「最大の淡水湖が干し上がった」  大干ばつ進む長江沿岸 食糧生産への影響必至

2011/05/31
更新: 2011/05/31

【大紀元日本5月31日】中国最長の河「長江」の中下流地域では、50年ぶりの深刻な干ばつに見舞われている。このため、中国の第一、第二の規模の淡水湖の水が干上がるという事態が発生。沿岸の湖南、湖北、安徽、江西などの食糧主要生産地では、極度な水不足で米や麦の収穫が絶望的な状態にある。一部地域では住民の生活用水も確保できない 。専門家たちは、干ばつ発生の原因の1つは、長江にまたがる国家プロジェクト「三峡ダム」にあると指摘しており、当局も最近になって初めて、同ダムの環境破壊の脅威を認めた。

中国当局の公表によると、長江の中下流の多くの地区では、今年の降水量は1961年以来の低水準で、例年同期に比べて6割減少している。長江を管理する政府機関のある幹部は今回の干ばつの影響について、「過去半世紀において前例がない」とし、長江の水位は「2003年、三峡ダムが稼動して以来、最も低い水準」と述べ、「暴雨に襲われたとしても問題の改善には繋がらない」と指摘した。

最大の淡水湖から水がなくなった

中国国内メディアの報道によると、江西省北部、長江の南岸に位置する中国最大の淡水湖・鄱陽湖の干ばつは、「百年に一度」の最悪な状況であると当局はみなしている。鄱陽湖の広範で水が干し上がっており、河底の亀裂は10センチ以上に及ぶ。

水が干し上がる理由について、専門家らは三峡ダムが原因であると指摘している。

江西省の水利専門家は次のように分析している。「長江の水流を調節する役割を果たす鄱陽湖は、長江に向けて傾斜して流入している。周囲は高台である。本来ならば、贛江などの長江支流5つの河の水は同湖に流入してから長江に流れていく。(長江にまたがる)三峡ダムが水流を遮断しているため、長江の水位が低下してしまった。それにより、鄱陽湖から長江に流れる水が加速化し、湖は貯水できなくなっている。同時に、湖に流入する5つの河の水も減少している。これらが鄱陽湖の水が干上がる主要な原因である」。干ばつは同湖に留まらず、現地の他の河でも深刻であるという。

また、長江沿岸の湖南省にある中国第二規模の淡水湖・洞庭湖は水の激減により、草原と化している。

長江を管理する政府機関「長江水利委員会」の幹部はかつて、三峡ダムは下流の水供給を遮断してしまうため、干ばつを一層深刻化させていると発言した。原因は下流の水供給を遮断してしまったからだという。

中国の国営通信社「新華社」は関連報道で、今回の干ばつについて次のように形容した。「『千湖の省』と称されている湖北では、河川が枯渇し、ダムの水が濁り、長江、漢江が悲鳴を上げている。中小規模の河は寸断され、広範の畑では苗が枯れ、大地には亀裂が無数に入る…」

今年の干ばつとは対照的に、昨年は鄱陽湖周辺地区で大洪水が発生した。救援活動に参加した江西省の水利機関の関係者は、「洪水の多発シーズンにおいて、三峡ダムは長江の下流に大量の水を放出する。長江の水位が鄱陽湖より高くなってしまうため、長江の水が同湖に逆流する。このため昨年、同湖の水が溢れ、周辺の多くの地区に大洪水が発生した」と証言した。

十数年前から始動した中国当局の国家プロジェクト「三峡ダム」は、長江中流域の三峡(重慶直轄市から湖北省宜昌市)一帯にある大型重力式コンクリートダムである。洪水抑制・電力供給・水運改善を主な目的とする。計画当初から、多くの水利専門家が、環境に深刻な悪影響をもたらすとして建設に強く反対していた。当局が主張する同ダムの「水の逆調節」の機能、つまり干ばつの時期に貯めていた水を放出し、洪水の時期には水を下流に誘導するという理論は、この2年の実状から、まったく現実離れした空想であったことが実証されたと専門家たちは指摘している。

50年ぶりの干ばつ、直接経済損失150億元

中国当局の公表によると、現在、長江流域で発生している大干ばつは「50年ぶり」であり、直接経済損失は150億元(1875億円)に達している。

中国当局の統計によれば、長江中下流では16.7万ヘクタールの農地の収穫が絶望的な状況にある。特に米の主要産地である湖南省と湖北省に集中する。

生活用水の供給困難

また、現地の専門家によると、現在、食糧の生産不足が深刻化しているだけでなく、長江の沿岸、鄱陽湖の沿岸の都市部の給水も困難な状況に陥っている。江西省の最新公表によると、同省では、30数万人が飲用水を供給されていない。また、 一部山間部は水源が枯渇しており、送水車の水に頼るか、遠方から水を汲んで運ぶという手段に頼っている。また、湖北省では27日午前9時の時点で、干ばつ被災者は約989万人。そのうち156万人が飲用水の不足に遭っており、約126万人が救助待ちの状態であると公表されている。中国民政部の統計によると、今回の長江沿岸の干ばつでは3500万人が被災している。

食糧不足インフレに拍車

中国の農業専門家、中国農業科学院の李茂松・主任は、「過去十数年において、中国は度々大干ばつに見舞われており、食糧の収穫が大幅に減少している。食糧を供給する上でかなり深刻な状況に置かれている」と警告を発した。

米の主要生産地として知られる長江流域の大干ばつの影響で、中国南部各地の広範の地域ですでに米の価格が上昇。全国的に広がっていくと予想される。

過去5年間で、中国は3回の大干ばつに見舞われた。フィナンシャル・タイムズ紙(中国語版)によれば、大干ばつの度に中国の食品価格は上昇しており、平均値上げ幅は約20%に達したという。

専門家は、 すでに深刻な現在のインフレ状況を背景に、食糧価格がさらに上昇すれば、国民の生活は多大な打撃を受けると指摘する。

中国当局、「三峡ダム」の脅威を初めて承認

中国当局はこのほど、国家プロジェクトである長江三峡ダムの建設が社会と環境に深刻な問題をもたらしていると初めて認め、地質災害、社会問題への緊急対応が要されると表明した。

ワシントン・ポスト紙は今回の中国当局の姿勢転換について21日に社説を掲載。「中国共産党政権は15年の歳月と数百億ドルの資金で三峡ダムを建設し、13の都市、140の鎮、1600の村を水没させ、240万人の住民が居住地の移転を強いられた。当局は当初、なぜ異見者の見解に耳を傾けることなく、逆に異見者の一部を監禁・抑圧したのだろうか」と提起し、「共産党が政治権力を独占している限り、彼ら(中国国民)には選択の余地さえない」と批判した。

中国の干ばつは長江沿岸地域に留まっていない。中国当局の中央機関の統計によれば、全国で干ばつ被害を受けている農地は600万ヘクタール、水不足のため耕やせない農地は400万ヘクタールに達する。 

(翻訳編集・叶子)
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