アングル:産油国政府系ファンド、最大2250億ドルの株処分か

2020/04/01
更新: 2020/04/01

[ロンドン 29日 ロイター] – 中東とアフリカを中心とする産油国の政府系ファンド(SWF)は、石油価格の急落と新型コロナウイルス感染拡大による財政悪化を背景に、最大2250億ドル分の株式を処分売りに出す可能性がある。JPモルガンのストラテジスト、ニコラオス・パニギルツォグロウ氏がこうした試算を示した。

同氏によると、最近の世界的な株価下落により、非産油国を含めた世界のSWFは、合計で約1兆ドルの含み損を抱えている。

産油国の一部SWFにとって、損失拡大を覚悟して株式投資を維持する選択肢はない。原油価格の下落と緊急経済対策のダブルパンチにより、財政が悪化しているからだ。

パニギルツォグロウ氏によると、ノルウェーを除く産油国のSWFは、ここ数週間で既に1000億―1500億ドル分の株式を処分しているとみられ、今後数週間でさらに500億―750億ドル分を売却する可能性がある。

「SWFは株価がさらに下がってから売りたくはないので、前倒しで売るのは理にかなっている」と同氏は言う。

大半の産油国SWFは、石油価格の暴落によって政府から資金を求められる事態に備え、多額のキャッシュを維持するよう義務付けられている。

こうしたSWFの関係者は、原油価格が2018年10月に付けたピークの1バレル=70ドルから下がったのに伴い、徐々に流動性資産を増やしてきたと説明。現金の留保に加え、次には典型的なのは政府短期証券などの短期金融商品の売却から流動性を増やし、最後の手段としてパッシブ投資していた株式に手を付けるやり方だと述べた。

 

<通貨防衛に利用も>

世界のSWFの規模は総額約8兆4000億ドルで、このうち産油国ファンドの占める割合が大きい。石油収入が枯渇したときの防波堤として蓄積した資金だ。

SWFは世界の株式保有の5―10%程度を占める重要な市場参加者であり、米資産運用会社の重要な収入源となっている。

ペルシャ湾岸諸国のSWFは、株価下落だけでなく石油価格の急落による重圧にもさらされている。国際金融協会(IIF)の中東・北アフリカ首席エコノミスト、ガービス・イラディアン氏は、湾岸諸国のSWFの資産が年末までに2960億ドル減少する可能性があり、うち2160億ドルは株価下落分、800億ドルは資金が逼迫した政府による引き出しだと予想した。

サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールの中央銀行は既に総額600億ドルの景気刺激策を打ち出したが、流動性逼迫を見越して湾岸諸国の通貨には売り圧力がかかっている。

これら諸国の通貨は数十年前から米ドルにペッグ(固定)しており、通貨防衛のためにSWFが使われる可能性も指摘されている。

公的通貨金融機関フォーラム(OMFIF)の首席エコノミスト、ダナエ・キリアコポウロウ氏は「過去10年間で、一部の国は中央銀行の準備金をSWFに移し、リスク性資産に柔軟に投資できるようにした。しかし通貨防衛のために準備金が必要になるかもしれない今、中銀よりもSWFに多額の準備金があることには、問題が生じるかもしれない」と語った。

(Tom Arnold記者)

*記事の内容は執筆時の情報に基づいています。

Reuters
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