ウクライナ侵攻から見る台湾有事のリスク…日本と台湾はなにを学び、どう対策すべきか

2022/03/29
更新: 2022/04/02

「防衛力の裏打ちのない外交努力と対話は無力だ」。週末行われた台湾をテーマとする都内の講演会で、東京外国語大学の小笠原欣幸教授は述べた。ウクライナ侵攻の教訓から、国際政治はリアリズムであることが示され、台湾侵攻の抑止には軍事力が不可欠であると論じた。市民の国防意識が重要であり、「抵抗しても無駄」のような言論は権威主義的国家を利する無責任なものだと指摘した。

いっぽう、戦場が変化に富むものであるのと同様に、国家間の地政学的要素は千篇一律なものではない。台湾有事は日本の安全保障と直接的に関わりを持ち、サプライチェーンが寸断されれば存立の危機に直面する。日本と台湾はウクライナ侵攻の教訓からなにを学び、どう対策すべきか。小笠原氏は、想定されるシナリオと、リスクが高まる時期についても論じた。

ウクライナ侵攻の教訓

ロシア軍は圧倒的な戦力を投入し、大規模な演習まで行ったが、短期決戦の計画は頓挫し「泥沼」にはまった。ウクライナ軍のジャベリン対戦車ミサイルはロシア軍の戦車を次々と破壊し、スティンガー対空ミサイルは軍用機を撃ち落とした。空爆を行っても、制空権を確保し相手部隊を無力化することは困難だと明らかになった。たとえ侵攻国が目的を達成しても甚大な損害を被り、軍事的に弱い側の非対称戦が有効であることが示されたと小笠原氏は指摘した。

ウクライナは情報発信の面でも一枚上手だった。市民が被害状況をSNSで発信すると、西欧を主とする国際世論はウクライナに味方した。「市民を殺害し、生活を破壊することに国際世論の支持が得られるわけがない」と小笠原氏。フェイクニュースやプロパガンダも相次いで暴かれた。

対露経済制裁は西側諸国の政府にとどまらず、民間企業も加わることで強力なものになった。ウクライナの状況を見た消費者や投資家の声が企業に届き、ロシアでの営業停止の判断に影響を与えた。ロシアでの事業継続を発表後、英国メディアBBCの報道とそれに続く国際世論の圧力によって、わずか1日で方向転換を迫られた企業もあった。

権威的指導者がいったん開戦を決意すると止めることは非常に困難であることも明らかになった。侵攻側が合理的な判断に基づく選択をするだろうと考えるのは危険であり、軍事的備えを固めたうえで外交努力を行うべきだ。「権威主義的国家が理解する言葉はリアリズム」と小笠原氏は強調した。

2022年3月26日、東京都内の講演会での東京外国語大学の小笠原欣幸教授。(王文亮/大紀元)

想定される台湾有事のシナリオ

中共軍が台湾侵攻するには上陸作戦を行わなければならないが、侵攻側は多大な損害を被ることとなる。軍隊の集結も偵察衛星で察知できることから、成功シナリオを描くことは難しい。

そこで、中国共産党は兵員や装備の損失を避けるため、強行突破を行う「ノルマンディー上陸作戦型」から、各種工作を駆使した「ハイブリッド型」へと作戦を変遷させていると小笠原氏は指摘した。

想定される具体的なシナリオは5つあり、精密誘導弾による軍事施設の破壊と無力化、サイバー攻撃によるインフラ破壊、中共スパイによる反乱やサボタージュ、中共空挺部隊による政治拠点制圧、そして中国の意向に従う政治勢力による臨時人民政府の立ち上げである。

小笠原氏は空爆とサイバー攻撃には最大限の警戒が必要とし、「仮に先制攻撃で台湾軍の戦力の半分以上が失われても3割残っていれば中国軍の上陸に大損害を与えることができる」と述べた。台湾軍の現役指揮官には台湾アイデンティティが浸透しており、軍の反乱はリアリティがないと指摘した。

中国共産党の情報戦

情報戦は中国共産党が一貫して力を入れてきた分野だ。中国はロシア以上に国内の情報統制を行っており、国営メディアと共産党メディアが国内外に対して情報発信を行っている。

日本や台湾そして欧米諸国には、中国共産党が発表した情報を加工してSNSなどで発信し浸透工作を行う者がいると小笠原氏は指摘した。中国寄りのメディアや評論家が米軍のアフガン撤退を引き合いに出し、米国の影響力低下を望む評論を発表するなど、情報戦が繰り広げられていると述べた。

