中国 カナダ・米国間の貿易対立を北米分断戦略に利用 アジア研究者が指摘

2026/08/28
更新: 2026/08/28

カナダ安全情報局(CSIS)が2021年7月にまとめた評価では、中国はカナダを外国干渉の「優先度の高い」標的とみなしている。

中国は、カナダと米国の貿易を巡る亀裂を戦略的に利用して両国間の対立をあおり、北米を分断しようとしていると、アジアおよび米中関係の専門家が指摘している。

アルバータ州出身のスティーブン・R・ナギー教授によると、この考え方は新しいものではない。カナダ安全情報局(CSIS)が2021年7月にまとめた評価では、中国はカナダを外国干渉の「優先度の高い」標的とみなしている。

ナギー氏は現在、成立しなかった貿易協定を巡る国民の不安につけ込むため、中国が今後数週間に集中的な「認知戦」を展開する可能性があり、カナダ政府は備える必要があると警告している。

東京の国際基督教大学で政治学・国際関係論を教えるナギー氏は、オタワに拠点を置くシンクタンク、マクドナルド・ローリエ研究所の報告書で、中国の計画は「単純明快」だと述べた。

同氏によると、カナダが切り崩されれば、地理的、制度的、文化的に近い米国にとって直接的な脅威となる。

「米国にとって最大の安全保障上の競争相手である中共政府が、カナダの内政・外交政策を米国の政策と一致しない方向へ動かすほどの影響力を行使できれば、北米は事実上、脆弱な状態に置かれる。この脅威は理論上のものではなく、今は重大な局面だ」と記した。

ナギー氏は、貿易協定が成立しなかったことでカナダと米国の関係は一段と脆弱な状態に陥っており、北京はそれを維持するため、あらゆる手段を講じていると述べた。

中共政府の主な目標の一つは、世界の製造業、技術、サプライチェーンの中心を北米へ戻そうとするドナルド・トランプ米大統領の取り組みを阻止することだという。そのため、カナダ・米国・メキシコ協定(CUSMA)は、中共政権の利益にはならないとしている。

一方、ナギー氏は、加盟国がどの国と貿易できるかに関する条項が盛り込まれたとしても、協定の成立はカナダと米国双方の利益になると述べた。

「米国がカナダに対し、戦略的競争相手との自由貿易協定締結を阻止しようとすることは、完全に論理的である。非市場経済国との貿易協定について米国に拒否権を認めるCUSMAの条項に類する規定は、現代に必要な地経学的枠組みを反映している」と記した。

マーク・カーニー首相は8月22日、米政府が提案した貿易協定から身を引いた理由の一つとして、米国側がカナダの国際貿易協定を制限しようとしたことを挙げた。

これに対し、ジェミソン・グリア米通商代表はカーニー氏の説明に異議を唱えた。グリア氏は8月26日のCBCニュースとのインタビューで、米政府が阻止しようとしたのは、第三国がカナダへ鉄鋼をダンピング輸出し、カナダ向けの(米国への)優遇関税措置(アクセス権)を利用して、その製品が米国へ流入するような事態に限られると述べた。

6月16日、フランス・エビアンで開かれた主要7か国(G7)首脳会議のワーキングランチで、カナダのマーク・カーニー首相と話すドナルド・トランプ米大統領(Evelyn Hockstein/POOL/AFP via Getty Images)

「くさび」戦術

ナギー氏によると、中共政府は両国間で続く貿易交渉の行き詰まりにつけ込み、北米の結束を損なう目的で「くさび政治」を展開している。

くさび戦略には、一般に四つの類型があるという。「陣営転換」は、標的を誘い込んで敵対勢力の側へ加わらせる手法である。「中立化」は標的を中立的な立場へ移行させることを狙い、「同盟弱体化」は同盟を完全に崩壊させることなく、その結束を弱めることを目的とする。「連携阻止」は、連合そのものが形成されるのを防ぐ手法である。

「これらの概念は学術的に聞こえるかもしれないが、実際にカナダの政策決定で進行している。カナダと米国の摩擦が強まる時期に中共政府は『戦略的パートナーシップ』を約束して、巧みにカナダ政府を引き寄せてきた。これは典型的な陣営転換の戦術である」とナギー氏は述べた。

カーニー氏は1月の北京訪問で「戦略的パートナーシップ」という言葉を使い、これによってカナダは「新たな世界秩序」に向けて有利な立場に置かれると述べた。

数日後、スイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラムで、カーニー氏は米政府の政策を間接的に批判し、「中堅国」に対し、「大国」に対抗するため結束するよう促した。「大国」とは米国と中国を指していたとみられる。

トランプ氏は翌日、この演説を巡ってカーニー氏を批判し、新設した「平和評議会」への参加要請を撤回した。

ナギー氏はさらに、中東、特にホルムズ海峡における米軍の活動に対し、カナダが外交面または物資面での支援に消極的なことは、中立化と同盟弱体化の明確な事例だと指摘した。

また、カナダによる外国干渉への対応の遅れと国防費の低さは、国家安全保障を弱め、最も緊密な同盟国との間に距離を生じさせることで、米国とカナダの連携阻止という中共政府の目標に沿う要素となっていると述べた。

「軍事・情報能力を軽視することで、カナダ政府は信頼できる防衛パートナーになれず、より強固な北米安全保障連合の形成を妨げている」と記した。

ナギー氏によると、中国が「くさび」戦略を実行する際に選ぶ武器は、偽情報、プロパガンダ、国外在住の中国系住民を標的とした言説である。こうした言説は、中共に対する正当な批判を人種差別として描き、中国系住民のカナダに対する帰属意識を弱めようとするものだという。

中共が使うほかのくさび戦術には、中共政府を米国に代わる信頼できる貿易相手として描くことや、関税を巡る西側諸国の連携を阻止することなどがある。

その一例としてナギー氏は、カナダ政府が2024年、フランスと同様の戦略を採用して中国製電気自動車(EV)に関税を課した際、中共政府がカナダ産キャノーラと豚肉に報復関税を課したことを挙げた。その後、カーニー氏が今年、EV関税を縮小すると、中共政府は農産物への圧力を緩和したという。

提言

ナギー氏によると、中共政府はカナダ国民の関心を国境を挟んだ不満や、ホワイトハウスの「摩擦を招く政治姿勢」に集中させ、カナダの中核的な戦略的利益が実際に何であるかから目をそらさせようとしている。

「党派的な雑音を取り除けば、構造的な現実は否定できない。カナダ人と米国人は……根本的に似た方法で生活し、働き、自らを統治している。われわれの政策選択は、この現実を反映しなければならない。外国干渉によって、そうではないと思い込まされてはならない」と述べた。

ナギー氏は、中国が公の場での両国の対立を偽情報に利用するのを防ぐため、カナダと米国は言葉遣いを抑え、貿易紛争の非公開での解決に集中すべきだと提言している。

また、米国の保護主義が強まった際に中国へ接近するのではなく、日本や韓国など、インド太平洋地域の民主主義国との「フレンド・ショアリング」を通じ、貿易相手の多角化を進めるようカナダに勧告した。

このほか、外国に付け入る余地を与えないため、カナダが国防費を一層充実させ、自国の領空と北極圏の領土を防衛する能力をより重視することも提案している。