アングル:コロナ・熱中症対策両立、「現場」飛び出す扇風機付き上着

2020/08/19
更新: 2020/08/19

白木真紀 新田裕貴

[東京 19日 ロイター] – 新型コロナウイルス感染防止のためにマスク着用は必須だが、猛暑による熱中症のリスク低減とどう両立させるか、製造現場では工夫を凝らして対策を強化している。暑さ対策がますます重要となる中、小型扇風機(ファン)付き上着は従来使用されてきた「現場」を飛び出し、日常生活にも広がり始めている対策商品で、今後の市場拡大が期待される。

<感染と熱中症の予防、現場で活躍のファン付きベスト>

自動車部品大手マレリ(旧カルソニックカンセイ、さいたま市)では、5月と7月に日産自動車<7201.T>の追浜工場内で働いていた従業員2人の新型コロナ感染が確認され、感染防止対策の工夫を続けてきた。

夏場になり新たにそこに加わったのが、熱中症対策だ。感染と熱中症の予防を同時に行うべく、現在、群馬工場では冷水機の使用を禁止し、小型冷蔵庫を各所に設置。冷蔵庫から自由に取り出せるペットボトルの麦茶を従業員1人につき1日2本、水着の素材でできた蒸れない高機能マスクを配るなどしている。

暑い場所で働く従業員にはファン付きベストの着用も推進している。同工場では、ほこりが舞い上がるためスポットクーラーが使えない工程で働く従業員、屋外でフォークリフトを運転する物流作業員、壁面が約65度の高温になる炉のそばを通って治具を運ぶ従業員らが、ファン付きベストに保冷剤を入れて熱中症を防いでいる。

熱中症になりやすい職場といえば屋外の建設現場が多いが、昨今では製造現場でも患者が増加。厚生労働省によれば、2019年の職場での熱中症による死傷者(死亡・休業4日以上)は829人。このうち製造業は184人と、過去10年で最多だった建設業の153人を初めて上回った。

支店の従業員2人が感染した三菱ふそうトラック・バス(神奈川県川崎市)の川崎工場のラインでも、以前はマスクと顔全体を覆うフェイスシールドの両方を着用していたが、7月以降はマスクを外し、あごから口元にかけて覆うマウスガードのみに変更した。これまでは溶接・塗装工程のみの従業員が着ていたファン付きベストを、組み立て工程などの従業員にも着用させている。

<ブランドとコラボも、「日常使い」への拡大に期待>

ファン付きの上着は、これまではもっぱら工事や工場などの現場で使われていたが、昨年頃から東京五輪での需要拡大も見込んだメーカーが増えたこともあり、市場が広がっている。

作業服などを取り扱うナカノ(横浜市)特販課の今井純子氏によれば、これまでは建設現場・工場などでの使用のために販売されていたが、今年は長袖・半袖・ベストタイプ、迷彩柄など一般向けのウエアが発売されており、今後は街・農作業・アウトドア用など日常の「熱中症対策に使われるのではと期待している」と話す。

ファン付き上着を開発したのは、空調服(東京・板橋)の市ケ谷弘司代表取締役。社名と同じ名前の付いた「空調服」の販売先は300社超に上り、昨年と今年は18年比で倍以上となる年間130万着超を生産している。

空調服広報の木内久美子氏によると、最近ではスポーツ・アウトドア・アパレルのメーカーなどからの問い合わせや海外販売の引き合いが増えているという。7月にアシックス<7936.T>がコラボ商品を発売。8月にはデザイナーの菊池武夫氏の手掛けるブランドとコラボしたプルオーバーブルゾンが約6万円で発売されたが、ネット販売は在庫切れの状態だ。

ネット通販サイトの楽天市場<4755.T>でも、「空調服」を含むファン付きベストの8月の売り上げは17日までですでに7月の約1.59倍に増えている。

(白木真紀、新田裕貴 取材協力:田実直美 編集:田中志保)

8月19日、新型コロナウイルス感染防止のためにマスク着用は必須だが、猛暑による熱中症のリスク低減とどう両立させるか、製造現場では工夫を凝らして対策を強化している。写真は扇風機付き上着を着用したマレリのスタッフ。7月30日撮影(2020年 ロイター/Naomi Tajitsu)

8月19日、新型コロナウイルス感染防止のためにマスク着用は必須だが、猛暑による熱中症のリスク低減とどう両立させるか、製造現場では工夫を凝らして対策を強化している。写真は扇風機付き上着を着用したマレリのスタッフ。7月30日撮影(2020年 ロイター/Naomi Tajitsu)
Reuters
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