日本、台湾、フィリピンに連なる第一列島線が、米中の海洋覇権争いの最前線となっている。中国共産党(中共)が海軍の増強と港湾・物流網の拡大を進めるなか、米国は無人兵器や対艦ミサイルを活用した防衛態勢と、同盟国との海洋安全保障網を強化。軍事力と補給網の両面から、中共の海洋進出に対抗しようとしている。
中共は近年、「海洋強国」戦略を掲げ、海軍の増強を「中国式現代化」の軍事面の柱と位置づけてきた。大陸国家としての制約を克服し、第一列島線の突破を狙っている。
だが、海上貿易、海外港湾の活用、軍事力の展開を一体化させた海洋進出に対し、アメリカは対抗措置を強めている。米軍は「非対称の消耗戦」を重視するとともに、アメリカはアジア太平洋の同盟国と「海洋同盟」の構築を進めており、第一列島線は米中の海洋覇権争いの最前線となりつつある。
南シナ海・台湾・東シナ海で強まる中国の軍事的圧力
南シナ海では最近、中共軍の活動が急増している。フィリピン政府は10月8日、同国が領有権を主張する海域で、9月に確認された中国共産党軍の海軍艦艇と海警局の船舶の数がほぼ倍増したと明らかにした。中共軍のJ-16戦闘機がフィリピンの哨戒機に異常接近する事例も発生した。フィリピン軍によると、最接近時の距離は約100メートルだった。
台湾周辺でも、軍事的圧力やグレーゾーンでの威圧行為が常態化している。台湾国防部は7日、中共軍の艦艇6隻、公船1隻、軍用機延べ3機を台湾周辺で確認し、このうち軍用機1機が台湾南西の空域に侵入したと発表した。
東シナ海では、日本の防衛省によると、中共軍のY-9情報収集機などが長崎県や沖縄県の周辺空域を頻繁に飛行している。中国の海洋調査船が尖閣諸島の西側や南西諸島周辺の排他的経済水域(EEZ)に進入する事例や、日中中間線の中国側で移動式掘削船が設置される事例も相次いでおり、日本政府は強く抗議している。
注目すべきは、中国共産党が軍事的な威嚇にとどまらず、軍艦や航空機、潜水艦の長期的な活動を支える海洋インフラの整備を進めている点である。
ロイター通信は10月2日、衛星画像の分析に基づき、中国が西沙(パラセル)諸島の係争海域にあるアンテロープ礁で、滑走路関連施設などの大規模な建設工事を加速させていると報じた。8月時点では、第1段階の工事により全長約6キロの人工島が形成されていた。近くのヤゴン島でも、早期警戒レーダー施設を確認している。
中国の「海洋強国」戦略 海軍を支える港湾・物流網
中共党首の習近平は、2012年の就任直後から「海洋強国」戦略を推進してきた。2017年に海軍司令部を視察した際には、近代化された海軍を海洋強国建設の「戦略的な支え」「拠点」と位置づけ、世界一流の海軍を目指すよう求めた。
台湾の中華海巡協会秘書長で、中央警察大学教授の葉雲虎氏は、大紀元の取材に対し、中国共産党の手法はマハンの「海上権力論」そのものだと指摘した。葉氏によると、海洋パワーとは海軍力だけを指すものではない。製造・生産能力、商船と物流網、海外市場、航路を守る艦隊、海外基地までを含む総合力である。
米海軍大学や、ワシントンの政策当局、シンクタンクも、中国共産党は単に軍艦を増やすだけでなく、複雑な「海洋パワーの生態系」を構築しているとみている。葉氏は、この生態系を構成する要素として、軍艦、世界各地の軍用・民間港湾、世界規模のサプライチェーンと物流の掌握、深海インフラと造船能力の4つを挙げる。
なぜ中国は海洋進出を目指すのか 海運とエネルギー輸送への依存
国連貿易統計や米戦略国際問題研究所(CSIS)によると、中国の貨物貿易は、重量ベースで約9割、金額ベースで6割超を海運に頼っている。2024年には、原油輸入の約92%が海上輸送によるもので、その約8割がマラッカ海峡を通過した。
ジャーナリストで中国問題専門家の李庭仟氏は、中国の貿易、エネルギー輸入、製造業、サプライチェーンはいずれも海運に大きく依存していると指摘した。中国共産党は「海上の生命線」を確保し、中国経済の命運を他の海洋国家に握られる事態を避けようとしているという。

第一列島線の突破が日本・台湾の安全保障に及ぼす影響
中国共産党がまず突破を狙うのは、日本、台湾、フィリピンに連なる第一列島線である。これらの国・地域は、アメリカにとって重要な安全保障上のパートナーでもある。イギリスの国際戦略研究所(IISS)のロバート・ウォード上級研究員は、中国は「やや包囲された状態」にあり、「明らかにこの封鎖を突破したいと考えている」と述べる。
米海軍協会の機関誌『プロシーディングス』は2014年、退役海軍将校バーナード・D・コール氏の見解として、中国海軍は第一列島線の内側の海域を支配下に置き、2020年までに第二列島線へ勢力を広げ、2050年までに空母打撃群を擁する世界規模の海軍を目指していると伝えた。
アメリカの政策当局や軍幹部が以前から警戒しているのは、中国共産党が第一列島線の内側に兵力と対艦弾道ミサイルを集中配備している点である。強力な「接近阻止」能力によって、台湾有事の際にアメリカや同盟国の介入を断念させようとしているとみている。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、台湾の将来は経済・地政学の両面で日米の安全保障と密接に関わっており、第一列島線の突破は、日本と台湾を支えるアメリカの利益にも深刻な脅威をもたらすと分析する。ウォード氏も「台湾が中国の手に落ちれば、アジアの勢力均衡は明らかに北京に傾く」と警告した。
葉氏は、第一列島線が突破されれば、中共軍は米軍のような世界規模での戦力展開を進められるようになるとみる。「世界の工場」としての中国経済を支える貿易航路や、エネルギー輸送の生命線を確保し、世界経済と各国の戦略に決定的な影響力を及ぼすようになるという。
軍の第一列島線防衛 無人兵器・対艦ミサイル・分散作戦
アメリカの2026年国家防衛戦略は、第一列島線に沿って相手の進出を阻む「拒否による防衛線」を構築することを、アジア太平洋戦略の柱に正式に位置づけた。葉氏は、第一列島線の維持がアメリカの太平洋大国としての地位に直結するため、米軍はその突破を阻止することを極めて重視していると指摘する。
葉氏によると、米軍はウクライナ戦争の教訓を踏まえ、空母打撃群などの大型水上艦隊で正面から対峙する従来の戦術を見直している。中共軍の非対称的な抑止手段に対し、米軍側も非対称的な手段で相手を消耗させる方針である。葉氏は、この防衛態勢を次の3層に整理する。
第1の層は、無人システムによる防壁である。葉氏によると、台湾有事の際には、低コストの無人艇や無人潜水機、ドローンを大量に投入し、強力な攻撃能力を備えた防壁を短時間で築く。中共軍の上陸部隊の先鋒を一気に無力化する、いわゆる「地獄絵図をつくる」構想である。
第2の層は、海兵沿岸連隊(MLR)である。海兵隊を、装備を軽量化した秘匿性の高い機動部隊へ再編し、部隊の前方展開と島しょ間の機動を組み合わせる。宮古海峡やバシー海峡などの周辺の島々に、車両搭載型の対艦ミサイルを配置する戦術である。葉氏は、これにより第一列島線が、中共軍の艦隊による外洋進出を封じる「鍵」になると説明する。
ディフェンス・ニュースによると、第3海兵沿岸連隊は2025年、海軍・海兵隊遠征艦艇阻止システム(NMESIS)を初めてフィリピンのバタネス諸島に展開し、2026年には展開先を3島に広げた。沖縄の第12海兵沿岸連隊もNMESISを配備済みである。今月下旬の日米共同統合演習「キーン・ソード」では、台湾からわずか110キロの与那国島に展開する。
