大紀元時報

アングル:コロナで出国禁止、フィリピン看護師たちの「苦闘」

2020年09月25日 16時12分
フィリピンでは、病院や介護施設で新型コロナウイルスにより数千もの人々が命を落としている国々に赴き、看護の仕事に就くことを願っている医療従事者たちがおり、自らを「囚われの看護師」と呼ぶようになっている。写真は看護師のエイプリル・グローリーさん。メトロマニラの空港で8月撮影(2020年 ロイター/Eloisa Lopez)
フィリピンでは、病院や介護施設で新型コロナウイルスにより数千もの人々が命を落としている国々に赴き、看護の仕事に就くことを願っている医療従事者たちがおり、自らを「囚われの看護師」と呼ぶようになっている。写真は看護師のエイプリル・グローリーさん。メトロマニラの空港で8月撮影(2020年 ロイター/Eloisa Lopez)

Karen Lema and Clare Baldwin

[マニラ 16日 ロイター] - フィリピン全土から、人々はズームを介してオンラインで集い、祈りを捧げる。「出国許可を得られますように」という祈りである。

彼らは、病院や介護施設で新型コロナウイルスにより数千もの人々が命を落としている国々に赴き、看護の仕事に就くことを願っているのだ。ここ数カ月、こうした医療従事者たちは自らを「囚われの看護師」と呼ぶようになっている。

フィリピン国内でも感染が拡大しているため、政府は4月、医療労働者の出国を禁止した。国内でのコロナとの戦いに必要とされている、というのが政府の言い分だった。

8月20日にズームを使って2時間にわたり行われた会合は、ある労働組合が主催したもので、国内・海外の双方から200人近い医療労働者が参加した。参加した看護師の多くは、国内で働くことを嫌がっている。給与が不当に低く、評価もされず、保護も不十分だ、と彼らは言う。

政府による奨励策も手伝って、フィリピンは数十年にわたり看護師を他国へと送り出しており、他分野の労働者と合わせ、本国への送金額は年間数十億ドルにも達している。

フィリピンが医療労働者の出国を禁止した結果、米国、湾岸諸国、英国の病院に数十万人のスタッフを送り出していた供給路が圧迫された。こうした諸国では、看護師をコロナ医療の「陰の英雄」と呼ぶ声もある。

<深刻な国内医療の人手不足>

一方、フィリピンの医療体制は、ただでさえ人手不足だ。国際労働機関のデータによれば、人口1万人あたりの医師・看護師の数は、ドイツが430人、米国が337人、英国は254人である。

これに対しフィリピンは、65人しかいない。フィリピンは東南アジア諸国のなかで新型コロナによる死亡率が最も高い国の1つである。

4月の出国禁止措置により、1000人以上の看護師が出国できなかった。だが先月末、フランシスコ・デュケ保健長官が記者団に語ったところでは、こうした看護師のうち、国内の病院での仕事に就いたのはわずか25人だったという。保健省に最新の数値について問い合わせたが、回答は得られていない。

その後、政府は部分的に出国制限を緩和したが、また強化することもあり、看護師らは引き続き制限解除を強く求めている。

34歳の看護師エイプリル・グローリーさんは、すでに何年も幼い息子と離れて暮らしており、出国禁止措置が始まったときも、まさに他国に向けて出発しようとしていた。独自にロイターの取材に応じた彼女は、パンデミック(世界的な大流行)が起きる以前でも、国内にいるよりも戦火の絶えない中東地域の方が良い暮らしができた、と話す。

2011年にイエメンに到着してまもなく、勤務先の私立病院の壁を銃弾が貫いた、と彼女は言う。スタッフは患者を安全な場所に避難させた。

それでも、と彼女は言う。「保険にも入れるし、宿泊費は無料で報酬を手付かずのまま取っておけるから、家族への仕送りも増やせる」 海外では、職務明細書に記載されていない仕事は一切やらなくていい。「床掃除をやることは期待されていない」

<稼げないフィリピン、海外と格差>

フィリピン人を海外に向かわせるのは、もっぱら収入の問題だ。

労働団体やリクルート企業、フィリピン政府によれば、米国では看護師の収入は月5000ドル(約52万4000円)にもなる。中東諸国では月2000ドルだが、所得税は掛からない。ドイツでは最大月2800ドルだが語学研修を受けられる。

フィリピン保健省は緊急採用の取組みを進めているものの、提供できる初任給は月650ドルにすぎない。保健省では、COVID-19に伴う危険手当として別に1日10ドルを支払うとしている。

民間の看護師の場合、月100ドルしか稼げない場合もある。

グローリーさんは、国を出ることにした理由を「十分に稼いでいないと感じていた」と説明する。いま11歳の息子は、当時は1歳半だった。「母から言われた。子供の記憶が曖昧な今のうちに離れた方がいい、と」

海外では、グローリーさんの勤務シフトは標準的な1日8時間で、集中治療室で一度に1人か2人の看護をするだけでよかった。イエメンに続いてサウジアラビアで働き、家と車を買うことができたという。

最近では、訓練を終えて看護師になる人数よりも、国外に流出する看護師の方が多い状況だ。昨年フィリピンでは、1万2083人の新人看護師が看護学校を卒業した。高等教育委員会、フィリピン海外雇用庁のデータによれば、同じ年、海外での雇用契約にサインした看護師は1万6711人である。海外での契約を更新した人数は別計算だ。今年に入ってから、海外での契約更新は4万6000人に達している。