いっぽう、常識外れの外交官による「戦狼外交」や、中国国内の人権問題が国際的に取り上げられていることにより中共に対して逆風が吹いている状態だ。ウクライナ侵攻で国営メディアの発信力の限界が明らかになったいっぽう、個人によるSNS発信が功を奏していることから、「中国が台湾有事で一方的な情報発信をしても通用しない可能性がある」と小笠原氏は指摘した。

台湾はどう対策すべきか

ウクライナ侵攻によって、中国共産党による台湾侵攻のコストが非常に大きいことが示された。台湾の民意も統一に反対しており、中国共産党が鼓吹する「平和的統一」の可能性は小さい。そのため、「台湾人のあきらめを引き出し日米の腰を引かせる」という、脅迫し屈服させて勝つことが中国のシナリオであり、「やれる」と思わせない備えが重要だと小笠原氏は強調した。

また、ウクライナ侵攻によって、「(小国が大国に)抵抗しても無駄である」との議論と「台湾有事は虚構である」議論はいずれも否定されたと指摘。この2つの議論はいずれも権威主義的国家がほくそ笑む議論であり、「日本での台湾有事の議論に水を差す役割をしてきた。無責任だ」と一蹴した。

中国共産党による軍事侵攻に備えて、台湾は防衛力の強化と予備役体制の見直しを進めている。米国製のF16戦闘機を最新型の「F16V」に改修するほか、108両のM1A2主力戦車やロッキード・マーチン製のロケット砲システム「HIMARS」を調達する。中国共産党軍の上陸作戦に備え、「ハープーン」対艦ミサイル400発および発射機100基なども購入した。

蔡英文政権は2018年に徴兵制をやめ、代わりに4か月の軍事訓練を導入したが、ウクライナ情勢を受けて、徴兵制の復活に向けた動きが見られるようになった。

小笠原氏は、台湾はサプライチェーンの強みを生かしつつ日米欧との連携を強化し、現状維持路線を堅持すべきだと述べた。

パレードを行う台湾軍。2021年10月撮影。 (Photo by SAM YEH/AFP via Getty Images)

台湾有事における日本の対応

「台湾有事は日本有事」。安倍晋三元首相は昨年、問題の核心を突いた。日本最西端の与那国島は台湾から約111キロ。有事になれば、南西諸島を含む広大な地域が戦域になる。

ウクライナ侵攻により、国際政治はリアリズムであると示された。台湾有事の抑止は軍事的備えがなければ成り立たないと小笠原氏は指摘した。軍事力を提供できるのはアメリカであり、日本は後方支援を行うべく作戦計画や法令の整備が必要だ。昨年4月の菅義偉元首相とバイデン大統領による日米共同声明で方向性が決まり、岸防衛相のもと検討が行われている可能性を示唆した。

対中包囲網の重要性も高まっている。日米豪印の枠組みや2プラス2を締結した英仏独豪などの国々との関係強化に加え、中国と友好的でありながら有事を警戒するASEAN諸国との連携も重要だと論じた。

台湾有事が発生すれば日中間のビジネスが停止し、サプライチェーンが寸断され、対中経済制裁が発動する。同時に、レアアース禁輸のような中国による報復措置も予想される。民間企業はカントリーリスクを意識したシミュレーションが欠かせない。そのうえで、中国共産党の言論統制を受けている中国人に制裁がもたらす結果を知らせる努力を継続すべきだ。「雇用や生活を犠牲にしても台湾統一を望む人民は多くないだろう」。

小笠原氏はビザなし渡航や自治体交流などに代表される日台の深い関係に着目、「台湾人の日常生活の中に日本の存在がある」ため、日本は長期的な安定に寄与すべきと唱えた。

台湾有事はいつ起こるのか

台湾有事のリスクが高まる時期について、小笠原氏は複数の節目となる年を挙げた。一つ目は総統選挙がある2024年だ。中国共産党が長年浸透工作の対象としてきた国民党の勢力が衰えているため、民進党政権が継続する可能性が高い。「中国共産党から見ればまずい状況。なにかやってくるだろう」。

その次は2027年、習近平氏の3期目の任期満了の年であり、中国共産党軍の創設100周年でもある。「台湾統一は、中国共産党が正当性を人民に示し、中国の夢を完成させる最後の1ピース」であるとし、習近平の任期継続にとって台湾は重要なカードになると指摘した。

ロシアのウクライナ侵攻により、国際世論の逆風は強くなるばかり。作戦目標を達成しても双方が大損害を被り、心の傷は何世代にもわたって続いていく。

世界はロシアのウクライナ侵攻を抑止することができなかった。リアリズムのない外交努力や対話は無力だ。このとき重要になってくるのは市民の国防意識であり、侵攻される前に戦う意思の強さを示さなければならないと小笠原氏は述べた。

政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。
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