財閥が続々と「土地を寄付」 中国、香港で「新土地改革」企むか

2019/10/03
更新: 2019/10/03

香港メディア9月25日付によると、香港複合大手の新世界発展グループが、市民の住宅難を解決するために、香港政府に対して、総面積27万平方メートルの土地を寄付すると発表した。中国当局が今後、香港富豪に対して土地を収用する動きが加速し、香港で新たな「土地改革」に発展する恐れがあるとみられる。

背景

香港一の富豪、李嘉誠氏が9月12日、公の場で、香港の若い抗議者に対して「寛大に対処するよう」香港政府に呼び掛け、警察当局の暴力に対して暗に抗議した。

中国共産党機関紙・人民日報は同日、李氏への批判記事をすぐに掲載し、若者のデモ参加の原因は「住宅問題の深刻化」にあると主張した。記事は、香港不動産企業に対して「土地を買いだめしないことこそが、若者への寛大な態度だ」と李氏の発言を念頭に非難した。中国官製メディアは、「香港の土地の多くは不動産企業に握られており、香港政府の持つ土地は少ない」と問題の責任は香港富豪にあると主張した。

香港最大の親中政党、民主建港協進聯盟(以下は民建聯)は新聞紙に一面広告を出し、香港政府に対して「土地収用条例」を発動するよう促した。同条例を施行すれば、土地供給と市営住宅の供給が増えるとした。

「香港基本法」(憲法に相当)では私的財産権を保証しているため、香港立法会(議会)は「土地収用条例」について長年、論争を続けてきた。香港政府も条例の実施を躊躇してきた。

これを背景に、香港や本土の世論は、新世界発展が土地を寄付するとの発表に強い関心を寄せた。中国当局が、香港経済を牛耳る四大財閥を狙い始めたとの憶測が広がった。四大財閥とは、長江実業(集団)有限公司の李嘉誠氏一族、恒隆不動産有限公司の陳啓宗氏一族、恒基兆業不動産有限公司の李兆基氏一族と新世界発展の鄭裕彤氏(故人)一族。

寄付の裏

香港メディアの報道によると、新世界発展の鄭志剛(エイドリアン・チェン)副会長が25日、香港の住宅難を緩和するために、同社の農用地を政府に無償提供すると発表した。同氏は創業者・鄭裕彤氏の孫に当たる。

鄭副会長は、同社は株主の利益よりも、企業としての社会的な責任を果たさなければならないと強調した。同社が今回提供した土地は、保有する農用地全体の18%を占めるという。香港政府の農用地収用に関する補償金制度では、新世界発展が寄付した土地の価値は33億7200万香港ドル(約461億円)に相当するという。

新世界発展が土地を積極的に提供した背景には、同社が中国国内で、不動産や宝飾品販売など多角的に事業を展開している現状がある。中国当局の顔色をうかがわざるをえない。

同社は1989年以降、中国国内の不動産市場に進出し、20の省と市で次々と不動産事業を手掛けた。2015年12月、新世界発展は中国国内にある半分以上の土地資産を204億元(約3058億円)で中国不動産大手の恒大集団に売却した。現在、新世界発展は中国本土で不動産事業のほかに、高級宝飾品販売チェーン「周大福ジュエリー」を2800店舗も運営している。

財閥らの反応

中国当局と香港政府の土地収用方針に対して、恒基兆業不動産は9月27日、支持する意向を示し、今後、香港政府と宅地・住宅の供給増加について協議していくとした。

一方、恒隆不動産の陳啓宗会長はこのほど、同社の中間報告を発表する際、香港政府を痛烈に批判した。香港メディア「香港01」9月12日付によると、陳氏は「香港政府の愚かな政策」によって、現在の社会不安が引き起こされたとの見方を示した。同氏は、犯罪容疑者の中国本土への移送を可能にする「逃亡犯条例」改正案について、「香港政府が犯した深刻な政治的ミスだ」と指摘し、「中国当局と香港政府が理性的に対処できたなら、現在の混乱は避けられた」と主張した。

長江実業のスポークスマンは9月28日、「農用地に住宅を建てるには時間がかかる。市民はその恩恵を受けるまで長く待たなければならない」と述べ、「弊社は研究調査を行う必要がある」と答えた。スポークスマンは、李嘉誠基金会と同社はさまざまな方法で社会慈善活動を行ってきたため、今現在、土地の寄付を考えていないと話した。

李嘉誠氏は10月1日、北京で開かれた中国共産党政権設立70周年祝賀イベントへの出席を辞退した。代わりに、長江実業社長で同氏の長男、李澤鉅氏が参加した。

新「土地改革」か

米コロンビア大学のアンドリュー・ネイサン教授は9月30日、米誌「フォーリン・アフェアーズ」への寄稿で、中国の習近平国家主席の香港情勢をめぐる発言を紹介した。これによると、習氏は9月3日の党幹部会議で、「経済発展が、今日、香港で起きているすべての問題を解決する『金の鍵』である」「(香港に)軍を派遣することは、政治上では取り返しのつかない結果をもたらす」「(中央政府は)忍耐力と自制を持ち、香港政府と香港警察に危機を解決させていく」などと述べた。

中国当局に近い学者らはこのほど、米ラジオ・フリー・アジア(RFA)に対して、中国当局は香港情勢の混乱の主因は、政策や政治問題ではなく、収入の減少と住宅価格の高騰などの経済問題にあると信じていると話した。

大紀元のコメンテーターを務める李沐陽氏は、中国当局が住宅価格の高騰を口実に、香港財閥らを対象に、新たな「土地改革」を行う可能性が高いと分析。中国当局は、当局に同調しない李嘉誠氏に締め付けを強める恐れがあるとした。

中国共産党政権は1950年に行った土地改革で、資産家の財産を奪取し、数百万人の地主を殺害した。

(翻訳編集・張哲)
 

関連特集: