中国の官製メディアが珍しく、精神病院の不正を取り上げた。
「新京報」は2月3日、調査報道を掲載し、湖北省の襄陽(じょうよう)市と宜昌(ぎしょう)市で、複数の精神病院が医療保険の資金をだまし取るために、精神疾患のない人まで入院させていた実態を明らかにした。
報道によれば、これらの病院では入院患者を水増しし、架空の治療費を申請して保険金を受け取っていた。さらに、患者に暴力をふるう、また退院を無理やり引き延ばすといった行為も常態化していたという。
手口は極めて悪質である。病院の警備員や清掃員、看護助手までもが「患者」として登録され、書類上は精神病とされた。さらに農村部に車を走らせ、「食事付き・宿泊付き」とうたいながら高齢者や一般住民を病院へ連れてくるケースもあった。
海外で活動する中国人権派の弁護士は、「精神病と判断する権限を政府と病院が握っている以上、一度入れられた人は、自分が正常だと訴えることすらできない」と指摘する。
異常なのは、その数の多さである。
人口およそ500万人の襄陽市には、精神病専門の病院が20か所以上存在する。地元では「ラーメン屋より多い」と皮肉られるほどである。
潜入取材では、病棟にいる多くの入院者が普通に会話でき、精神的な異常が見られないことも確認された。実際、その中には病院で働く現役職員も含まれていた。

背景には、医療保険と補助金という「うまみ」がある。
患者が多ければ多いほど、保険からの支払いと公的補助が増える。経済が悪化するなか、監視が甘く発覚しにくい精神医療分野は、格好の標的となっていたのである。
問題は、官製メディアの報道がここで止まっている点である。
記事は「保険金詐取」という経済犯罪には踏み込んだが、精神病院が長年、政権に異議を唱える人や陳情者、宗教信仰者を閉じ込める手段として使われてきた現実には一切触れていない。
海外メディアや人権団体の調査によれば、中国では警察や行政が正常な人を精神病院に送り込む例が後を絶たない。なかでも法輪功学習者などが、信仰や思想に対する迫害の手段として「治療」を名目に精神病院へ送られ、拷問や強制的な薬物投与を受けたとされる事例は、海外メディアや人権団体によって数多く報告されている。
実際、中国の精神病院は、保険金を吸い上げる装置であると同時に、反対者を黙らせるための道具でもある。
官製メディアが語らなかったのは、最も不都合なその部分であった。
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