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ドルの王座は揺らぐのか? 米中対立は「ドルVS人民元」の新局面へ

2025/07/25
更新: 2025/07/25

トランプ米大統領の関税政策が世界のサプライチェーンと貿易の再編を促す中、中国は新たな戦場として人民元と米ドルの覇権争いに目を向けた。

先月、上海で開かれた主要経済フォーラム「陸家嘴フォーラム」で、中国人民銀行の潘功勝総裁は、人民元の国際化推進への関心を改めて表明した。

アメリカ在住で長年中国ビジネスに携わり、外国投資家や貿易業者への助言経験を持つ実業家マイク・サン氏によると、通貨の覇権、特にデジタル領域での主導権が、米中貿易戦争の次の焦点になるという。中国当局からの報復を避けるため、彼は仮名を使用した。

米国シンクタンクのミルケン研究所のチーフエコノミスト、ウィリアム・リー氏も同意する。

リー氏は、エポックタイムズに対し、制裁への懸念が中国当局に人民元を利用した代替的な国際決済システムの構築を促していると指摘した。中国はデジタル通貨が普及する前に制裁を科されるリスクを懸念しているという。

こうした懸念は、北京の政策決定者にとって、最重要課題である。

6月に上海で行われた講演で、中国の中央銀行総裁は「従来型の国際決済インフラは容易に政治化され、武器化され、一方的な制裁の手段として利用され得る」と警鐘を鳴らした。

中国の著名なエコノミストである連平氏も、5月下旬の論考で「金融制裁と対抗措置は、米中競争の次の戦場になる可能性が高い」と警告した。

サン氏によれば、これらのエコノミストは単なる学者ではなく、中国共産党(中共)上層部と結びついたシンクタンクを形成し、政権の動きを予告し意図を読み解く役割を担っている。

連氏はさらに、アメリカがまず一部の中国企業に制裁を科し、その後対象を拡大、最終的には中国を米ドル決済システムから排除する可能性に言及した。米ドルは、世界の基軸通貨であり、国際金融取引の中枢にある。

リー氏によれば、BRICS加盟国が中国に資源を輸出し、中国から電気自動車(EV)を輸入することで、人民元建ての代替貿易システムを形成することが可能だという。

BRICSは、中国とロシアを中心に、アメリカ主導の西側民主主義に対抗するためのブロックで、ブラジル、インド、南アフリカ、サウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦、エチオピア、インドネシア、イランも加盟している。

「ドルを王座から引きずり下ろす」というBRICSの理念は、アメリカにとって現実的かつ重大な脅威であり、これがトランプ大統領が、これらの国々に追加関税を課す理由だとリー氏は語った。

7月7日、ブラジル・リオデジャネイロで開かれたBRICS首脳会議で、集合写真を撮影した加盟国、パートナー国、オブザーバー国の首脳 (写真:Pablo Porciuncula/AFP via Getty Images)

今回のブラジルでの首脳会議で、BRICS加盟国は、7月6日、アメリカを名指しせずに関税を批判する共同声明を発表した。

その直後、トランプ大統領は、Truth Socialに「BRICSの反米政策に同調する国には、追加10%の関税を課す」と投稿。数日後、彼はさらに、創設メンバーであるブラジルに対し、トランプ氏の盟友であるジャイル・ボルソナロ元大統領の継続中の裁判を理由に、50%の関税を課すと警告した。

7月8日の閣僚会議で、トランプ氏は「BRICSはドルを破壊し、別の国を基軸通貨にしようとしている」と述べ、「もし世界基準のドルを失えば、それは大規模な世界大戦に敗れるのと同じだ。我々はもはや同じ国ではなくなる」と強調した。

関税戦争の行方

リー氏によると、トランプ政権が世界的な相互関税を導入した当初、関税は「ほとんどの人にとって全く未知の言語」だった。しかし今では「世界中が最低10%の関税を受け入れている」とし、「最終的な関税率の数字よりも、新しい貿易秩序の確立こそが重要だ」と語った。

「重要なのは、新しい建物ができたということだ。この新しい建物は、より分散化された貿易システムであり、アメリカへの資本流入を促進する仕組みだ。これはWTOに欠けていたものだ」と同氏は述べた。

世界貿易機関(WTO)によると、トランプ氏の2期目の初め、アメリカが課していた平均関税率は3.4%だった。当時の国際貿易システムは、アメリカへの輸出には低関税を適用し、他国が高い関税や非関税障壁を課すという構図だった。