フィリピン政府では、海外で働くフィリピン人看護師の総数やどの国で働いているかを把握していなかった。

米国では、外国人看護師のうちフィリピン人は最大の多数派だ。ワシントンに本拠を置くシンクタンク、移民政策研究所による連邦政府データの分析によれば、2018年には34万8000人のフィリピン人看護師がいた。今年、パンデミックにもかかわらず、新たに3260人のフィリピン人が米国の看護師資格試験に合格している。

5月に英国下院ライブラリーに提出された報告書によれば、ナショナル・ヘルス・サービス(NHS)において外国人が就労している看護職のうち、15000人以上がフィリピン国籍だった。全体の3分の1近くで、他のどの国よりも多い。NHSは看護師以外の医療従事者として、さらに6600人のフィリピン人を雇用している。

就職斡旋事業者によれば、英米両国の他、ドイツ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、シンガポールでもフィリピン人看護師への需要が高いという。

<36時間勤務で患者の世話>

フィリピンでパンデミックが始まってから9カ月、国内で報告された感染者は約27万人に膨れあがった。フィリピン看護師連合会のマリステラ・アベノジャー会長によれば、すべての病院が家族の訪問を認めているわけではないため、看護師たちは医療行為だけでなく、患者の食事や入浴まで任せられているという。

アベノジャー会長によれば、交代要員の病欠や無断欠勤のせいで、36時間連続の勤務を強いられる看護師もいるという。また、シフト1回につき個人防護具が1セットしか支給されない場合もある。看護師でも定期的な検査を受けられず、体調が悪化した場合でも、彼らのために病床が確保されているとは限らない。

保健省のデータによれば、フィリピンでは少なくとも56人の医療労働者が新型コロナのために死亡している。

フィリピンの私立病院で働くジョーダン・ユーゴさんは「この社会は我々の貢献を実は評価していないように思える」と語り、「それが辛い」と顔をしかめた。

彼は英国で働く契約を結んでいたが、政府の禁止措置により出国がかなわなかった。

ユーゴさんは、時には1日2回しか食事できないこともあり、もう兄弟姉妹を養うこともできない、と話す。

フィリピン保健省は、国内の医療労働者は長時間勤務を強いられており、「彼らが疲労感を抱き、あまりの責任の大きさにウンザリしてしまうとしても無理はない」と述べている。一部の地域では「交代要員チーム」の手配をしたという。

同省は、各病院は十分な個人防護具を提供すべきであり、医療労働者はそれを着用しなければ勤務すべきではないと述べている。また医療労働者はCOVID-19の定期的な検査を優先的に受けるべきで、保健省は全員のために十分な病床を確保する、としている。

デュケ保健長官は以前、政府は看護師たちの「国家意識、国民としての自覚、犠牲的精神」に訴えている、と話していた。

<「英雄にはなりたくない」>

諸外国は、フィリピン人看護師に対する高い評価を示すべく、出し惜しみをしていない。

サウジアラビアはフィリピン人看護師の職場復帰を支援するために航空便をチャーターし、ソーシャルディスタンスを確保できるよう、定員の一部までしか搭乗させない配慮を示した。

英国のダニエル・プルース駐フィリピン大使は、フィリピン国内のテレビ番組に出演し、英国におけるフィリピン人医療労働者の「驚くべき熱意と貢献」を称賛した。

36歳の看護師アイリーン・アモンチオさんは、3月、休暇でフィリピンに帰国中にロックダウンと出国禁止措置に巻き込まれたが、英NHSは特別に「新型コロナ休暇」を認め、給与の支払いも続いたと話す。NHSでは、新型コロナのために英国外で動きが取れなくなっているスタッフには、そうした特別休暇が与えられる場合があると話している。

アモンチオさんは6月、政府が出国禁止措置を少し緩和したことで、フィリピンを出ることができた。

英国ではNHS系列の神経科リハビリ病院で働くアモンチオさんは、母国フィリピンの看護師には同情すると話す。以前は彼女もフィリピン国内の小さな病院の外科病棟で、一度に最大80人も担当していたことがある。現在では、担当患者が一度に10人を超えることはない。

アモンチオさんによれば、英国の方が給与水準と労働条件が良いというだけに留まらず、いずれは娘を呼び寄せて、同国のNHSが提供する無料の治療を受けさせたいと言う。娘が必要としているインプラント式補聴器は、フィリピンでは2万ドルもかかるのだ。

「母国にはもう貢献した」とアモンチオさんは言う。「また英雄になりたいとは思わない。自分の子どもの将来を模索しているところだ」

8月のズームによる会合には、シルベストル・ベロ労働長官も参加し、最新の情報を伝えた。「海外ですでに契約を締結している者の一部は、出国を認められる」と長官が発表すると、喝采が湧いた。

看護師のグローリーさんもその1人だ。彼女は涙を流した。

「政府は、国を離れようとしているからといって私たちを責めないでほしい」と彼女は言う。「別の方法で新型コロナと闘うよう政府を支援していきたいと思っている。貧困から抜け出して、私たちが力を持てば、それは可能だ」

それから数時間後。彼女は空港脇の歩道ですばやく息子を抱きしめると、政府が気を変えないうちにと搭乗ゲートへと足を速めた。

(翻訳:エァクレーレン)

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