焦点:米大統領選を左右するのは「前回棄権者」、両党が争奪戦

2020/10/26
更新: 2020/10/26

[21日 ロイター] – 米アイオワ州デモイン市の郊外に住むルアン・パットマントーマスさん(53)はこれまで、米国が戦争に突き進んだり、景気後退にあえいだり、初の黒人大統領が誕生したりと、さまざまな出来事を目撃してきた。それでも、大統領選で投票しなければならないとの思いに駆られたことは一度もなかった。

そんな彼女もこの10月、態度を変えた。大統領選の期日前投票に出向き、民主党候補のバイデン前副大統領に、いや、より正確には共和党の現職・トランプ大統領を追い落とすのに1票を投じたのだ。

「彼の政権は、この国を悪化させていく何かひどいものに火を付けた。私それを解決する一助になりたい」と刺しゅうの仕事で生計を立てている彼女は話す。

11月3日の大統領選でバイデン氏がトランプ氏を破るとすれば、彼女のような有権者の投票によるところが大きいかもしれない。

世論調査や期日前投票の様子を見ると、通常は選挙に参加しない米国民数百万人が、今年は傍観をやめる可能性がある。こうした有権者は大差で民主党支持に傾いている。

民主党系分析会社・ターゲットスマートによると、普段あまり選挙に参加しない、もしくは今回初めて参加する有権者約730万人が、20日時点で期日前投票を終えている。4年前の同じ時点と比べ、2.5倍以上の数だ。今年は新型コロナウイルス感染症への懸念から、各州は不在者投票や期日前投票の選択肢を広げている。

ターゲットスマートによると、これら投票を終えた人々のうち、民主党支持者が共和党支持者を16%ポイント上回っている。

同社のトム・ボニア最高経営責任者(CEO)は「より熱烈な支持を集めているのはだれか、どこで差がつくかという視点で見た場合に鍵を握るのは、選挙にあまり参加しないか初めて参加する有権者だ」と語る。

共和党側は、こうした数字を深読みし過ぎるべきではないと釘を刺す。今年はトランプ氏の主要な支持層である、大学を出ていない白人有権者の投票率も高くなる可能性があるからだ。

今年の大統領選は、前例破りの現象が目立つ。11月3日の投票日まで2週間弱の時点で、3500万人以上が投票を終えているのも異例だ。

民主党の選挙対策関係者らは、あまり選挙に参加しない有権者の動員という点で、今年は自分たちが有利だと考えている。2016年の大統領選でトランプ氏が意表を突く勝利を収めた経緯が、そう考える一因だ。

16年の選挙では、一般投票でトランプ氏の得票が民主党のヒラリー・クリントン氏を約300万票下回ったにもかかわらず、激戦州であるミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシン3州の合計7万8000票が決め手となった。結果的に選挙人票の獲得数で、トランプ氏がヒラリー氏に勝った。米大統領選は、50州および首都ワシントンに割り当てられる選挙人票総数538票の過半数を取った方が勝つ仕組みだ。

ウィスコンシン大の政治科学教授、バリー・バーデン氏によると、前回投票に出掛けなかった人々の一部は、トランプ氏が僅差で勝利したことで罪の意識にさいなまれた。「これらの人々は、4年前の出来事に仰天した。だから今回こそは、過去の後ろめたさを償おうとしている」と分析する。

一方のトランプ氏陣営も激戦州で、あまり選挙に参加しない有権者に攻勢を掛ける。例えば、ペンシルベニア州ではボランティアが家々を回ってこうした有権者に話し掛け、有権者登録や投票の方法、場所を教えている。

同州の投票記録によると、努力のかいあって、共和党の選挙登録者数は2016年に比べて差し引き20万人増加している。同州では長年、共和党が民主党に選挙登録者数で差をつけられてきたが、その差が1970年代以降で最も縮まっている。

共和党はフロリダ州とノースカロライナ州でも同様の運動により、選挙登録者数の民主党優位を浸食している。

政治状況が二極化する今、大統領選の勝者を決するのは、普段あまり選挙に参加しない有権者だとアナリストらは指摘する。

共和党の選挙ストラテジスト、パトリック・セバスチャン氏は、両党とも岩盤支持層からは強い支持を集めているが、それだけでは勝てないと指摘。「投票率の低い有権者の動員に最も成功した党が、勝つ公算が大きい」と述べた。

