アングル:公益か利益か、コロナ薬レムデシビルが価格でジレンマ

2020/05/09
更新: 2020/05/09

Deena Beasley

[6日 ロイター] – 新型コロナウイルス感染症で、今のところ唯一効果が証明されたとされる治療薬「レムデシビル」を製造する米ギリアド・サイエンシズ<GILD.O>が、その価格設定を巡ってジレンマに直面している。

同社は2013年、C型慢性肝炎治療薬「ソバルディ」を1錠1000ドルで導入して不評を買った。同じ価格帯の既存薬に比べて効果が格段に高い薬ではあったが、それでも価格が不当に高いとの議論が全米で巻き起こり、以来、製薬業界は批判払拭に努めてきた。

米当局が新型コロナ患者についてレムデシビルの緊急使用を認めたことから、ギリアドは再び注目の的になった。

アナリストの推計では、レムデシビルの売上高は来年、世界で7億5000万ドル以上に達し、新型コロナの世界的大流行が続けば22年には11億ドルとなる可能性がある。しかしギリアドその他の製薬会社は、世界的な健康危機に便乗して儲けているとのイメージが広がるのを避ける必要がありそうだ。

コンサルタント会社ZSアソシエーツのエド・シューンベルド氏は「製薬会社にとって(業界イメージを向上させる)絶好の機会だ。薬価は圧倒的に悪い意味を浴びてきた」と言う。

ギリアドのダニエル・オデイ最高経営責任者(CEO)は慎重に事を進めている。同社は、米政府が全米の病院に配布するレムデシビルについて、少なくとも14万人分を寄付する方針だ。

5月1日のトランプ大統領との会合でオデイ氏は、レムデシビルが必要な患者に行き渡るようにすると約束。同社はまた、世界中の生産態勢を強化して年末までに100万人以上、必要なら来年末までには数百万人分を供給できるようにする狙いだ。

同社は価格設定についての計画は開示していない。

オデイ氏は最近の投資家向け電話会議で「今回のことは、業界の評判(向上)に役立つはずだと考えている」と話した。

<連邦政府の介入も>

米国でのレムデシビルの適正価格については、推計値に大きな幅がある。

臨床経済的評価研究所(ICER)は、現段階の臨床試験から得られる効果の度合いに基づくと、10日間の治療コースの最高価格は4500ドルになると推計している。

一方、消費者団体のパブリック・シチズンは4日、1日当たりの治療費を1ドルに設定すべきだと主張。それで「量産コストをまかなえるし、ギリアドに妥当な利益をもたらせる」ためだとしている。

ギリアドはレムデシビルの開発コストを約10億ドルと推計しており、一部投資家は、同社がこのコストを上回って利益を出すため、価格を1患者当たり4000ドル以上に設定すると予想している。

一部の専門家は、ギリアドが米国内の価格をこれより大幅に高く設定すれば、再び薬価を巡る議論の中心に立たされると予想。最も極端な場合には、連邦あるいは州政府が公衆衛生の名の下にレムデシビルの特許保護を無効化し、強制的な製造命令を出す可能性さえある。

米政府がそうした権利を行使した前例はないが、開発段階で連邦資金補助を受けたギリアドのエイズウイルス(HIV)治療薬2種類の特許を巡り、政府が同社を提訴したことがある。

コンサルティング会社ヘルス・テックGPSのエリック・カッツCEOによると、レムデシビルは元々、連邦政府の補助を受けてエボラ出血熱の治療薬を目指して開発され、現在は米国立衛生研究所を後ろ盾に臨床試験を行っている。このため、政府は再び同様の論法を用いる可能性がある。

米下院歳入委員会の健康小委員会で委員長を務めるロイド・ドゲット議員(民主党)は今週ギリアドに書簡を送り、レムデシビルについて供給問題、開発への納税者の寄与、購入や価格設定など、計画の詳細を示すよう求めた。

「米国の納税者はレムデシビルに多額の投資を行ってきたのに、治療を必要としている人々がその見返りに受け取るのは高額の請求書だけで、ギリアド側は大きな利益を得るということになりかねない」とドゲット議員は訴えた。

*内容を追加して再送します。

Reuters
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