国連の人権専門家130人以上は9月23日、国家が国外の活動家やジャーナリスト、亡命者らを監視、脅迫、拘束する「越境弾圧」への対策を各国に求める共同声明を発表した。AIやスパイウエアを使った監視、インターポールの赤手配制度の悪用にも警鐘を鳴らし、被害者保護と法整備の強化を訴えた。
声明には、国連特別手続の専門家や複数の人権条約機関の委員らが名を連ねた。弾圧を行う国家に対し、こうした行為の中止を求めるとともに、標的となった人々を受け入れている国々には保護の強化を要請した。国際人権サービス(ISHR)によると、声明は各国のほか、企業、国際刑事警察機構(ICPO、通称インターポール)、国際機関に対しても、予防策と対抗措置を講じるよう呼びかけている。
家族への脅迫やデジタル監視 AI悪用にも警鐘
「越境弾圧」とは、国家が国外にいる人々を対象に、威圧、監視、拘束、帰国の強要などを行うことを指す。標的には、政府批判者、ジャーナリスト、人権活動家、亡命者、海外在住の同胞やディアスポラなどが含まれる。
その手段は、超法規的な殺害、拷問、嫌がらせ、恣意的な拘束、渡航制限、国外追放、国籍の剥奪、国際的な法執行協力制度の悪用など多岐にわたる。本人がすでに国外へ出ている場合でも、出身国に残る家族が脅迫や圧力を受け、海外にいる本人を沈黙させるための手段として利用されることがある。
専門家らは、SNS、スパイウエア、マルウエアを使った国境を越えた監視や嫌がらせにも注意を促した。人工知能(AI)の利用が広がれば、こうした手段がさらに拡大・高度化するおそれがあるとしている。Freedom Houseも、デジタル上の脅迫、家族への威圧、旅券・身分証明書の統制などを、越境弾圧で用いられる手法として挙げている。
インターポール「赤手配」悪用の防止を要請
国際的な法執行協力の仕組みが、越境弾圧に悪用されるおそれもある。専門家らは、国際刑事警察機構(インターポール)の「赤手配」などの制度について、各国に審査を強化するよう求めた。テロ対策や組織犯罪対策を名目として、反体制派らに対する国境を越えた追跡や拘束が行われることを防ぐためである。
声明は同時に、受け入れ国の保護責任も強調している。各国は、被害を申告するための窓口や保護制度を整備し、ノン・ルフールマン原則(不送還原則)を守るべきだとした。これは、帰国すれば拷問、迫害、その他の重大な人権侵害を受けるおそれがある人を、その国へ送還してはならないという原則である。
中国をめぐる越境弾圧の指摘と国連の対応
声明が発表された時期、国連人権理事会では、国連事務総長による最新の年次報告書が審議されていた。この報告書は、国連との協力に関わった個人・団体に対する報復や威嚇が指摘された32カ国を扱っている。このうち、越境弾圧に関する事例は13カ国で確認され、少なくとも43人と4団体が影響を受けたとされる。中国もその32カ国に含まれているが、公表された文書では、越境弾圧に関する事例が確認された13カ国の国名は個別に示されていない。
中国共産党当局による越境弾圧をめぐっては、国連の専門家から以前から懸念が示されてきた。2025年7月には、国連特別手続のマンデート保持者9人が中国共産党当局に連名で書簡を送り、中国の活動家や人権擁護者、少数民族・宗教団体の構成員が海外で人権侵害を受けているとする申し立てについて、説明を求めた。書簡では、2023年にラオスで拘束され、中国へ送還された人権派弁護士・盧思位氏や、2025年2月にタイから中国へ送還されたウイグル人40人の事案にも言及した。
9月24日に開かれた人権理事会の審議では、イギリス代表が事務総長報告書に触れ、中国共産党による「無謀な越境弾圧の試みは、今も続いている」と述べ、香港の民主活動家、劉珈汶(カルメン・ラウ)氏らを対象とした事例を挙げた。
国際人権団体Freedom Houseの最新報告書によると、2025年に同団体が記録した越境弾圧の事例数は中国が最も多く、ベトナム、ロシアがこれに続いた。同団体は同年、新たに126件の直接的・物理的な弾圧事例を記録し、2014年から2025年までの累計は1375件に上るとしている。
また、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)による「China Targets」調査は、23カ国の当事者105人に取材した。海外に住む中国の民主化運動家、香港の活動家、チベット人、法輪功学習者、ウイグル人らが経験した監視、脅迫、圧力の実態を取り上げている。
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