現在、米政権は関税交渉の期限を7月9日から8月1日まで延長しており、さらなる延長はしない方針だ。それまでの間、基準関税率は10%に据え置かれる。トランプ氏はこれまでに数十か国に関税通知を送り、その税率は20~50%の範囲を設定している。

サン氏は、この方法を「ブラインドボックス方式」と呼び、関税率は通知を受け取って初めて明らかになると説明し、「この方法は非常に効果的で、コストも最低限だ」と評価している。

サン氏は、トランプ氏が、自分こそが意思決定者であり、他国は彼の枠組みの中でしか意見を述べられないというメッセージを発していると述べた。

「最終的には、中国も含めてすべての国がトランプの枠組みに同意するだろう」と、彼はエポックタイムズに語った。

ヒューストン大学セントトーマス校 国際関係学教授 葉耀元氏は、これらの貿易交渉を「新たな冷戦の前兆」と見ており、世界はアメリカ主導と中国主導の2つの陣営に分かれると予測した。

米英の貿易枠組み協定では、両国は「第三国の非市場政策」への対応を通じて、経済安全保障を強化することで合意した。中国の名前は出していないが、国有企業の保護や過剰生産能力の世界市場への投げ売りで知られるところだ。

5月8日、ホワイトハウスの大統領執務室で報道陣に話すトランプ大統領(写真:Anna Moneymaker/Getty Images)

専門家によると、米中間で関税率の交渉余地はほとんど残されていないという。

進行中の議論には、中国がレアアースをアメリカ製半導体と交換し、サービス業(特に銀行・投資)をアメリカに開放する案が含まれている。

中国は数十年にわたり、レアアース市場で事実上の独占状態を維持してきた。これは、外国企業を市場から追い出す略奪的な慣行によるものである。中国はこうした重要鉱物を貿易戦争の武器として利用してきたのだ。

しかし、アメリカは官民パートナーシップや許認可手続きの迅速化を通じ、このボトルネックを解消するために大きな進展を遂げようとしている。

アメリカで唯一稼働しているレアアース鉱山(カリフォルニア州マウンテンパス)を所有するMPマテリアルズは、7月10日、4億ドルの投資と国防総省からの1億5千万ドルの融資を発表した。今後10年間、アメリカ政府は、同社のレアアース生産物を最低価格で購入し、最低限の利益率を保証する。

事実上、この官民パートナーシップは、中国の動きに関わらず、アメリカの「国家チャンピオン」を維持することを目的としている。

アメリカは中国との間で、サービス分野において、貿易黒字を持っている。アメリカ国勢調査局によると、昨年、中国はアメリカとモノの貿易で約2千960億ドルという巨額の黒字を計上したが、一方でサービス貿易では約330億ドルの赤字があり、これを一部相殺する。

中国政府は、アメリカとの貿易交渉での交渉材料として、サービス産業のさらなる開放を検討中だ。連氏によれば、この市場開放は中国にとっても有益な戦略だという。

彼は記事の中で、金融市場をさらに開放することで、中国の「粘着性(結びつき)」が高まり、「制裁不能なほど大きな存在」になると述べた。

しかし、サン氏とリー氏によれば、関税をめぐる争いは主に通貨に焦点が当たるだろう。なぜなら、アメリカには約37兆ドルという過大な債務という大きな弱点があるからだという。

☆冶金用石炭の開発を手掛ける米ラマコ・リソーシズは7月11日に、ワイオミング州ランチェスター近郊のブルック鉱山(4千500エーカー)で450トン以上のレアアース採掘を計画している( John Haughey/The Epoch Times)

ドル覇権の防衛

現在、米ドルは、世界の基軸通貨であり、国際貿易における主要通貨でもある。この地位によって、アメリカは低金利で多額の借入を行うことが可能になっている。
しかし、アメリカの債務水準は極めて高く、年間の利払いは国防費を上回る。

財務省によると、2024会計年度(2024年9月30日終了)において、アメリカは債務利払いに8千820億ドルを支出し、国防費の8千740億ドルを超えた。

このことから、米ドルの役割はさらに重要になり、通貨への信頼が揺らげば、アメリカは債務不履行に陥る恐れがある。

財務省によれば、中国は7千560億ドルのアメリカ国債を保有し、香港は2千530億ドルを保有している。さらに、サン氏は、中国が欧州の金融機関を通じて購入している不明分を含めると、日本の1兆1千億ドルを超えて世界最大のアメリカ国債保有国だといえる。

