アングル:イランのネット世論操作、世界に広がる実態明らかに

2018/08/30
更新: 2018/08/30

Jack Stubbs and Christopher Bing

[ロンドン/ワシントン 28日 ロイター] – 世界のインターネット利用者を標的とした、イランによる情報操作とみられる活動が、従来特定されていたものよりもはるかに大規模であることが、ロイターの取材で分かった。

こうした活動には、匿名サイトやソーシャルメディア・アカウントなど11言語に及ぶ広範なネットワークが使用されている。

米フェイスブック<FB.O>や短文投稿サイトのツイッター<TWTR.N>、などは先週、複数のアカウントやウェブサイトが、他国の世論を秘密裏に操作しようとするイランによる政治宣伝活動の一部だったと発表した。

ロイターの分析によって、フェイスブックやツイッター、写真共有アプリのインスタグラムや動画投稿サイトのユーチューブ上で、さらに10件のサイトや数十件のアカウントが特定された。

米サイバーセキュリティー会社ファイア・アイ<FEYE.O>と、イスラエルのクリアスカイの2社が、この分析を検証したところ、今回特定したサイトやアカウントは、技術的な特徴から、フェイスブックやツイッター、そしてユーチューブを傘下に持つアルファベット<GOOGL.O>が、先週アカウントを削除したものと同じ団体に関連するものであることが分かった。

それはインターナショナル・ユニオン・オブ・バーチャル・メディア(IUVM)と呼ばる団体だ。

IUVMは、イラン国営メディアなどイラン政府の意に沿う媒体のコンテンツを、広くインターネットに発信している。その際、イランの英語メディアであるプレスTVや準国営ファルス通信、ヒズボラ系のアルマナルTVなど、元々の情報源を隠していることが多い。

プレスTVやファルス通信、アルマナルTV、イラン政府の代表者は、コメントの求めに応じなかった。イランの国連代表部は先週、イランによる操作活動を巡る指摘について、「ばかげている」と一蹴した。

多岐に及ぶ情報操作活動のネットワークは、イラン政府とつながりのある複数グループが、利用者を操作して政治宣伝を行うためソーシャルメディアを悪用している実態を示している。

また、テクノロジー企業にとって、自社プラットフォーム上で行われる政治介入活動を防ぐことが、いかに困難かも明らかになった。

米大陪審は7月、2016年の米大統領選で民主党候補のヒラリー・クリントン氏や民主党のコンピューターネットワークにハッキングを行ったとして、ロシア軍情報部の当局者12人を起訴した。ロシア側は容疑を否定しているが、米政府関係者は、ロシアが11月の中間選挙に再び介入を試みる可能性があると指摘する。

米シンクタンク大西洋評議会(アトランティック・カウンシル)デジタル科学捜査研究所のベン・ニモ上級フェローは、IUVMのネットワークは、イラン政府による活動の範囲や規模を表していると指摘する。同氏は過去に、フェイスブックのために情報操作キャンペーンの分析を行っている。

「これはイラン国家が発信するメッセージの大規模な拡声装置だ」とニモ氏。「オンラインで影響操作活動を行うことが、低レベルの技術でも、いかに簡単かを示している。イランの活動は、質より量を重視しているが、それでも何年も検知されなかった」

<継続調査>

フェイスブックではイランと関連のあるアカウントやページをさらに調べており、追加的な削除を28日実施したと、同社の広報担当者ジェイ・ナンカロー氏は語った。

「調査は継続中で、さらに見つかるだろう」と同氏は言う。「われわれや他社が先週、情報共有したことで、この種の信頼できない行動に対する関心が高まったことを歓迎する」

ツイッターは27日、自身のツイートで、利用規約違反により先週以降、さらに486のアカウントを削除し、停止したアカウント総数が770件に達したと発表した。「770の停止アカウントのうち、米国内だと主張するものは100件以下で、その多くが社会の分断を深めるようなコメントをしていた」と同社は指摘した。

グーグルはコメントを拒否しているが、ロイターがユーチューブ上のIUVMのアカウントについて質問した後、同アカウントを閉鎖。28日時点で同ページには「ユーチューブの利用規約違反により閉鎖」との説明が表示されている。

IUVMにメールやソーシャルメディアを通じて何度かコメントを求めたが、返事はなかった。

とはいえ、IUVMの目的は明白だ。IUVMのメインサイトには、本部がテヘランにあり、その目的は「目に余る傲慢や、西側政府、シオニスト(イスラエル)の活動に立ち向かうこと」とある。

<アップストアと風刺漫画>

 

IUVMは、インターネットを通じて、イラン国営メディアや、地政学的な問題を巡りイランに好意的な媒体からの情報を拡散している。

使用するネットワークには、ユーチューブのチャンネルや、ニュース速報サービス、携帯電話のアプリストア、そしてイスラエルや宿敵サウジアラビアを揶揄(やゆ)する風刺漫画のサイトなどが含まれる。

同団体のネットワーク活動は、英語以外にも、フランス語、アラビア語、ペルシャ語、ウルドゥー語、パシュトー語、ロシア語、ヒンズー語、アゼルバイジャン語、トルコ語、スペイン語などの言語で行われていることを、ロイターは確認した。

こうしたコンテンツのほとんどが後に、複数の他メディアサイトに再掲載されていた。その中には、ファイア・アイが先週、米国や英国のニュース媒体と見せかけたイランによるサイトも複数含まれる。

例えば、ファイア・アイが暴いた偽の米国ニュースサイトの1つ「リバティ・フロント・プレス」は1月、イランの盟友シリアのアサド大統領の軍隊が地上戦で勝利を収めたと報じた。同記事の出典はIUVMだったが、ファルス通信の記事2本から作成されたものだった。

ファイア・アイのアナリスト、リー・フォスター氏は、IUVMが運営するサイトの中でも最大級の「iuvmpress.com」は、2015年1月の登録時に、すでにイラン政府運営サイトとして確認されていた2つのサイトと同じメールアドレスを使用していたと話す。クリアスカイによると、IUVMが運営する複数のサイトが、イランの活動で使われている別のサイトと同じサーバーを利用している。

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

Reuters
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