大紀元時報

奄美、中国からの数千人大型クルーズ船誘致案 町長が断念を発表

2019年08月23日 18時40分
奄美大島の瀬戸内町・鎌田愛人町長は8月23日、記者会見を開き、大型クルーズ船誘致案を断念したことを発表した(スクリーンショット)
奄美大島の瀬戸内町・鎌田愛人町長は8月23日、記者会見を開き、大型クルーズ船誘致案を断念したことを発表した(スクリーンショット)

国土交通省が2年前から、鹿児島県の奄美大島南部・瀬戸内町(人口約8900人)に、中国から数千人あまりの訪日客を運ぶ大型クルーズ船の寄港誘致を持ちかけていた事案で、鎌田愛人町長は8月23日、記者会見を開き、誘致案の受け入れを断念したことを発表した。

町長は、住民の理解が得られなかったこと、第三者を含めた検討協議会からの寄港誘致案に関する7提言が、短期的には実現困難であることなどを理由に挙げた。「民意が反映されず、配慮に欠けた事務手続きが行われたことにより、事実に基づかない内容が住民に浸透した。(町と住民の)対立の構図もできた。長期的に不安と混乱を招いたことを、行政の責任者としてお詫びする」と町長は会見で述べた。

奄美大島は、アマミクロウサギやルリカケスなど、世界的でも奄美群島にしかいない希少生物が数多く住むことから、「東洋のガラパゴス」と呼ばれる。クルーズ船誘致案は、環境専門家からマスツーリズム(大規模な観光計画)は環境に不適合であると異を唱えていた。

瀬戸内町における大型クルーズ船誘致案は、2016年に奄美大島・龍郷町で取り消しになった案と類似するとの情報が住民の間で広まった。当時、ロイヤルカリビアン・インターナショナルが住民に提示したクルーズ船寄港地案は、数百億円を投じて港湾を整備し、約5000人を乗せた大型クルーズ船を週に2~3回来航するとの内容だった。

瀬戸内町は昨年から、住民代表組織と大学教授ら第三者となる専門家らを交えた「クルーズ船寄港地に関する検討協議会」(委員長・宮廻甫允鹿児島大学名誉教授)を重ねてきた。8月10日午後、5回目の協議会は7項目の提言を取りまとめ、同日に鎌田町長に提出した。

報道資料によると、7項目は、
1.自然環境・景観の保全・産業振興に向け専門家の意見を踏まえた適切な対策の検討 
2.キャリングキャパシティ(環境容量)評価を含む観光管理計画策定・治安維持を含めた適正な旅客の観光管理の検討 
3.奄美のブランド向上のための諸施策の検討・世界自然遺産推薦地への観光についての管理徹底の検討 
4.原則、加計呂麻島へのクルーズ船旅客入島を回避すること 
5.企画段階からの地元自治体・企業が参画できる仕組みの構築 
6.町民への計画周知、多様な意見を聴取する透明性のある組織づくりの検討 
7.協議会での委員の意見・要望について解決のための必要な措置を講じること

動画サイトで公開された協議会記録によると、委員からは「検討、検討、検討ばかりが並び、具体的な提言とはいいがたい」「加計呂麻島への入島回避について、警察や海上保安庁も『法律違反』を犯さないかぎり、制止は出来ないと聞いている」と、引き続き議論の余地を見せた。

宮廻委員長は「多くの意見を尊重した。意見を一本化できず、十分な提案ができたとは言えない」と話した。

3月に行われた、第4回の協議会では、クルーズ船社として世界大手ロイヤルカリビアン・インターナショナルの上級幹部が、協議会委員向けに非公開のプレゼンテーションを行った。町側は同社からプレゼン資料を後日公開したが、港湾開発計画や寄港する船の種類、来航頻度、投資額、地域にもたらす利益など関して、具体的な数字を示さなかった。

ロイヤルカリビアン・インターナショナルの資料は、民族風の踊りを披露するカリブ海地域住民の写真や、「美しい海」といったリゾート地域の印象像を提供するにとどまった。この資料を見た委員は大紀元の取材に対して「まるで植民地化を彷彿とさせるような資料だ」と憤りを見せた。

寄港地メリットが極めて低いクルーズ船

クルーズ船の訪日外国人のインバウンド消費は、一般客と極めて少ないことが、観光庁の資料で明らかになっている。2019年4-6月期の訪日外国人消費額によると、クルーズ客は宿泊費、飲食費、交通費、娯楽などサービス費が一般客と比べて0~5%あまりしかない。これらがクルーズ船内で充足されているため、寄港地への消費もごく限られている。

神戸大学の中村智彦教授もまた、7月12日のYahooニュース寄稿文書で、長崎市であった中小企業経営者から、海外からのクルーズ船寄港に関して、「百害あって一利なし」「(地域貢献など)とんでもない」と強く否定する地元の声を取り上げている。長崎市がさらに税金を投じて国際航路のバースを大型化にも疑問がもたれているという。

寄港地のクルーズ客は消費が非常に少ない。国際カジノ研究所所長でインバウンドビジネスに詳しい木曽崇氏は、クルーズ船による来訪客を「頭数(あたまかず)」で捉えることは意義がないと主張する。

木曽氏によると、クルーズ事業は乗船料・宿泊費・飲食代・船内での娯楽費の全てがワンパッケージになった料金システムがある。さらに、船外ではカジノなどのギャンブルの売り上げ、寄港地で乗客向けのエクスカーションツアーを販売する。

「逆にいうのならば、クルーズ事業者にとって各寄港地におけるエクスカーションツアーは貴重な収入源。そこで生まれる売上を寄港地側の事業者に簡単に渡さないだろう」

木曽氏は、見た目に「観光客数」だけを増やしても、地域の経済振興にほとんどならない。クルーズ船の誘客の為に大型の設備投資をしたところで、採算はあわないだろう、と同寄稿文で書いている。

(文・佐渡道世)

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