熊本県で最大震度7を観測した地震から一夜。気象庁が「令和8年熊本地震」と名付けたこの地震は、明るくなった被災地に、崩れた家屋、寸断された道路、そして水と電気を失った街の姿を残した。国内で震度7を観測するのは、2024年元日の能登半島地震以来である。
だが、被害の全容はまだ見えていない。夜を徹した捜索が続き、行方の分からない人がなお残る。そして被災地は、この日から35度に迫る暑さに包まれる。揺れは、まだ終わっていないかもしれない。
揺れの規模:深さは16キロに修正
国土交通省の第2報(7月28日午後9時時点)によると、震源は熊本県熊本地方、震源の深さは16キロ(暫定値、速報の約10キロから更新)、規模はマグニチュード(M)7.1(暫定値)。震度7を宇城市と氷川町で観測したほか、熊本市・八代市・宇土市・美里町・益城町で震度6強、上天草市・合志市・大津町・西原村・御船町・芦北町で震度6弱を記録した。
地震活動は活発なまま続いている。7月28日午後11時までに震度4以上の揺れを12回観測した。気象庁は2016年の熊本地震と特徴が似ているとして、「1週間程度、特に発生から2〜3日は、最大震度7を含む強い揺れに注意してほしい」と繰り返している。2016年は最初の震度7の約28時間後に、より大きな「本震」が襲った。今回の揺れが本震である保証はない。
人的被害:爆発 脱線 閉じ込め
被害の中心となったのは、嘉島町の大型商業施設「イオンモール熊本」だった。地震のあと午後6時ごろに爆発が発生し、2階部分が崩落。ガス漏れが原因とみられている。29日午前4時までに建物から8人を救助したが、3人の死亡が確認され、不明者の捜索が続いている。
被害は各所に及ぶ。八代市の日本製紙の工場では2人が心肺停止となり、9人の安否が分かっていない。氷川町の特別養護老人ホームでは10人ほどがけがをした。JR九州によると、九州新幹線の乗客や新八代駅の利用客ら計13人が負傷し、うち5人を救急搬送した。八代市では貨物列車が脱線した。
死者・負傷者の総数は、消防庁や県による集計が続いており、確定できていない。数字は今後、積み上がる可能性が高い。
26万人超に避難指示
総務省消防庁によると、29日午前7時時点で、熊本県の2市の9万人超に、災害対策基本法上もっとも切迫した「緊急安全確保」を発令した。熊本・長崎両県の26万人超を対象に避難指示が出ている。
避難生活の環境は厳しい。後述の通り、電気も水も断たれた地域が広がるなか、猛暑が重なる。
交通網の寸断(鉄道・道路・空路)
九州の交通網は、鉄道・道路・空路のいずれもが同時に打撃を受けた。
鉄道
九州新幹線(博多―鹿児島中央)は全線で終日運転を取りやめた。線路上で列車が停車し、新八代―新水俣間では1本に約180人の乗客が長時間取り残された。
西九州新幹線(武雄温泉―長崎)は一時運休したが、28日午後7時ごろに運転を再開した。
肥薩おれんじ鉄道、南阿蘇鉄道、熊本電気鉄道は全線で終日運転を取りやめた。
道路
NEXCO西日本によると、28日午後10時時点で以下の3区間が上下線で通行止めとなった。
九州自動車道:植木IC―えびのIC
南九州自動車道:八代JCT―日奈久IC
九州中央自動車道:嘉島JCT―益城料金所
熊本県警によると、九州道の松橋IC―人吉IC間では道路が十数か所で隆起・寸断し、通行が困難になっている。
空路
熊本空港(益城町)は滑走路を一時閉鎖。28日午後7時に安全確認で再開したものの、この日の国内線は全便を欠航した。29日以降の運航は航空各社が確認中としている。
ライフライン被害(断水・停電・通信)
電気、水道、通信のいずれもが広範に断たれた。
電力は、28日夕のピーク時に約4万8千戸が停電し、29日午前8時20分時点でも約3万6700戸で復旧していない。内訳をみると八代市の1万2470戸が最も多く、宇城市7770戸、益城町4760戸などと続く。
九州電力送配電は熊本支店などに非常災害対策本部を設けて復旧作業にあたっているが、いずれの地域も復旧の見込みは「確認中」としている。もっとも、経済産業省によれば、九州各地の発電所での被害情報はこれまで入っていない。停電そのものは配電設備の損傷によるものとみられる。
より深刻なのは水道だ。国土交通省によると、熊本県内の17市町村で約14万戸が断水し、八代市では全域にあたる約6万戸で水が止まった。復旧の見通しは立っておらず、国交省は日本水道協会に対し、被災地への給水車の派遣を要請した。停電戸数が夕方のピークから減少に転じたのに対し、断水はほぼ手つかずの状態で、生活への影響は長期化する恐れがある。
通信は、NTTドコモ、KDDI、楽天モバイルが熊本県の一部エリアで影響が出ていると発表した。ソフトバンクは現在のところ影響はないとしている。都市ガスの供給停止については、29日朝の時点で確かな戸数は確認できていない。
産業:工場の停止相次ぐ
製造業への影響も広がった。ホンダは県内工場の稼働を停止。ブリヂストンは熊本工場の生産を一時停止した。前日には、TSMCの日本子会社JASM(菊陽町、震度5強)が避難基準に達して従業員を避難させ、被害は確認中としている。
小売りでもローソンが一部店舗を休業した。熊本はいまや日本の製造業と半導体供給網の要衝であり、揺れの影響は県外・国外へも波及しうる。
猛暑と余震:被災地を襲う二重の脅威
いま被災地が直面するのは、地震そのものだけではない。
気象庁によると、熊本地方の29日の予想最高気温は34度。30日以降は高気圧に覆われ、最高気温35度以上の猛暑日が続く見込みだ。停電でエアコンが使えず、断水で水の確保も難しい避難所や車中泊の環境では、熱中症のリスクが急激に高まる。同庁は水分補給などの警戒を呼びかけている。
そこへ、なお続く余震が重なる。損傷した建物に戻った人を次の揺れが襲う……それは2016年に実際に起きたことだった。復旧の数字が改善に向かう一方で、猛暑・断水・余震という三つの条件が同時にそろっている点にこそ、この災害の危うさがある。
政府・自衛隊の対応
政府は首相官邸の危機管理センターに官邸対策室を設置し、内閣府の調査チームを被災地へ派遣した。高市早苗首相は関係省庁に、早急な被害状況の把握、人命第一での救命・救助、国民への適時適確な情報提供の3点を指示。
小泉防衛相は陸海空の自衛隊に人命救助を最優先とする活動を指示した。
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