中国が南シナ海の人工島を完全に軍事化:米インド太平洋軍司令官が確認

2022/04/11
更新: 2023/11/15

インド太平洋地域を管轄する米国統合軍の司令官は2022年3月下旬、中国が紛争海域の南シナ海に建設した複数の人工島のうち少なくとも3島が完全に軍事化されていると指摘した。対艦ミサイルシステム、対空ミサイルシステム、レーザー、信号・電波妨害(ジャミング)装置、戦闘機を装備して島を軍事化する行為は、近辺で活動するすべての国家をますます脅かす攻撃的な動きである。

中国共産党中央委員会総書記を兼任する習近平(Xi Jinping)はこれまで紛争海域の人工島に軍事基地を建設する予定はないと表明してきたが、米インド太平洋軍司令官のジョン・C・アキリーノ(John Aquilino)大将が指摘したところでは、この敵対的な事象は中国が公言した内容とは全く対照的である。

アキリーノ大将は、「これは過去20年間に、中国が第二次世界大戦以来実施した最大の軍事増強だと思われる」とし、「中国はあらゆる機能を高度化させている。この軍事力の増強により地域に不安定化がもたらされる」と述べている。

中国政府の主張によると、中国の軍事姿勢は純粋に防御的なもので、中国が一方的に自国領海と宣言した海域を保護するために装備されたものに過ぎない。しかし、何年にもわたり軍事費の増額を続けてきた中国は現在、米国に次ぐ世界第2位の軍事費を計上しており、J-20ステルス戦闘機、極超音速ミサイル、3度目の改装が実施されている空母2隻といった兵器システムで中国人民解放軍海軍の急速な近代化を図っている。

米国海軍の哨戒機に搭乗したアキリーノ大将は、世界最大級の紛争が発生している海域とされる南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)に中国が建設した前哨基地周辺を飛行した際に、中国が建設した軍事施設を自らの目で確認した。

P-8Aポセイドン哨戒機での偵察中、自称中国領土に不法侵入したことへの警告と撤退命令が中国の管制塔から米軍機に繰り返し通信された。無線通信を通して流れた警告の中には、「中国は南沙諸島と周辺海域の領有権を保持している。誤解の発生を避けるため直ちに退去せよ」という遠回しな脅迫も含まれていた。

複数の警告を却下して偵察を続行した米国海軍哨戒機のパイロットは、「当方はどの沿岸国の領空にも含まれない空域で合法的に軍事活動を実施している米国海軍航空機で、主権免除を有する」と中国側に無線で返答した。

同パイロットは、「同権利の行使は国際法により認められており、当航空機はすべての国家の権利と義務を十分に尊重して活動している」と述べている。

P-8A哨戒機が高度を4,500メートルまで落として中国占領下の岩礁付近を飛行したとき、高層の建物、倉庫、格納庫、港湾、滑走路、そしてアキリーノ大将がレーダーであると説明した白い円形の構造物で構成された小都市のように見える岩礁が一部に確認された。また、ファイアリー・クロス礁近くでは、40隻を超える不特定の船舶が明らかに停泊している様子が観察された。

アキリーノ大将の発言によるとミスチーフ礁スビ礁、ファイアリー・クロス礁におけるミサイル兵器、格納庫、レーダーシステム、他の軍事施設の建設は完了している模様だが、中国が今後も他の島々や岩礁に軍事インフラを建設するかどうかは今のところ不明である。

同大将は、「こうした島々の装備の目的は、中国の攻撃能力を自国沿岸よりも広大な範囲に拡大することにある」とし、「これで中国人民解放軍は戦闘機や爆撃機、そしてミサイルシステムのすべての攻撃兵器をここから発射できるようになる」と説明している。

同大将の説明によると、紛争海域上空を飛行する他国の軍用機や民間機が人工島のミサイルシステム射程内に知らずに入ってしまう可能性は非常に高い。

同大将は、「これが実在している脅威である。だからこそ、こうした人工島の軍事化が非常に懸念されるのだ」とし、「これにより近隣だけでなく、すべての公海や公海上空で活動するあらゆる国が脅かされる」と述べている。

中国はほぼ10年前から岩礁を埋め立てて軍事基地を建設することで、広大な南シナ海のほぼ全域の領有権を訴える自国の主張を補強することを企んできた。一方、米国は軍艦を同地域に派遣して「航行の自由」作戦を展開することで中国を牽制している。米国は南シナ海の領有権を主張してはいないものの、公海と公海上空での自由な航行・飛行を推進するために、数十年にわたり米国海軍の艦船や航空機を展開してきた。

毎年約500兆円(約5兆米ドル)に相当する物品が貨物で通過する南シナ海に関しては、ブルネイ、マレーシア、フィリピン、台湾、ベトナムも海域の全域または一部の海洋権益を主張している。

アキリーノ大将は南シナ海の領有権を訴える中国に対して比政府が裁判を申し立てた通称「南シナ海仲裁裁判」を例として挙げ、たとえ中国が侵略行為を犯していても、長年燻っている領有権紛争は平和的に解決するべきであると主張している。

同訴えを処理した常設仲裁裁判所は国連海洋法条約に基づき、歴史的根拠を理由とした中国の領有権主張は無効との裁定を言い渡した。国連も同裁定を支持しているが、中国政府は依然として判決に異議を唱えている。

アキリーノ大将が説明したところでは、同紛争海域に関して、米国は抑止により「戦争勃発を防止」し、平和と安定を推進することを主な目的として掲げている。これにはこの米国の取り組みに同盟・提携諸国を関与させることも含まれる。

38万人の軍人と民間人で構成され、36に及ぶ国と地域を管轄する米国最大の統合軍を率いるアキリーノ大将は、「抑止に失敗した場合は、戦って勝利する準備を整えることが自身の次善の使命となる」と述べている。

Indo-Pacific Defence Forum