中国の医療制度について

2006/03/08
更新: 2006/03/08

【大紀元日本3月8日】革命以来、中国では国営企業が重点的に育成され建国初期の経済発展に寄与したことは未だに記憶に新しい。当時のインフラが全くないか未整備の段階で、それらの国営企業群が、従業員並びにその家族の傘や拠り所となり、その結果、単位と称される事業体が学校のみならず病院に至るまで備え、ある種の自己完結型の小宇宙を形成したと聞いている。現に革命後、僅か2年後には国有企業労働者への医療給付が開始し制度化され、以来、徐々にではあるが社会保障制度もそれなりに整備されていったとも聞いているが、その間、大多数を占める農民については人民公社が喧伝され、僻地では裸足の医者と言われる人達が出来る範囲での涙ぐましい医療活動を行ったことも日本にまで伝えられたものである。

簡単な外科手術まで行ったと言われる伝説の名医華陀の昔から、中国には針灸や薬草も含め東洋医学の粋があったことも事実であり、民間療法もそれなりに効果がある場合もあろうが、なにしろ大変な人口である。先進西洋医学の恩恵を13億の民に平等に与えるのは至難の技であることは自明であるが、ようやく全土で餓死の危険もなくなり衣食も賄える段階に至った時期に至って、困ったことに積年の計画経済の欠陥が露呈してしまい、朱前首相が強引とも言える手法で、八面六臂の活躍をされ、何とか今日の段階まで辿り着いたのは、他に良策もないまま止むに止まれぬ非常手段であったのだろう。その結果80年代から医療制度にも次第に独立採算制が導入される事となり、元々不十分な社会福祉制度そのものが多大な影響を受けたものと思われる。仄聞するところでは、このところ患者に対し法外な医療費を請求する医療施設が後を絶たぬ由であるが、朱前首相による改革の成果の陰で社会的弱者である人口の大多数を占める農民をはじめ1億を超えると言われる民工や都会の中下層労働者への医療は、その後どうなっていったのだろうか。

人間の寿命との関係もあるが、何れの先進国においても社会福祉や医療問題は為政者にとって真に頭の痛い問題である。 社会福祉が進むほどに税金の問題も大きくなる。 まして、国民の高齢化が進めば進むほど深刻な課題となる。当然、本邦に於いてすら焦眉の急務であること論を待たない。まして中国の場合、医療保険が比較的整備されているとされる都市部ですら精々加入者は半分程度、農村に至っては1割にも満たぬというのが真相であろう。現に「看病難」とか「看病貴」という、つまり「高すぎて医者に行けぬ」とか「医者代が高過ぎる」という中国庶民の悲鳴が伝わって来る。残念ながら、あの自他共に許す超大国の米国ですら医療保険の恩恵を受けられぬ人の数は30百万とも40百万とも言われる位だ。国務院とて万能ではないし、完璧を求めるのは酷とは思うが、果たして国務院が国民の医療問題に本当に全力を尽くしてきたのか否かは大きな問題であろう。

朱前首相が如何に有能な政治家であったにせよ。彼とて魔法使いではない。彼としては精一杯頑張ったのではあろうが、牢固とした官僚機構は所謂抵抗勢力だったであろうし、時間も限られていた結果、所詮は一種の辻褄合わせになった局面も少なくなかったことは容易に想像出来る。むしろ問題はその後のフォローアップ如何という事であろう。つまり朱前首相が世直しという外科手術の名医だったとして、手術の後の縫合を含めたフォローアップが入念に行われたのか。勿論、歳入に限度がある以上、朱前首相の後継者達も問題の所在は分かっていても無い袖は振れぬのは道理である。しかし、実際には、最善策どころか次善策も殆ど講じられぬまま、人民解放軍の近代化や或いは有人宇宙飛行等という庶民から見れば左程優先度の高くもなさそうな分野に膨大な資源が投入されたのではなかったのか。それも国境線に敵国の大軍が集中している等の理由があったり、或いは敵国の核ミサイル群が明日にも中国主要都市を壊滅しようとするような危機的情勢等は何等存在しないと云うのに。

勿論、為政者は国民を守ることを最優先すべき存在であり潜在的危機に備えると云うのも立派な理由ではあるが、深刻な金融問題、疲弊する農村は勿論のこと肝心の国民の大多数を占める農民の福祉や医療を今日まで見て見ぬ振りをしてきた責任をどうとるのか。あわてて平民病院なる施設を各地につくるだけで国民が納得するとはとても思えないのだが如何。

為政者には資源、具体的には人、物、金という有限の国家の資源を如何に有効に配分するかという義務がある。まして一党独裁を堅持してきた中国にあっては中国共産党に、その責任があろう。13億の民に対して近代化された人民解放軍や原子力潜水艦隊、ミサイル、人工衛星、手っ取り早く言えば国威発揚プロジェクトを見て病気を治しなさいとでも云うつもりなのか。共産党の領導や幹部達は、いつの間にか本来の共産主義社会では存在しない筈の特権階級となり、医療についても特別待遇を受けることに何等の矛盾や痛痒を感じていないように見えるのは筆者だけではあるまい。「借問す。共産党の幹部やその子弟達も平民病院に通院しているのでしょうね」と。

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