第3の層は「分散型海洋作戦(DMO)」である。艦隊を一か所に集中させず、空母や水上艦、原子力潜水艦を第二列島線や中部太平洋に分散配置し、各艦艇や航空機がそれぞれ独立して作戦を遂行できる態勢を整える。中共の地上配備型弾道ミサイルによる、大規模な精密攻撃を困難にする狙いである。

中国企業の海外港湾進出 米国が警戒する物流網と情報流出
アメリカは作戦面の転換に加え、国防関連の法規制や産業政策を通じて、中国に依存する「赤いサプライチェーン」の排除にも本腰を入れている。中共が民主主義制度の抜け穴を利用して技術を入手したり、港湾ネットワークに浸透したりするのを防ぐためである。
米国防総省は2025年初め、中国遠洋海運集団(COSCO)などを「中共軍事企業」リストに追加した。今年6月からは、国防権限法(NDAA)に基づき、掲載企業とのあらゆる取引を禁じている。米通商代表部(USTR)も、通商法301条に基づき、中国製船舶に入港料を課す措置を進めている。
米通商代表部の2024年報告書が引用した調査によると、中国企業は53か国の96港湾で株式を保有するか、ターミナルを運営している。このうち36港は、世界のコンテナ取扱量上位100港に入る。研究機関AidDataが今年3月に公表した統計では、2000~2025年に中共当局主導の融資や贈与によって、90か国の168港で363件の事業が支援された。融資・贈与の約束額は約240億ドル(約3兆7979億円)に上る。
米海軍大学は、これらの港湾が有事に中共軍の「戦略拠点」に転用される可能性が高いと警告する。米議会も、中国の国家物流情報プラットフォーム「LOGINK」を採用している港湾について、米軍による使用を法律で禁じ、中国共産党へのデータ流出を防いでいる。
日米比・クアッド・AUKUS 米国が強化する「海洋同盟」
葉氏は、アメリカが自国の海軍と限られた空母戦力だけでは、もはや単独でアジア太平洋の秩序を維持できないと痛感しており、2つの方向で体制の再構築を進めていると指摘する。

1つ目は、冷戦期のようにアメリカを唯一の中心とする体制からの転換である。日米比の3か国枠組みや、日米豪印の「クアッド」、米英豪の「AUKUS」などを通じて、各国が相互につながる多層的な安全保障ネットワークの構築に力を注いでいる。
2つ目は、グローバル化で弱体化した国内の防衛産業と後方支援能力の立て直しである。第2次トランプ政権が「メイド・イン・アメリカ」を掲げる狙いの一つは、防衛装備の生産から補給・整備までを一体的に支える体制の回復にある。
不足する艦艇整備能力を補うため、米軍は東アジアの大手造船所と正式な艦艇整備協定を結び、前方展開する米軍艦艇の定期整備を委託している。委託先には、韓国のハンファオーシャンやHD現代重工業、日本の三菱重工業などが含まれる。
李庭仟氏も、アメリカの最大の強みは、日本、フィリピン、オーストラリアなどを一つの海洋安全保障網に結びつけられることにあると指摘する。アメリカが情報収集・監視、長距離打撃、空母打撃群、核抑止、指揮・通信、後方支援といった中核的な能力を提供することで、各国が「海洋同盟」として総合力を発揮できるとみる。
中共が「海洋強国」戦略の下で、海軍、港湾、物流網などを一体化した「海洋パワーの生態系」を拡大する一方、アメリカと同盟国も、非対称戦に対応する態勢の整備と補給網の再編を進めている。第一列島線をめぐるせめぎ合いは、今後も西太平洋、ひいては世界の海洋秩序の行方を左右しそうだ。
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