アングル:中国がSNS総動員、香港デモ批判を世界に拡散

2019/08/28
更新: 2019/08/28

Brenda Goh

[上海 22日 ロイター] – 上海に住む17歳の高校生ワン・インさんはこの4年、韓国の人気男性歌手グループ「EXO」の中国人メンバーを熱烈に応援してきた。そして最近、このメンバーの影響で、香港の抗議デモに反対する中国の立場を支持する「愛国者」を自任するようになった。

ここ数週間、ワンさんのような中国市民がインスタグラムやツイッター<TWTR.N>といった西側のソーシャルメディアに殺到し、「逃亡犯条例」改正をきっかけに始まった香港のデモに批判を浴びせてきた。

中国の視点から見た香港の状況を、海外に広く知らしめようという共産党政府の積極的な宣伝工作の一環で、国有メディアと中国の有名人、当局からお墨付きをもらった国内のネットユーザーが一体となって進めている。

<ロシアに比べてあか抜けない>

香港のデモの様子が中国国内で報道されたり、抗議活動の映像が流れることは、少し前までほとんどなかった。しかし、今では連日ニュースの主役の座を占め、ミニブログの「微博(ウェイボ)」では、最も多く閲覧された話題になるなど、状況は一変している。そこでは中国市民に対し、「香港に抗議しよう」と呼び掛けが行われている。

国有メディアは、香港の抗議活動を西側勢力や過激派に操られた「テロリスト」の仕業とみなすような記事や映像を、国内外にこれでもかと配信。ツイッターやフェイスブック(FB)<FB.O>などに香港デモを批判する有料広告を出した。

こうした政治宣伝についてツイッターやFBは20日、中国政府が使っていた大量の偽アカウントを閉鎖したと明らかにした。

中国本土では通常、ネットの使用が厳しく管理されている。ところがきわめて異例の措置として、香港デモを批判する場合は海外にもメッセージを拡散することを許されているもようだ。

オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)で中国のソーシャルメディアを研究するファーガス・ライアン氏は、「極めて愛国的な人々のみが自由な書き込みを許されており、コンテンツは検閲されない」と指摘。彼らは(デモを批判する)キャンペーンを実行し、オンラインを組織化できる。それが中国のネット規制システムの中で起こり、より幅広いネット世界に拡散している」と述べた。

もっとも、中国政府がどこに向けてこのキャンペーンを展開しているのか、果たして効果は出ているのかは分からない、と専門家は話す。

米サイバーセキュリティー対策を手がけるファイアアイ社の情報アナリスト、リー・フォスター氏は、ツイッターやFBにおける偽アカウントを駆使したキャンペーンは「今一つあか抜けない」と指摘。4─5年前にロシアが手掛けた偽アカウントによる宣伝工作とはあまりにも差があると付け加えた。

香港大学ジャーナリズム・メディア研究センターのキン・ワ・フー准教授は、このキャンペーンが香港の域内に与える影響力は非常に小さいのではないかとの見方を示した上で「香港では地元メディアのコンテンツを使う人が多い」と語った。

<中国メディアもこぞって批判>

EXOの中国人メンバーであるチャン・イーシンさんは先週、他の中国人セレブに追随する形で、香港警察と中国領土の主権を支持すると表明した。

熱烈なファンのワンさんは、ネットの親衛隊仲間とともに香港デモ批判を投稿し始めた理由として、「大好きなお兄さん(チャンさん)が中国をこれほど愛している以上、私たちファンも彼を応援しなければいけない。だから私はインスタグラムに『香港は中国の一部』、『暴力拒否』、『香港警察は最高!』などのメッセージを書き込んだ」とロイターに説明した。

中国のインターネット検索最大手、百度(バイドゥ)<BIDU.O>が提供する掲示板の「バイドゥティエバ」では、3130万人の会員に対して、香港デモを批判する投稿やスローガンで海外のソーシャルメディアをあふれさせようという提案が相次いでいる。

中国国営テレビのCCTVは18日、国内屈指の視聴率を誇る夜のニュース番組で、ネットのこうした動きを報道。ニュースキャスターは「このところアイドルファンの女性からバイドゥティエバ、ネット市民、海外の学生まで香港と中国を愛するあらゆる人たちが、香港を守るために一致団結している」と伝えた。

また国営の英語チャンネルCGTNや新華社、共産党機関紙の人民日報は、ツイッターやFBで活発に香港デモを批判したり、中国政府の見解を表明している。

CGTNは21日、「逃げ隠れしなければならないのは、良いことではなく悪いことだからだ」とツイートし、懲罰を避けるため身元を隠したいのだと語る説明文を付けて、マスクで顔を覆うデモ参加者たちの動画を流した。

Reuters
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