与野党で活発化する人権外交への取り組み ビザ制限や資産凍結も視野

2021/02/25
更新: 2021/02/25

今、日本の人権外交は大きな転換点を迎えつつある。与野党の議員は人道に対する犯罪をテーマとする外交問題研究チームを党内や超党派で結成しており、国外の専門家とも議論を交わし始めている。その背景にあるのは、中国共産党によるウイグル族の弾圧や、香港・ミャンマーの切迫した人権状況だ。日本の人権外交はこれまで、対外援助政策(ODA)を中心とした支援による人権尊重の推進が中心だった。しかし、中国共産党政権に代表される高圧的な人権侵害に対応するため、ビザ制限や資産凍結といった制裁手段を法制化する動きが活発になっている。

報道によると、自民党外交部会は2月初旬、人権外交プロジェクトチーム(PT)の初会合を開いた。佐藤正久・外交部長は、PTでは中国人権問題が中心議題であることをSNSで明らかにしている。人権侵害加担者に制裁を科す日本版マグニツキー法制定などが議題に上がったという。6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)までに党内意見をまとめる。

国民民主党は同月18日、従来の人権外交の柱である「対話と協力」では問題解決に至らないとして、ビザ規制や制裁を加える「行動」を伴う取り組みについて声明を発表した。同党は、強制労働を使った製品ではないことを保証する「人権デューデリジェンス」の必要性を訴えている。同党には、国際議員連盟である「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」の日本共同代表を務める山尾志桜里議員が人権外交政策案を牽引している。

超党派国会議員は1月26日、日本版マグニツキー法となる人権侵害制裁法の成立を目指す議員連盟発足を発表した。同日に開かれた準備会合の公開資料によれば、これまで国連安保理の決定に限り施行してきた制裁の枠組みを広げ、「人権国家」の立ち位置を明確にするという。

立憲民主党の枝野代表は1月と2月に、米国の対中政策専門家とオンライン会談を行った。このなかで、米専門家から「日本は(中国の)人権問題に対して、もう少し明確なメッセージを出すべきではないだろうか」と助言されている。立憲民主党公式ページによれば、会談にはボストン大学のロバート・ロス教授や戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問のボニー・グレイザー氏など、対中強硬姿勢を示す専門家が出席している。

日本共産党も、中国共産党の強権政治による人権問題について厳しい姿勢を示してきた。2019年4月には香港の弾圧の即時中止を求める声明を発表し、「丸腰のデモ参加者への実弾発砲は、言語道断の野蛮な暴挙」と批判した。2月1日にも、ミャンマーのクーデターについて非難する声明を出している。

人権外交とは、「人権尊重の促進を目的とする外交」「他国内で起こっている人権侵害の状況を是正しようとする意図を持って行われる外交的行為」を指す。1977年、カーター米大統領は、主に新興国に対する対外援助政策を進めるために看板政策として人権外交を取り入れた。しかし、カーター大統領は共産主義国との協力を期待して、人権侵害を伴う共産主義国の現状維持を黙認した。

近年、中国共産党の世界的な影響力拡大により、普遍的価値である人権が脅かされる状況下で、人権外交は開発援助など融和路線に限らず、制裁や断交、経済封鎖など強硬路線を取る必要性が高まっている。

北米や欧州諸国はすでに、共産中国に対して強硬な人権外交を取る傾向にある。米バイデン政権は、国家安全保障会議(NSC)に人権を担当する調整官を新設。中国共産党によるウイグル族弾圧はジェノサイドであるというトランプ政権の認定を引き継いでいる。

カナダ下院議会は2月22日、同様にジェノサイド認定決議を満場一致で採択した。1月には、強制労働者または強制労働によって生産された商品の全部または一部を、すべての国から輸入禁止とする方針を発表した。

英国のラーブ外相は12日、英国のサプライチェーンに中国の新疆ウイグル自治区の製品が流通することを防止するため、企業に対して新規則の導入を公表した。

中京大学法学教授の古川浩司氏は、日本の人権外交を考察した論文のなかで、片方の孤立に繋がりかねない二国間の人権外交は避け、国際的な人権基準をもとに多国間の実践が最も効果的だと指摘している。

日本の民間企業は、こうした人権侵害案件から関与を切り離す動きもある。2月21日付の共同通信によれば、衣料品チェーン「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングやソニー、日立製作所など大手小売り・製造業12社は、強制労働の関与を確認した中国企業との取引を停止する方針だという。

この決定について、国民民主党の玉木雄一郎代表は「日本企業12社の動きを歓迎したい。問題提起した新疆綿を使ったシャツの宣伝(無印良品)も削除されている」とSNSに書いている。

前出の超党派議員が形成した日本版マグニツキー法の成立を目指す超党派議連は、制裁法を「先進国の標準装備」と例えた。日本は従来の支援・対話型から行動を伴う人権外交への転換が求められており、その根拠となる立法が急がれる。

(佐渡道世)

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