焦点:金融危機のトルコ、エルドアン強権体制は「毒の杯」か

2018/09/06
更新: 2018/09/06

[イスタンブール 4日 ロイター] – 15年にわたりトルコの実権を握ってきたエルドアン大統領は、6月の選挙によってだれのチェックも受けない強権体制を確立した。しかしトランプ米大統領との対立をきっかけにトルコリラの急落に見舞われた今、危機を打開するための選択肢は乏しい。

6月選挙後の新制度では首相職が廃止され、エルドアン氏が閣僚などの任命権を掌握しただけでなく、司法や議会にも超越する立場を確保した。しかし独力で国を支配する道を選んだエルドアン氏は、だれの助けも借りずに危機に立ち向かう必要があり、強権体制は「毒の杯」と化す恐れもある。

<対外債務>

投資家は以前から、トルコのインフレ高騰と経常収支赤字の拡大を懸念していた。そこに突如持ち上がったのが米国人牧師の拘束問題を巡るエルドアン氏とトランプ氏の対立だ。トランプ氏はトルコ製の鉄鋼とアルミニウムの関税を2倍に引き上げ、トルコリラは8月だけで25%も下落した。

エルドアン氏にとって喫緊の課題は資金の確保となる。

JPモルガンによると、2019年7月までに償還期限を迎えるトルコの対外債務は1790億ドルで、うち1460億ドルはトルコの銀行を中心とする民間部門の債務。銀行は海外から資金を借りるが、収入は主にリラで稼いでいるため、リラの急落によって返済負担が急増している。

<選択肢>

目下の注目点は、エルドアン氏が今月の国連総会などの機会を利用し、トランプ氏と和解するかどうかだ。

与党・公正発展党(AKP)に近い筋は、エルドアン氏が和解に動く可能性はあり、その場合、拘束している米国人牧師アンドルー・ブランソン氏が「表層的だが重要な切り札」になると言う。

同筋はまた、トルコが再び欧州連合(EU)にすり寄ると予想。政権内では、エルドアン氏が今月訪問するドイツが、EUによるトルコ財政支援の旗振り役を務めてくれるとの期待が強いという。

トルコは長年EU加盟交渉を続けてきたが、交渉は今、風前の灯の状態だ。

EUから支援が得られたとしても、それだけでは十分ではないだろう。トルコと最も親密なカタールは150億ドルの支援を約束しているが、これも焼け石に水だ。

同筋は「国民は徐々に貧乏になっているため、経済は大きな懸案事項だ」と指摘。「わが国はここ何年も建設以外の投資を行っていないが、ビルは食べられない」と嘆く。

インフレは急騰しており、中央銀行は、来週にリラの急落に歯止めを掛けるための利上げをすると示唆している。しかし金利を毛嫌いするエルドアン氏は利上げがインフレの元凶との考えの持ち主であるため、利上げがあるとしても「遅すぎて小幅すぎる」結果になりそうだ。

こうなると、トルコが国際通貨基金(IMF)に支援を仰ぐ可能性が高まる。しかし政府は、国家主権を明け渡すことになるとしてその可能性を排除してきた。

アルバイラク財務相は2日ロイターに対し、「私はIMFを必要としていない」と述べた。

前出の関係筋は「われわれは選挙戦のスローガンでたびたびIMFを罵倒し、IMFの重荷から抜け出したことを誇ってきた」だけに「IMFへの支援要請は非常にハードルが高い」と言う。トルコはAKPが政権を握る直前の2000─01年の金融危機後、IMFの支援を受けた。

ただこの筋は、エルドアン大統領は国民に状況を説明するのが上手なうえ、メディアをほぼ完全に掌握していると付け加えた。

一方、AKPの選挙戦責任者を務めたムスタファ・セントプ氏は、他の新興国市場に比べてトルコ経済は良好だとし「トルコが債務返済資金の手当てに困るとは思っていない」と話している。

(Samia Nakhoul記者 Dominic Evans記者)

Reuters
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