【軍事】CSIS 中国空母を抑止対象に 台湾有事で問われる日本の役割

2026/09/18
更新: 2026/09/18

台湾海峡や南シナ海をめぐり米中間で海上危機が発生した場合、中国共産党(中共)の空母部隊が前線へ進出しにくくなる態勢を、アメリカと同盟国は平時から整えるべきだ――。米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)はこのほど、中共空母を高価値資産と捉え、その前進展開を抑止対象と位置づける報告書を発表した。

報告書「Flipping the Script: How to Hold China’s New Carriers at Risk(発想を逆転させる:中国の新空母をリスクにさらす方法)」は、これまでの米中軍事競争では、中共がアメリカ海軍の空母を攻撃する能力をいかに高めているかに議論が集中してきたと指摘した。その上で、アメリカとインド太平洋地域の同盟国・パートナー国は、中共空母を「前線へ出せば重大な損失を受けかねない資産」と位置づけ、その前進展開を抑止すべきだと提案した。

CSISが主張するのは、開戦時に中共空母を直ちに撃沈することだけを目的とする戦略ではない。中国側に対し、空母を台湾海峡、南シナ海、フィリピン海などへ展開すれば、潜水艦、対艦ミサイル、無人機、長距離火力、情報・電子戦能力による攻撃にさらされると認識させる。そして、空母を使った威圧行動のコストそのものを引き上げる構想だ。

中共は長年、アメリカ海軍の空母を主要な攻撃対象の一つとみなし、潜水艦、対艦弾道ミサイル、長距離打撃手段、衛星・レーダーなどによる情報収集網を整備してきた。中国西部のタクラマカン砂漠には、アメリカ空母を模したとされる実物大の標的施設も確認されている。

CSISは、こうした中共の「空母キラー」構想に対し、アメリカ側も同様の論理で中共の空母を抑止対象とすべきだと論じた。報告書は、アメリカと太平洋地域の同盟国が「獲物ではなく、狩る側」に立つ必要があると強調している。

空母は中共の威信を示す象徴

中共海軍は現在、遼寧艦、山東艦、福建艦の3隻の空母を保有する。遼寧艦は旧ソ連製空母を改修したもの、山東艦は中国初の国産空母である。福建艦は電磁式カタパルトを採用した中共初の空母として位置づけられ、中共の艦載機運用能力を一段引き上げる存在とみられている。

2018年5月18日、海上試験を終えて遼寧省大連港に帰港した中国初の国産空母「山東」。建造に関わる中国船舶集団は、中国の国有造船企業グループである。(AFP=時事/Getty Images)

中国共産党政権にとって空母は軍事装備にとどまらない。海軍近代化、海洋権益の拡大、「海洋強国」建設、さらに大国としての国家威信を内外に示す象徴でもある。空母建造は国内宣伝でも繰り返し取り上げられ、海軍力の増強と愛国主義を結びつける材料として活用されてきた。

このため、空母が戦争初期に大破、あるいは撃沈される事態になれば、中共政権が被る打撃は軍事的損失にとどまらない可能性がある。CSISは、中共空母の喪失が中国共産党の威信、国内世論、軍への信頼に与える政治的影響にも注目している。

建造、乗員や艦載機要員の訓練、運用に多額の費用と長期間を要する空母は、失えば容易に補充できない。空母部隊を守るためには、駆逐艦やフリゲート、補給艦、対潜哨戒機、早期警戒機、衛星・センサー網など、大規模な護衛・支援態勢も不可欠となる。CSISは、中共にとって空母戦力の拡張は軍事力の増強である一方、守るべき高価値資産を増やすことにもなるとみている。

潜水艦・対艦ミサイル・無人機による重層的抑止

CSISの提言の柱は、中共空母が中国沿岸近くの防護圏を離れ、西太平洋へ進出する際、複数の脅威に同時に直面する環境をつくることだ。

第一に、アメリカ海軍の原子力攻撃潜水艦に加え、日本、オーストラリア、韓国などの通常動力潜水艦や無人潜航機を活用し、中共空母の行動海域に「水中の脅威帯」を形成する構想である。潜水艦の所在を正確に把握することは難しく、対潜水艦戦には多くの護衛艦、哨戒機、ヘリコプター、海中センサーが必要となる。

第二に、日本からフィリピンに至る第1列島線の基地・島しょ部に、地上発射型の対艦ミサイルなどを配備する案を示した。中共空母が太平洋へ展開する際に通過し得る海峡や航路を、監視と長距離打撃が可能な区域とすることで、前進展開の危険性を高める狙いがある。

第三に、航空戦力、宇宙・衛星システム、電子戦、サイバー戦を組み合わせ、中共軍の探知、指揮、通信、目標情報のネットワークに圧力をかける。現代の海上戦では、ミサイルなどの発射手段だけでなく、標的の位置を把握し、情報を共有し、攻撃判断につなげる一連の「キルチェーン」が重要になるためだ。

さらにCSISは、ウクライナが無人水上艇を用いてロシア黒海艦隊に圧力をかけた事例も参考になると指摘する。無人水上艇や無人潜航機を活用すれば、中国の港湾、海軍基地、停泊中の大型艦艇に対しても、継続的な警戒を強いることができるとの考え方だ。

日本の南西諸島と基地が果たす役割

この構想は、日本の安全保障とも密接に関わる。日本列島から南西諸島、台湾、フィリピンへ連なる第1列島線は、中共海軍が西太平洋へ進出する上で重要な地理的要衝である。アメリカ軍と自衛隊の基地、警戒監視能力、対艦ミサイル、潜水艦、補給・整備拠点は、地域の抑止力を左右する要素となる。

CSISは、アメリカが有人艦艇を増やすだけでなく、無人水上艇・無人潜航機、魚雷、長距離精密弾薬、海中センサーなどの調達を拡大すべきだと提言した。

CSISは、米国の造船業界が原子力攻撃潜水艦を大幅に増産できるとは限らないと指摘する。そのため現段階では、無人水中航走体(UUV)の調達を加速し、魚雷の備蓄を拡充するとともに、同盟国・パートナー国の基地を整備すべきだとしている。

また、将来の艦隊構想についても、有人艦艇350隻と水上・水中無人艇150隻で構成する従来案から、有人艦艇約300隻と無人艇約300隻を組み合わせる体制へ転換するよう提言した。

さらにCSISは、西太平洋で有事が起きた際に米本土からの補給線に全面的に依存する状況を避けるため、長距離対艦ミサイルなどの精密誘導弾薬を、米国が日本を含むインド太平洋地域の同盟国と共同生産する必要があるとしている。

林燕