国際 春晩

中国版・紅白歌合戦、検索ブロックされたキーワード「口パク」「滑稽」

2018/02/19
更新: 2018/02/19

日本のNHKが大みそかに紅白歌合戦を放送するように、中国では旧正月前夜に国営中国中央テレビCCTV)が特番「春節聯歓晩会(春晩)」を放送する。国民的番組だが、ネットユーザによると放送中、複数のキーワード検索結果が表示されず、検閲されていることが明らかになった。

歌謡や寸劇、アクロバットなパフォーマンスなどを盛り込んだ年末恒例の年越しカウントダウン特番「春晩」は、世界7億人が視聴するといわれる。日本でも動画配信サイト「ニコニコ動画」などは、CCTVと契約して生放送を配信し、一定ユーザが視聴する。

しかし、中国の若者を中心に冷めた目で見る声がネットにしばしば寄せられる。例えば「56の民族は打ち解け合い、1つの家族、相思相愛だ」「中国夢の実現に向けて心を一つに」など、歌の歌詞に共産党の掲げる「中国の特色ある社会主義」の宣伝文句は要所に織り込まれている。

英語メディアのチャイナ・デジタル・タイムズによると、共産党当局はこの春晩に合わせて、いくつかのキーワードを検閲し、表示させないよう情報統制していることが分かった。春晩との組み合わせで表示がブロックされた事例は次の通り。吐槽(つっこみ、滑稽さのあまり批判したくなる)、 假唱(偽の歌い方、口パクの意)、 垃圾(ゴミ、酷い内容の意)、傻逼(あばずれ)、爛(ひどい)。

春晩は他にも、特定人種の外見や印象的な特色を過度にフォーカスするような捉え方に、欧米圏を中心に非難の声が上がる。このたびは、ケニアで、ナイロビとモンバサを結ぶ中国資本の鉄道開通をテーマにした寸劇は、酷く批判を浴びた。

14分あまりの劇の内容は、電車旅客案内人の中国人男性に、黒人女性に扮した中国人の中年女優が、黒人の娘と半ば強引に結婚させようとする話が中心となる。この母親役の女優は顔を黒く塗り、下半身を大きく見せる小道具をつけ、お尻をリズミカルに揺する。また猿の着ぐるみを着た人物を常に従えている。

ショーの前後には、黒人の半裸のダンサーや、インパラやシマウマに扮したダンサーたちが舞台で踊る。これについて英語圏を中心に「人種差別だ」「恥である」などの批判が集まった。

ケニアで「愛中国」を叫ばせるパフォーマンス

いっぽう、より注視されるのは、この寸劇に、中国共産党政権によるアフリカへの影響力も表現していることだ。

中国が融資した、ケニア独立後の最大規模のインフラ事業である長距離鉄道マダラカ・エクスプレス(SGR)は2017年5月に開通した。地域経済・貿易への効率化が進むと中国側は主張するが、巨額ローンを返済するのに、現地収入が見込めないとの見方もある。

合わせて読みたい:中国資本の長距離鉄道が開通 巨額債務かかえるケニア

春晩での寸劇は、鉄道旅客案内人のフィアンセ役として中国人女性がウェディングドレス姿でケニアに到着し、ケニア人の娘との結婚は破談になり、終演する。

母親役は、娘を結婚させることができなかった諦めについて「中国はアフリカのためにあまりに多くのことをしている。怒ることは出来ないよ。私は中国人が大好き!中国を愛している!」と叫ぶ。

ケニアの政治腐敗を誘う中国資本鉄道

中国資本の長距離鉄道「マダラカ・エクスプレス」SGRが開通し、車両内を見学するケニアのウフル・ケニヤッタ大統領(中央)(TONY KARUMBAAFPGetty Images)
 

開通した長距離鉄道「マダラカ・エクスプレス(SGR)」はケニアの年間国家予算の5分の1に相当する建設資金約38億ドル(約4200億円)の約9割を中国の銀行が融資している。ケニアでは1963年にイギリスから独立して以来の最大規模のインフラ事業で、中国が進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の一部。

大紀元特集:一帯一路

SGRが契約される前、ケニアにとって日本が最大の借款国だった。しかし、2016年には中国の融資は前年の800億円から2520憶円の3倍以上になり、現在はケニアの対外債務の総額57%を中国が占める。

ケニア政府はGDPの1.5%増を見込んでおり、SGR建設費を4年以内に完済できると自信を示す。しかし、ケニア経済学院のオビノ院長はAFP通信に対し、東アフリカの経済が低迷するなか、この期限での返済の可能性には懐疑的な見方を示した。

ナイロビ大学経済学部サミュエル・ニャンデモ教授は現地メディア「スタンダード・メディア」の取材に応じ、中国のプロジェクトは現地政府の腐敗を誘い、中国共産党政府の干渉を拡大する「債務トラップ外交」と呼んだ。

ニャンデモ教授は「中国資本のインフラのほとんどは、戦略的に中国製品への市場を開放させ、さらに現地の天然資源へのアクセスを拡大することを目的としている」「中国は、その資産を使って(インフラ投資国で)地理的な利益を生み出そうとしている。その国々は、中国の力に脆弱になる、いわゆる債務トラップに陥ってしまう」と分析を示した。

またニャンデモ教授は、同鉄道がケニアの政治腐敗と絡んでいると指摘。建設コストは周辺国の事業と比べて約2倍になり、政府当局者は入札を行わず中国に発注し、巨額の謝礼(賄賂)を受け取ったのではないかと疑っている。

ケニアの政治腐敗を反映するかのように、実際、SGR契約を締結した2015年の後、中国からの債務は大幅に上昇した。2017年5月に開催された「一帯一路サミット」に参加した、ケニアのウフル・ケニヤッタ大統領は、中国側にあらたにナイロビの幹線道路建設のために約1兆6000億円の融資を求めたと、同紙は伝えている。

(文・佐渡道世) 

関連特集: 国際