アングル:米中通商紛争と無縁のオーストラリア、輸出好調

2019/07/27
更新: 2019/07/27

[シドニー/メルボルン 24日 ロイター] – 米中の果てなき貿易戦争で、ドイツから日本までほとんどの国が逆風を食らう中、打撃と無縁の国がある。オーストラリアだ。鉄鉱石価格高騰に加えて中国からの強い需要や豪ドル安が追い風となって輸出が好調で、「対中貿易は鉄鉱石頼み」との揶揄も揺らいでいる。

オーストラリアは昨年の財とサービスの輸出が前年比13%増加。今年も米中通商紛争が激化したにもかかわらず1─5月に前年同期比で15%増えた。

輸出の好調でモリソン新政権は景気てこ入れのための財政的な余裕を手に入れた。オーストラリア準備銀行(中央銀行)のロウ総裁は最近「資源セクターの回復」が景気の見通しを下支えしていると述べており、中銀も自信を強めている。

コムセックのエコノミスト、ライアン・フェルスマン氏は「オーストラリア経済にとって貿易は大きな支えだ」と指摘。「世界の貿易を不透明感が覆っているが、オーストラリアは嵐を切り抜けてきた。景気は鈍化しているが、貿易が間違いなく支えになっている」と述べた。フェルスマン氏は28年間にわたり景気後退に陥ったことのないオーストラリアが当面、この記録を伸ばすとみている。

実際にオーストラリアは5月の貿易黒字が過去最高となり、4─6月期の経常収支は1979年以来、40年ぶりに黒字となるかもしれない。

<重なる追い風>

オーストラリアは最近の鉱石価格高騰で最も大きな恩恵を受けた。最大の輸出品の鉄鉱石はブラジルの鉱山ダム決壊事故後に価格が急騰。上海市場で今月初めに126.5ドルと5年半ぶりの高値を付けた。

鉄鉱石はオーストラリアの中国向け輸出の43%を占める。しかし中国はオーストラリアから乳製品や肉などの食品、石炭なども輸入しており、サービス分野は教育や観光などで中国からの引き合いが強い。

オーストラリアは中国国内の消費だけを標的にした輸出が増えている。アジア開発銀行のデータに基づくコモンウェルス銀行(CBA)の分析によると、中国向けのこうした輸出がオーストラリアの国内総生産(GDP)に占める比率は5%で、国内小売業の比率の4.6%を上回っている。しかも驚くことに中国からの需要は鉱業分野と非鉱業分野の比率がほぼ等しいという。

CBAのシニア通貨ストラテジスト、ジョゼフ・カプルソ氏は「オーストラリアの中国向け輸出は設備投資用鉄鋼製造のための鉄鉱石だけではない。もっと深化し、幅が広い」と説明。「このことがオーストラリアと中国の貿易は鉄鉱石だけに頼っているという神話を打ち壊すのを期待している」と述べた。

輸出の3つめの追い風が豪ドル相場の下落。コモディティ通貨である豪ドルは今年に入って軟調に推移し、このことがオーストラリアの輸出額を押し上げた。

豪ドルは中銀の低金利政策が長引くとの観測が重しになっている。中銀は6月以降、2度の利下げを実施し、政策金利は過去最低の1%となっている。

アナリストの中には、中銀がさらに金利を引き下げ、現在0.7000米ドル近辺で推移する豪ドル/米ドル相場が年内に0.65米ドルまで下落するとの見方もある。

(Swati Pandey記者、Melanie Burton記者)

Reuters
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