島、岩、マグロ 海面上昇による新たな課題に挑戦する太平洋島嶼国

2021/04/02
更新: 2021/04/02

数十億米ドルに上る漁業資源を有し、月面よりも広い海域の主権的権利や管轄権を恒久的に確保するため、太平洋島嶼諸国で海面上昇との新たな戦いの幕が切って落とされた。

将来的に発生し得る海面上昇に関係なく、自国の基線から200海里(約370キロ)範囲内に設定できる排他的経済水域(EEZ)を恒久的に固定するため、キリバスからツバルにわたる島嶼国は海洋に点在する離島の地図作製作業に着手している。

異常気象に伴う水位上昇より島が浸水することで、排他的経済水域が縮小すると同時に、水域内の漁業や採掘の権利が縮小することに懸念を抱く太平洋島嶼国は、現在、既存の範囲を固定することに取り組んでいる。

太平洋島嶼国を中心とする地域協力機構「太平洋共同体(SPC)」フィジー支部の海洋・海事プログラムのイェンス・クルーガー(Jens Kruger)副所長は、「切迫感がある」と述べている。 クルーガー副所長の説明によると、国連海洋法条約(海洋法に関する国際連合条約/UNCLOS)に従って限界を固定すれば、太平洋島嶼国は「海面上昇や気候変動により発生する変化により、排他的経済水域が縮小する心配をしなくてよくなる」わけである。

海面上昇が世界的な問題として認識される前に制定された1982年の国連海洋法条約に基づき、沿岸国が200海里までの大陸棚を申請すれば、その勧告に基づいて排他的経済水域を恒久的に固定することができる。 地球の気温上昇に伴う南極大陸やグリーンランドの氷河融解よる水位上昇により、低地の住民は居住地の放棄を余儀なくされる可能性がある。

こうした土地は「島」ではなく「岩」と見なされるため、国連海洋法条約の下では「人間の居住または独自の経済的生活を維持することのできない岩」は排他的経済水域も大陸棚も有しない。 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、今世紀中に海面は最大で1メートルも上昇する可能性がある。

太平洋島嶼諸国は高潮、洪水、海岸侵食、塩水侵入により居住地にすでに害が及ぼされており、資産の中でもとりわけ家屋や農場に大きな損害が発生することを懸念している。 また、こうした島嶼諸国ははるか沖合の管轄権を有することで重要な経済的利益を得ている。特に日本、韓国、米国などの諸国のマグロ漁船に販売する漁業ライセンスによる収益が大きい。

中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)によると、同地域の2019年のマグロ漁獲量290万トンは5800億円相当(58億米ドル)の価値に上り、世界の漁獲量の55%を占めている。 万が一島が水没すれば、水域はもはやどの国の排他的経済水域ではなく、公海の一部であるために誰にでも漁業を行う権利があるとして、外国漁船によりマグロ資源が奪われる可能性がある。

国連データによると、フィジー、キリバス、トンガ、ツバルなどを含む太平洋島嶼国10か国を合わせた面積は6万2000平方キロで、そこに約200万人の人々が暮らしている。 こうした諸国の排他的経済水域を合計すると、これは実に4000万平方キロに及ぶ。月面は3800万平方キロ、アフリカ大陸全体の面積は3,000万平方キロである。つまり月やアフリカ大陸よりも大きいのである。 

(Indo-Pacific Defence Forum)

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