イラン情勢の緊迫化に伴う原油高に苦しむアジア諸国にとって、米ドルの独歩高がさらなる重荷となっている。米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ観測の強まりや経済危機の不透明感を背景に、アジア各地域では自国通貨の防衛がかつてない難題となっている。
各国政府は通貨防衛に向けた動きを急いでいる。ロイターによると、韓国の公的年金基金は為替ヘッジを実施し、17年ぶりの安値水準に沈んでいたウォン相場を押し戻した。また、インド準備銀行も、ルピー相場の安定化に向けた優遇通貨取引などの一連の措置を発表した。
先週の米雇用統計の発表を受けてドル高が進行。トランプ米大統領が利下げを呼びかけているものの、市場ではインフレ圧力を前にFRBが利上げに踏み切らざるを得ないとの見方が大勢を占めている。
イラン情勢の緊張が続く中、アジアで最も大きな打撃を受けているのがインドネシア・ルピアだ。イラン情勢の緊迫化を受け、2月下旬以降で7%以上も下落し、過去最低水準を更新した。
アジア全般で通貨安が進んでおり、下落率は韓国ウォン、フィリピン・ペソ、タイ・バーツ、インド・ルピーの順に大きい。産油国であるマレーシアのリンギは比較的堅調を維持していたが、足元では国内の政治動乱から下落に転じている。
三菱UFJの地域リサーチ責任者、リン・リー氏は「日経アジア」に対し、「原油価格の変動はアジアに最も深刻な打撃を与えているが、国によって直面するリスクは異なる」と指摘。影響を左右する要因として、各国のエネルギー構成や輸入依存度、国家や民間による石油の戦略備蓄量を挙げた。
また、財政基盤や政府の信用力も重要となる。華僑銀行のシニアエコノミスト、ラバニア・ベンカテスワラン氏は、貿易構造に加え「構造改革の推進力や、政府が危機に動員できる財政的余力(バッファー)などの固有要因が影響している」と分析する。
下落率に差はあるものの、通貨急落に直面する国々は厳しい政策判断を迫られている。
最も直接的な対抗策は利上げだ。インドネシア中銀は臨時会合で、市場の意表を突く50ベーシスポイントの利上げを行い、基準金利を5.25%に引き上げた。2か月連続の利上げとなり、通貨防衛の緊急性の高さを物語っている。フィリピン中銀も利上げを実施したほか、通常の政策決定会合以外での追加利上げを検討している。
フランスの投資銀行ナティクシスのシニアエコノミスト、トリン・グエン氏は「アジアの多くの国は金利が低すぎる。例えばフィリピンは利上げしたものの、インフレ率が7.2%に達しているため実質金利はマイナスだ。米欧英日などの主要国・地域の金利水準と比べても見劣りする」と指摘。日欧の中銀による利上げ観測も市場で囁かれている。
日銀は6月15日から16日に開く金融政策決定会合で、政策金利の引き上げに踏み切る構えだ。また、市場では欧州中央銀行も来週、利上げを行うとの観測が浮上している。
一方で、燃料高によってすでに金融環境が引き締まる中での利上げに懐疑的な見方もある。三菱UFJのリン氏は「中銀はインフレ抑制と経済成長の維持の間で極めて難しい舵取りを迫られており、イラン情勢が長期化するほど苦境は深まる」と予想する。
また、通貨売りの要因は低金利だけではない。各国固有の構造問題も影を落としている。
特にインドネシアは、原材料の輸出規制などのナショナリズム的な経済政策が資本流出を招き、政府の信用問題に発展している。証券取引所への管理政策を巡る懸念から、モルガン・スタンレーが同国の市場格付けを「新興市場」から「フロンティア市場」へ格下げする可能性を示唆した経緯もある。
英調査会社キャピタル・エコノミクスのジェイソン・チュービー氏はリポートで、「利上げは一時しのぎに過ぎない。根本的には、政府が投資家を重視する政策へと舵を切る必要があるが、現時点でそうした改革が本格化する兆しは見えない」と述べた。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。