2月の印パ対立、一時制御不能の瀬戸際に 米介入で回避

2019/03/20
更新: 2019/03/20

[ニューデリー/イスラマバード 17日 ロイター] – カシミール地方の領有権を争うインドとパキスタンの関係は2月末に急速に緊迫化し、一時は制御不能になりかねない状況に陥ったが、米政府の介入でより深刻な衝突は回避された──。ロイターが5人の関係者を取材した結果、2008年以降で東南アジア最悪の軍事的な危機となった今回の事態の全貌が明らかになった。

西側外交筋やインド、パキスタン、米国の政府当局者の話では、今回の対立で、インド側が一時、パキスタンに少なくとも6発のミサイルを発射すると脅し、パキスタンが「3倍返し」を示唆する場面があった。カシミール地方が、核を保有する両国の急激な関係悪化と戦争の引き金になりかねない、世界有数の「火薬庫」のままであることが浮き彫りになった。

幸いにも両国は威嚇だけにとどまり、発射を示唆したミサイルも通常弾頭のみだった。とはいえ、今回の事態は米国や中国、英国の政府関係者を大いにうろたえさせた。

インドとパキスタンの関係が緊迫化したきっかけは、2月26日にインド軍機が実効支配線を越えてパキスタン側のイスラム過激派拠点を空爆し、その翌日に両国戦闘機が交戦したことだった。インド軍機の越境は1971年の第3次印パ戦争以来。

パキスタン機はインド機を撃墜し、パイロットを拘束。数時間後に負傷したパイロットの画像がソーシャルメディアに公開されたことなどから、インド政府の反発が強まった。

4─5月に総選挙を控え、インドのモディ政権は強硬な態度を取らざるを得なかった。

今回、あるパキスタンの閣僚とイスラマバード駐在の西側外交官の1人はそれぞれ、インドがパキスタン領内の目標に6発のミサイルを発射するとほのめかしたことを認めた。インド側のだれが、パキスタン側のだれに対してメッセージを発したかは分かっていないが、この閣僚によると、インドとパキスタンの情報当局は戦闘中だけでなく、今もなお相互に連絡を取り合っているという。

またこの閣僚は「インドが1発発射すれば、われわれは3発反撃する。インドが何をしても、われわれは3倍にして仕返しすると述べた」と明かした。

折しもこの危機が勃発したのは、トランプ米大統領がハノイで北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との会談に臨んでいた時期に重なった。

ニューデリー駐在の西側外交官とインド政府高官は、ボルトン米大統領補佐官(安全保障問題担当)が2月27日夜と翌28日の2回にわたりインドのアジット・ドバル国家安全保障担当補佐官に電話し、対立を和らげるよう呼びかけたと話した。

その後ポンペオ米国務長官もインド、パキスタン両国に危機回避を求める電話をかけた。米国務省のパラディノ副報道官は「ポンペオ長官が外交的な働き掛けを直接主導し、両国の緊張を冷やす上で重要な役割を果たした」と強調した。

ニューデリー駐在の西側外交官や複数の米政府高官によると、米国の働き掛けは、パキスタンが拘束していたインド軍パイロットの早期解放と、インドにミサイル発射の脅しを撤回させることに集中した。

トランプ政権のある高官は「われわれは事態の危険性を完全に認識していたので、インドとパキスタンに事態収拾を促すことで国際社会を巻き込むために多大な努力を払った」と語った。

先のパキスタンの閣僚は、中国とアラブ首長国連邦(UAE)も関与してきたと述べた。

これらの動きを経て、2月28日にトランプ氏が危機は間もなく終わるとの見通しを表明。パキスタンのカーン首相が議会で、インド軍パイロットを送還する意向を示した。

いずれにしても複数の外交専門家は、今回の危機でインドとパキスタンが互いにシグナルを読み違える可能性があることや、両国関係の予測不能性があらわになったと指摘する。

元ホワイトハウス高官でもあるジョンズ・ホプキンス大学のジョシュア・ホワイト氏は「インドとパキスタンの首脳はずっと、対立抑止に向けたシグナルの相互理解が可能で、事態悪化を回避できると自信を見せてきた。(ところが)この危機に関する最も基本的な事実、狙い、意図した戦略的シグナルの一部が依然として謎に包まれているということは、危機が始まっても両国がたやすくコントロールできる態勢にはないという厳しい現実を思い出させてくれる」と分析した。

(Sanjeev Miglani and Drazen Jorgic記者)

Reuters
関連特集: 国際