焦点:中国、新型コロナで試される労働者のセーフティネット

2020/04/18
更新: 2020/04/18

[北京 13日 ロイター] – 新型コロナウイルスの大流行により、中国ではさらに何百万人もの人々が職を失い、多くの人々がセーフティネットなしに取り残され、国の失業手当にアクセスできくなる──。複数のエコノミストがこうした見通しを示している。

アナリストらは、業務再開の停滞と世界的な需要の落ち込みによって、今年は3000万人近い雇用が失われると予想。これは2008─09年の金融危機時における2000万人強のレイオフを上回る規模だ。

中国当局は金融危機が発生してからの10年で失業保険申請プログラムを強化。最新のデータによると、雇用主と労働者の双方が拠出する基金の規模は5817億元(823億7000万ドル)と3倍になっている。

しかし、何百万人もの労働者が失業保険制度に加入していないか、拠出していないため、レイオフされた場合の補償については雇用主に依存せざるを得ない。職を失えば、多くが貯金に頼るか、親族に頼ることになりそうだ。

人事社会保障省によると、今年1─2月に失業保険を受け取った人の数は約229万人。エコノミスト・インテリジェンス・ユニットのダン・ワン氏によると、同時期に推定500万人が職を失ったという。

同氏によると、今年さらに2200万人が失業する可能性があるが、失業手当の受給資格がありそうなのは半数にとどまる見通しだ。

中国国務院(内閣に相当)にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

4月にネイルサロンの仕事をレイオフされた19歳の女性、シュエさんは「北京のような都市は家賃が高く、私には収入がない」と語る。しかし、勤務期間が長くないため、失業保険を申請することはできないという。

失業保険の加入者は、10年間拠出した場合、最大2年間にわたって給付を毎月受け取ることができる。拠出期間が短いほど、給付期間が短くなる仕組みだ。

<労働者の抗議活動>

この状況は、低賃金で労働集約的な仕事に就き、公的ヘルスケアへのアクセスが限られている約2億人の農村出稼ぎ労働者にとって特に深刻だ。彼らの多くは工場から締め出され、中国がウイルスを制御するために国の大部分を封鎖したため、都市の境界を越えることを禁じられた。

スタンフォード大学の研究者が推計したところによると、出稼ぎ労働者は今年初めの封鎖によって数週間にわたって労働できなかったため、既に最大1000億ドルの賃金を失っている可能性がある。

封鎖期間中にほぼ中断していた労働者の抗議運動は再燃し、業務が抑制されたタクシー運転手といった労働者による活動が特に目立っている。

オックスフォード大学のフェロー(中国法)、ミミ・ゾウ氏は「世界的に深刻な景気後退が迫っていることを考えると、賃金の未払いや社会保険料の未払いを招くような企業の閉鎖は労働争議を引き起こすだろう」と述べた。

中国の労働争議を監視しているChina Labour Bulletinのデータによると、3月に起きた労働者による集団抗議活動50件のうち、半数がサービス・運輸部門で起きている。中国のウイルス流行中心地である武漢で救急病院の建設に携わった人を含め、建設労働者も補償について抗議した。

販売減でフードコートでの職からレイオフされた北京の女性、ワンさん(56)は、55歳という女性の退職年齢を過ぎているため、契約に失業保険が含まれていなかったという。

ワンさんは「私は仕事ぶりのせいでクビになったのではない。私たちはウイルス流行のさなかにあり、誰の生活も大きな危険にさらされている」と語った。

(Gabriel Crossley記者、Cheng Leng記者)

Reuters
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