中国国営国際放送CGTN(China Global Television Network)は8月4日、英語による歴史ドキュメンタリー「The forgotten Ryukyu(忘れられた琉球)」を配信した。中国の専門家による解説に古地図や古典籍を組み合わせ、琉球王国と中国、日本の歴史的関係を描いている。
これに対し、一般社団法人沖縄政策研究フォーラム理事長の仲村覚氏は8月5日、X(旧Twitter)で動画の構成を分析し、中国共産党(中共)政府による東シナ海の海洋権益主張と、日米同盟下にある沖縄の法的地位を揺さぶる認知戦であるとの見方を示している。
ドキュメンタリーの「3つの論点」
動画は主に三つの論点で構成され、第一に、琉球王国が500年以上にわたって中国の冊封・朝貢国であり、独立した海上国家であったと説明。冊封使の記録や古地図「中山伝信録」などを示し、久米島より西に位置する釣魚島、すなわち尖閣諸島は中国の国内領域であり、琉球の領域外であったと主張している。
第二に、1868年の明治維新以降、日本が対外拡張に転じ、その最初の対象が琉球王国だったと位置づけている。1872年の琉球藩設置と1879年の琉球処分による沖縄県設置を、強制的な併合と定義した。
第三に、1951年のサンフランシスコ平和条約第3条と1971年の沖縄返還協定を取り上げている。中華人民共和国が参加していない条約によって、第三国である中国の領土権を処分することはできないとの論理である。
沖縄や尖閣諸島周辺の法的地位への印象操作
仲村氏は、これらを組み合わせることで、沖縄や尖閣諸島周辺の法的地位が現在も確定していないかのような印象を与えていると指摘。CGTNが琉球処分を「強制的な併合」と強調して位置づけることで、明治政府による近代化や日本の領土形成の正当性を否定する意図があると分析している。
仲村氏が注目するのは、動画の内容だけでなく、その伝え方である。中国国営メディアとしての性格を前面に出さず、英語のナレーションと史料の提示によって、客観的な歴史ドキュメンタリーの体裁を整えているという。前近代の朝貢・冊封関係を拡大して解釈し、近代国際法上の主権概念と混同させているとも分析した。
さらに、尖閣諸島の領有権や日本による統治を論じる際にだけ琉球の独立性を持ち出し、その後の日本への統合過程や、現在の沖縄県民の意向には触れていないと指摘する。仲村氏は、短期的には9月の国連人権理事会などを見据え、英語圏の世論に主張を浸透させる狙いがあるとみている。中長期的には、基地や環境をめぐる問題と結び付け、「日本政府の不当性」を国際社会に定着させることが目的だと分析している。
国連が舞台に 「先住民族」と「人権」の攻防
仲村氏はつきしろキリスト教会の砂川竜一氏との対談で、スイス・ジュネーブや米ニューヨークの国連関連フォーラムで見聞きした状況についても説明した。日本側に同行した元沖縄県議会議員は国連の場で、20年以上政治家を務めてきたが、沖縄県民が先住民族だという話は自分も県民も聞いたことがないと発言したという。
一方、香港の親中派に関係するNGO「IPS」は、日米による軍事化や土地収用、植民地化が琉球諸島で続き、人権弾圧が起きていると訴えたという。仲村氏らは、日本語を話さず米国で育った活動家が「琉球の先住民族」を名乗り、英語で発言する場面もあったと述べた。中国から資金を得て、沖縄と尖閣諸島を中国領とする書籍を書いたと証言するトルコ系活動家の存在にも言及している。
米軍・自衛隊基地やPFAS(有機フッ素化合物)による水質汚染などの地域課題も、国連の場では日米による人権侵害を裏付ける材料として提示されているという。
「脱植民地化」枠組みへの警戒
仲村氏は、国連では基地の存在を植民地主義の一形態と位置づける枠組みや、国家主権より人権を上位に置く考え方が生まれていると説明する。また、人道に対する罪には時効がないとの論理を用い、1879年の琉球処分を現在も継続する問題として扱う動きがあるとの見方を示した。こうした枠組みを通じ、沖縄を国連脱植民地化委員会の非自治地域リストに登録させることが中共政府側の狙いだと主張している。
日本政府は国連の場で、沖縄の人々を先住民族とは認めておらず、等しく日本国民として権利を保障されているとの立場を示している。PFAS問題についても、地元自治体と協力して対策を進めているとしている。
仲村氏と砂川氏は、日本政府の反論が歴史的正当性の説明にとどまり、国際社会で展開されている働きかけの構造に踏み込んでいないとして、十分ではないと警鐘を鳴らしている。
中共の認知戦に対抗するには
仲村氏は対抗策として、民主的社会に暮らす沖縄県民の自己決定権を、中国側の「人道」を掲げた主張が侵害していると国連で訴える必要があると指摘した。前近代の朝貢関係と近代的な主権を法的に区別し、サンフランシスコ平和条約に基づく戦後処理の正当性を多言語で発信するとともに、沖縄における民主的な意思決定過程を国際社会に示すべきだとしている。
仲村氏は大紀元の取材で、沖縄を日本の「国防の最前線」とだけ表現すれば地元の反発を招くとして、「東アジアの平和の拠点」と位置づけ直すことも提言した。沖縄の抑止力は日本の防衛だけでなく、台湾、中国、フィリピンを含む地域が戦争に巻き込まれることを防ぐためのものだと主張した。沖縄は、アジアの経済発展や中国依存から脱却するサプライチェーン再構築の拠点としても役割を担うべきだとしている。
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