<もう傍観はしない>

米大統領選では通常、有権者の約40%が投票しない。16年もそのパターンだった。

フロリダ大の政治科学教授、マイケル・マクドナルド氏によると、16年の投票総数は1億3700万票と過去最多を記録したが、有権者登録ができるのに投票に参加しなかった人が1億人に上った。

調査によると、投票をしなかった理由として、政治に関心が無いから、米政府を信じられないから、一部の州で投票者に義務付ける身分証明書類を持っていないから、などが挙げられた。

一部の専門家によると、トランプ政権下で国が二極化したことで、今年は党派を問わず有権者が奮起し、投票率が大幅に高まる可能性がある。4年前に投票に参加しなかった数百万人もその一部だ。マクドナルド氏は、今年の投票総数が最多で1億5000万票に達すると予想した。

各種世論調査でも、今回珍しく投票する有権者は、バイデン氏支持の方がトランプ氏支持より大幅に多い。

中立的なピュー・リサーチ・センターが10月に実施した調査では、4年前に投票しなかった有権者の中でバイデン氏の支持率がトランプ氏を16%ポイント上回っている。前回投票した人々の中ではバイデン氏のリードが8%ポイントとなっており、その2倍の差だ。

そうした有権者の1人が、ウィスコンシン州に住むローリ・エドミソンさん(59)。パートタイマーとして小売業で働く彼女は過去に2度オバマ前大統領に投票したが、16年はヒラリー・クリントン氏に投票する気になれなかった。「彼女のことが信じられなかったから」と話す。

バイデン氏のことも、さほど熱烈に支持しているわけではない。しかし、トランプ氏への嫌悪感に突き動かされ、既に郵便投票でバイデン氏に1票を投じた。

「投票した大きな理由は、トランプを落としたかったから。彼はうそ八百。金持ちで権力者の友達のことばかり気にかけて、市井の人々には目もくれない。彼の悪い点は、まだいくらでも挙げられる」と語った。

ロイターが州ごとのデータを分析したところ、激戦州・ノースカロライナでは前回棄権し、今回既に投票した有権者のうち、民主党登録者の票は16万7000票以上と、共和党の9万4000票の2倍近くに達している。

民主党当局者からは、他の州でも同様の数字が報告されている。

<ドブ板選挙>

共和党側は、期日前投票の数字にはあまり意味がないと主張する。大事なのは最終結果であり、投票日には共和党支持者の投票が増えるだろうと言う。

コロナ禍により、民主党および無党派グループは対面で有権者登録を促す活動を控えている。しかし、共和党は対面の戸別訪問を展開し、支持層のほか、あまり投票しないか投票したことのない有権者に働き掛けている。

共和党の分析会社、マジョリティ・ストラテジーズが13日にまとめ、ロイターが閲覧したリポートによると、フロリダ州、ノースカロライナ州、ペンシルベニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州、ネブラスカ州下院第2選挙区の6カ所は、無党派の有権者のうち、既に投票を終えた人々よりも、まだ投票していない人々の方が、共和党に投票する確率が高い。ただ、まだ投票していない人々に対し、このまま棄権してしまわないよう説得するのは、より難しい作業だ。

そうした有権者を引きつけるのが、トランプ氏による大規模な選挙集会だ。同陣営幹部によると、13日にペンシルベニア州ジョンズタウンで実施した集会では、参加者の約23%がこれまで投票したことのない人々だった。18日のネバダ州カーソンシティの集会は、この割合が30%に達した。

トランプ氏陣営はこうした出席者を集会後の数日間で改めて戸別訪問し、対面で投票を呼び掛ける戦術を取っている。同幹部は「そうした家に有権者登録用紙や投票用紙を配る時にも、われわれは配布に確実に気が付いてもらうため、ドアもノックするようにしている。そこが違いだ。民主党はそれをやっていない」と語った。

(Andy Sullivan記者、Jarrett Renshaw記者)

Reuters
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