アングル:新型コロナは発明の母、世界で感染防止アイデア製品

2020/04/07
更新: 2020/04/07

[ロンドン/オークランド/ブカレスト 1日 ロイター] – 英国のロンドン西部にある家具メーカー、DDBの経営者兼デザイナーのスティーブ・ブルックさんは先週、車を運転しながら工房に向かう途中で新型コロナウイルスのことがふと頭に浮かび、一体どうやったらドアのノブにさわらずに開けることができるかを考えた。

そこでブルックさんが発明したのが、ドア開閉用の「衛生(ハイジーン)フック」だった。衛生フックは十分ポケットに収まるほどのサイズで、小さな穴がない素材なので掃除も簡単だ。

これは新型コロナ感染拡大を防ぐために編み出された数百に上る新製品のほんの1つにすぎない。世界中の家具メーカーから人工知能(AI)ソフトウエア開発業者まで、既存製品に一工夫を加えたり、一から開発を手掛けたりして、新型コロナ流行に負けずに自宅や病院、あるいは隔離場所での生活環境を改善できる発明品が次々に登場している。

こうした取り組みは長年、大手企業の「専売特許」と言える分野だった。試作品設計から量産品製造まで時間をかけられず、資金力やそれなりの設備が必要だからだ。実際、足元でもフォードやエアバス、LVMHなどは自社の工場を消毒液やマスクなど新型コロナ対策に欠かせない医療品の生産ができるように素早く切り替えている。

ただ現在は、3Dプリンターや機能性の高いソフトウエアが存在しているという点が、従来との決定的な違いだ。つまり大手だけでなく小規模企業でも、より迅速に製品を生産することが可能になった。

米国のカリフォルニア州に拠点を置く製品設計企業CADクラウドの創設者マッケンジー・ブラウン氏は「3D関連資源を使って積極的に(新型コロナ対策の)役に立ちたいと思っている人が数多くいるのは間違いない」と語る。

そうした中で2週間前、CADクラウドは新型コロナ危機を乗り切る各種製品を募集する1カ月のコンペを開始。これまでの約65件の申し込みには、手首に装着する殺菌スプレーや、ボタンを押すために指の部分だけにはめる手袋、タクシー利用者が手を使わずにドアを開けられる装置などが含まれている。

新型コロナの流行で人々の衛生意識が高まっているので、一部の製品は今の危機が収まった後も生き残れるかもしれない。

<既存技術を応用>

新興企業は自社の技術を応用しようとしている。

例えば米国のシアトルでは、ジョセフ・トレスさん、マシュー・トレスさん兄弟と、友人が経営するスライトリー・ロボットは元来、皮膚のかきむしりや爪かみといった精神的な自傷行為を抑えるためのリストバンドを開発していたが、先月地元で初の新型コロナによる死者が出たと報道されると、設計を手直し。手を顔に近づけると警告音が鳴るスマートバンドを新たに製造した。

ルーマニアのロボットソフト企業Uiパスは、アイルランド首都ダブリンの病院で看護師が時間のかかる新型コロナの検査結果のデータ入力や仕分け作業をしなくても済む方法を見つけ出した。同社は、他の病院でも実現できると期待している。

また米国で学校やカジノの銃探知システムを手掛けるAI企業、Scyllaも、中国で新型コロナ感染が伝えられたのをきっかけにこの分野に目を転じた。AIを駆使した従来の検知ソフトを改良し、人間の体温測定をして熱があれば警報を発する仕組みを導入したのだ。最高技術責任者のAra Ghazaryan氏は、病院や空港、企業の事業所といった場所で使うことが可能で、ある中南米の政府からすでに5000件のライセンス生産の注文を獲得していると明らかにした。

<第2次大戦以来の技術革新>

世界的な社会経済の混乱は、しばしば新製品や技術革新をもたらす。

今活発化している人々の創意工夫は、最終的には第2次世界大戦時に匹敵する規模になるかもしれない。当時も企業や政府、科学者が取り組んださまざまなプロジェクトがその後の社会にも持続的な影響を及ぼした。1つ例を挙げれば、ロケット誘導に使われた技術は初の人工衛星打ち上げにつながり、やがて人類を月に送り込んだ。

自身も発明家で英国発明家協会の共同創設者のケーン・クラマー氏は今後について、「何千とは言わなくとも何百もの新しいアイデアが出てくるのは確かだ。誰もがウイルスと闘うためだけに『武器』を取りつつある。これは世界的な戦争だ」と強調した。

多くの企業は新製品を寄付するか、赤字覚悟で販売している。CADクラウドのコンペに持ち込まれた製品の設計図は無料でダウンロードできる。もっとも一部の企業にとっては、こうした新製品の販売が、新型コロナ大流行で失われた本業の収入を幾分穴埋めしてくれる可能性もある。

(Josephine Mason記者 Peter Henderson記者 Luiza Ilie記者)

 

4月1日、世界中の家具メーカーから人工知能(AI)ソフトウエア開発業者まで、既存製品に一工夫を加えたり、一から開発を手掛けたりして、新型コロナ流行に負けずに自宅や病院、あるいは隔離場所での生活環境を改善できる発明品が次々に登場している。写真は、。手を顔に近づけると警告音が鳴るスマートバンドを身に着けたジョセフ・トレスさん、マシュー・トレスさん兄弟。シアトルで3月撮影。提供写真(2020年 ロイター/Immutouch)

 

Reuters
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