オーストラリア、誘導ミサイルの国内生産に乗り出す

2021/04/23
更新: 2021/04/23

防衛力強化を目的として、オーストラリアは米国との緊密な協力により誘導ミサイルを国内生産する計画を発表した。背景には、インド太平洋地域における中国の主張と軍事力強化に伴い不安性が高まっている現状がある。

「世界的な環境の変化」を指摘したスコット・モリソン(Scott Morrison)豪首相は、同国が兵器メーカーと提携してミサイルを製造し、数千に及ぶ雇用機会と輸出機会を創出すると述べている。 モリソン首相の発表によると、向こう10年間の防衛と防衛産業への初期投資の一環として、豪政府は同計画に761億円相当(10億豪ドル/7億6,100万米ドル)を投じる構えである。

2021年3月下旬、同首相は、「オーストラリア国民の安全性を維持するためには自国の主権を守る能力を国内で生み出すことが不可欠となる」と述べている。 オーストラリアが高度ミサイルを最後に国内生産してから数十年が経過しており、近年では同国は兵器調達を米国などの同盟諸国からの輸入に依存していたが、現在、オーストラリアは敵ミサイルの『おとり』として機能する擬似ロケットを製造している。

独立系シンクタンクであるオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)で防衛・戦略・国家安保を担当するマイケル・シューブリッジ(Michael Shoebridge)主任は、今回の発表により戦略的ギャップが埋まると述べている。

シューブリッジ主任は、「これは『China(中国)』と『COVID(新型コロナウイルス)』という2つの『C』が起因となっている」と説明している。 同主任はまた、2019新型コロナウイルス急性呼吸器疾患パンデミックにより世界的なサプライチェーンの脆弱性が浮き彫りになったこともあり、中国の攻撃性の激化はオーストラリアにとって大きな懸念事項になっていると述べている。

同主任の説明によると、オーストラリアが最も差し迫った必要性にかられているのは軍艦や航空機から発射できる長距離対艦ミサイル(LRASM)であり、陸軍の新たな戦闘車両にもミサイル機能を搭載する必要がある。

米国との提携を通してオーストラリアが新世代の極超音速ミサイルを製造することは理に適っていると述べた同主任は、今後入札によって選定されると考えられる提携候補にはロッキード・マーティン社やレイセオン・テクノロジーズ社といった米国大手の防衛システム請負業者が含まれているが、たとえば推進機能といった特定システムの開発には他のメーカーが関与する可能性もあると説明している。

オーストラリア、米国、英国、カナダ、ニュージーランドは諜報活動設備や盗聴情報を相互利用するUKUSA協定(通称・ファイブアイズ)を締結している。 ピーター・ダットン(Peter Dutton)豪国防相は、「当国の最も重要な軍事提携諸国のニーズは日に日に増大している。当国の企業がオーストラリアとこうした提携諸国の両方のニーズを最も良好に支援できる方法を確実に理解できるように、当国はこの重要なイニシアチブに関して米国と緊密に協力を図っていく」と発表している。

ダットン国防相の説明によると、オーストラリアが兵器国内生産に乗り出したのは、自国の能力を強化するためだけでなく、世界的なサプライチェーンの寸断が発生した場合に備えて、戦闘作戦における十分な供給を確保するためである。

オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の見積りでは、オーストラリアは今後20年間にミサイルや誘導兵器の開発生産に8兆4000億円相当(1000億豪ドル)を費やす必要がある。オーストラリアが建造を計画している一連のフリゲートとアタック級潜水艦が完成するまで、この国産ミサイルにより、向こう10年間は同国は抑止力を得られることになると、シューブリッジ主任は説明している。

同主任の説明によると、紛争が発生した場合には、オーストラリアでは直ちに大量のミサイルが必要となり、輸入に頼っている時間的余裕はない。もし、中国が武力行使で台湾を支配しようとするなど、紛争は発生し得ると同主任は述べている。 同主任はまた、今回の発表は主要地点の脆弱性に対処するために能力と機能を分散させている米国の戦略にも適合すると話している。 

(Indo-Pacific Defence Forum)

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