JPモルガン・チェースの4月の報告書によると、一般的な認識とは異なり、「中国はアメリカ国債の保有を減らしていない。保有は、より目立たない形になっているだけだ」という(原文中国語の翻訳による)

したがって、市場が米ドルへの信認を失う重要な局面で、中国はアメリカ国債を売り払う可能性があり、もし買い手が中国の売却を受け止められなければ、金利を押し上げることになるだろう。

米ドルの基軸通貨としての地位が揺らげば、ワシントンの借入能力はさらに弱体化するのだ。

中共はこの点を理解しており、人民元で米ドルを置き換える取り組みを何年も前から進めてきた。

2015年には、人民元決済のための「国際銀行間決済システム(CIPS)」を開始したが、規模や世界的な普及度では、米ドル建ての「クリアリングハウス銀行間支払いシステム(CHIPS)」には及ばない。それでも中共のCIPSは拡大を続けている。

昨年7月9日、中国人民銀行本部前を歩く女性 (Adek Berry/AFP via Getty Images)

ピーターソン国際経済研究所(PIIE)によると、CIPSを通じた月間の金融取引額は約7千億元で、2021年のほぼ2倍に達した。しかし、その規模は、CHIPSを通じた1日あたり1兆8千億ドル、または月間5兆ドル超の取引額と比べれば、依然として取るに足らないものだ。さらに、CIPSは決済メッセージの送信において、アメリカ主導の国際銀行間通信協会(SWIFT)に大きく依存していた、とPIIEは指摘している。

さらに、中共は、デジタル通貨の世界が新たな競争の舞台になると認識し、2022年にはデジタル人民元を導入した。

サン氏によれば、アメリカは今、より多くの非中国勢にアメリカ国債を保有させ、現実世界と仮想世界の両方でドルの基軸通貨としての地位を守る必要があるという。

彼は、「ステーブルコイン」と呼ばれる暗号資産の一種が、この課題に対する「創造的な」解決策だと述べた。

また「ステーブルコインは理論上、アメリカ国債を無制限に購入することが可能だ。限界はない」と述べた。

ステーブルコインとは、法定通貨に1対1で連動するデジタル通貨である。発行体は、保有者がいつでも現金に交換できることを保証している。したがって、ステーブルコインは、デジタル通貨の分散性や低コスト性と、従来の法定通貨の安定性を兼ね備えている。

アメリカのシンクタンク「アトランティック・カウンシル」によると、現在、ステーブルコインの98%が米ドルに連動し、その80%はアメリカ外で発行されている。利用者は銀行を経由せず、母国通貨の不安定さを回避できる。例えば、アルゼンチンのカフェやベトナムの小規模事業者は、米ドルに直接連動したデジタル通貨で取引できるのだ。

暗号資産取引所「CEX.io」によると、昨年のステーブルコイン取引額は27.6兆ドルに達し、VisaとMastercardの合計取引額を7.7%上回った。

2022年2月17日、中国・北京の「New Actuation Fintech Center」にあるカフェ近くで見られたデジタル人民元の表示 Jade Gao/AFP via Getty Images)

ステーブルコイン発行体は、デジタルトークンと引き換えに受け取った米ドルを投資することで収益を上げており、すでにアメリカ国債の重要な保有者となっている。財務借入諮問委員会の4月の報告書によると、彼らはすでに1千200億ドル以上のアメリカ国債を保有し、2028年までに1兆ドルを超える見込みであり、中国や日本を上回る最大のアメリカ国債保有者になる可能性がある。

香港はまだ独自のステーブルコインを発行していないが、2か月前にステーブルコインに関する法律を可決した。中国の国営メディアによると、アントグループやJD.com(京東)といった中国の大手企業は、この法律が8月1日に施行され次第、発行者としての申請を行う予定だ。

一方、アメリカでは、7月17日にステーブルコイン発行者の規制枠組みを定める画期的な暗号資産法案「GENIUS法」が成立し、翌日署名した。同法は、発行体に対し、デジタルトークンを現金またはアメリカ国債で裏付けることを義務付けた。

スコット・ベッセント財務長官は6月にXで、「ステーブルコインはドルの覇権を強化できる」と投稿した。

サン氏によれば、ステーブルコインを活用することで、米ドルは、現実世界から仮想世界にその支配力を拡大し、中国や日本に匹敵する規模で、アメリカ国債の新たな買い手を確保する。彼はこの戦略を「天才的な一手」と呼んだ。

Terri Wu