を使っているので食べないという農民も多いが、南方週末の取材を受けた「税関ハウス」の人はキュウリをその場でかじってみせた。「有機肥料と生物農薬しか使っていない。ぜったいに安心だ」と自信たっぷりにアピールしたという。

「税関ハウス」以外にも、順義区には多くの政府機関の「特別食品生産基地」が点在する。また、このような特別階級となる政府職員を守るための特別生産拠点は、北京だけでなく全国に存在する。南方週末は、西安から30キロ離れた所に陜西省高等裁判所の専属農場があり、裁判所の職員は「無毒無害」の野菜提供が保証されている、と匿名の学者の話として伝えた。広東省の某政府機関は、野菜や果物のみならず、ブタや鶏、アヒル、魚まで専属基地で養殖している。北京市の孫さんは、10年前に自分が経営する家畜養殖場の空気・水・飼料を北京市委員会の専門家が測定に来て以来、ずっと中央指導部に食品を提供し続けていると話す。

2008年の北京オリンピックで食品を提供した103社の食品加工企業の多くは、政府機関と今も緊密な関係を保っている、と南方週末のアンケート調査で明らかになった。「特別供給品」を提供する企業は「安全確保・品質確保・納期確保・秘密保守」の4つの「保」が求められるという。

人々の食卓に忍び寄る農薬漬けの野菜、色素注入の果物、「痩肉精(塩酸クレンブテロール)」入りの飼料で飼育されたブタ、「牛肉膏」をふりかけて豚肉から作り上げた「見せかけ牛肉」などなど。完全な「自給自足」で「毒食品」のさまざまな危険から身を守るには、金と権力がないと難しい。一般庶民は、目を凝らして真偽を見極めるという「自己防衛術」に頼るしかなさそうだ。

(翻訳編集・張凛音)
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