国会で「孔子学院」問題にメス入る 文科相「動向を注視」

2021/05/20
更新: 2021/05/20

中国共産党のプロパガンダを吹聴し、次の時代を担う若者に対して洗脳教育を施す孔子学院を野放しにしていいのかー。有村治子(ありむら・はるこ)参議院議員は13日、参議院文教科学委員会で問題提起を行った。先進国で孔子学院が次々と閉鎖に追い込まれるなか、日本政府も孔子学院の実態を把握し学問の自由が妨げられることがないようにすべきだと有村氏は述べた。萩生田光一文部相も答弁を行い、政府で対応していく姿勢を見せた。

有村氏は文教科学委員会で、防衛省の防衛研究所が4月に発表した「東アジア戦略概観2021」のなかで孔子学院が取り上げられていることについて指摘した。孔子学院は、表向きでは「中国語と中国文化の普及を図る目的」のNGOだが、実態は教育部や中国共産党の中央宣伝部の下部組織であり、中国共産党の影響力を全世界に拡大させるための機関である、と警鐘を鳴らした。

「孔子」と全く関係がない「学院」

「孔子の名前を冠しているが、孔子学院の授業内容は、論語や儒教とは直接関係がない」と有村氏は話す。「文化大革命では迫害の対象となった孔子も、世界に冠たる『ブランドネーム』として中国共産党に重用されている。胡錦濤政権に続く習近平政権においても、ソフトイメージを使った海外工作を重視しており、外遊先では積極的に孔子学院を訪問している」。

日本においては少なくとも14の大学に孔子学院は設置確認されている。

いっぽう、米国では孔子学院は有害であるとして、閉鎖を求める声が出ている。外務省の有馬参事官は答弁の中で「米国大学教授協会は2014年に発出した声明の中で、大学が第三者による統制を許すことは学問の自由という原則に相容れないとして、孔子学院と各大学の合意内容が適切な形で見直されない限り、大学に対して契約停止を推奨している。また、全米学術協会は2017年の報告書で、知的自由や透明性の観点から懸念すべき点があるとして、全大学に孔子学院の閉鎖を呼びかけている」と述べた。

米国上院は2019年2月、米国の教育に対する中国からの影響について公式報告をまとめた。報告は、中国政府が孔子学院を通じて米国教育機関に1億5000万ドル以上の資金を投入してきたことや、採用された教員は中国政府の教育を擁護するよう制約されていることを問題視している。また、一部の学校では契約内容が非公開で学問の自由の観点から契約内容は公開されるべきだ、などと指摘している。

これらの危険性をはらむ孔子学院について、米政府は取り締まりを開始した。2020年、当時の国務長官だったポンペオ氏は、孔子学院は「中国共産党による世界規模のプロパガンダ機関であり、政治宣伝工作に使われている、と断定した。同年10月、ポンペオ国務長官とデボス国務長官は連名で、全米各州の教育長官と全米各大学の学長に対して通達し、米国の教育が受ける中国共産党の影響について深刻に警告を発した。

米上院では2021年、孔子学院の規制に関する法案を与野党全会一致で可決した。

諸外国の対応

孔子学院に待ったをかけているのは米国だけではない。他国での孔子学院に対する措置として、外務省は、カナダのマクマスター大学やシャーブルック大学、フランスのリヨン大学、ドイツのシュトゥットガルト・メディア大学やホーエンハイム大学、スウェーデンのストックホルム大学などの高等教育機関が孔子学院を閉鎖したことを把握していることを明らかにした。

有村氏は質問のなかで、オーストラリアにおける中国共産党の浸透工作を記した書籍『サイレントインベージョン(邦題:目に見えぬ侵略)』にも孔子学院に関する記述があると言及した。著者のクライブ・ハミルトン博士が、「米国で取り上げられた孔子学院の数々の問題点を、同様な手口で、オーストラリアのキャンパスが侵食されている状況が、関係大学や個人の実名で記録されている」と紹介した。

このうえで、自由主義諸国が孔子学院の問題に対処しようとしているのは、「ホームランド、つまり、自国本土の教育現場、将来を担う若者の学び舎が、中国宣伝工作のターゲットになっているということを、安全保障の脅威として捉えて」いるからだと強調した。

有村氏は、「共産党一党支配の国が管理する組織が日本の大学に設置されることは、果たして健全なことなのかどうか」と投げかけた。

孔子学院に言論の自由はあるのか

有村議員は答弁の中で、孔子学院は言論の自由が著しく制限されていることについて触れた。「孔子学院では、例えば、チベット、ウイグル問題、天安門事件、宗教弾圧、人権問題など、中国共産党にとって不都合なテーマを取り扱わないタブーがある」と取り上げた。

「私たち日本をはじめ、民主主義国の高等教育においては、多様な言論が自由に表明されてこそ、真理の探究が進むとの理念がある。キャンパスにおける言論、思想、学問領域の自由を堅持するために、各国は努力して孔子学院に対する透明性を求めている」。

有村氏は文科省に対し、「孔子学院の現状把握や人事権、予算権、カリキュラム編成権において、日本の大学が主体的な管理を行えるよう孔子学院の透明性」を図るよう提言した。

萩生田文科相「動向を注視」

萩生田光一(はぎうだ・こういち)文部科学大臣は同日の参議院文教科学委員会に出席し、有村議員の質問に対して答弁を行った。荻生田大臣は、孔子学院がある大学に対し「大学の主体的な研究活動が妨げられることがないよう組織運営や教育研究内容などの透明性を高めるべく情報公開を促していきたい」と表明した。

そのうえで、荻生田大臣は「大学は学術の中心であってその研究教育に関して当然に自主性が尊重されることが重要だ。孔子学院については、同盟国である米国、そして自由や民主主義、法の支配といった共通価値観を持つヨーロッパの国々から廃止や情報公開を求める声が高まっている。孔子学院は透明性が求められる存在だと承知している」と発言した。

産経・矢板明夫氏「学生は孔子学院で洗脳教育を受けている」

産経新聞台北支局長の矢板明夫氏は新唐人テレビの取材に対し、中国政府は公立大学や私立大学といった公共プラットフォームを利用して宣伝活動を行っていると指摘した。「日本の一般的な学生は大学に入ると大学校内に孔子学院があるのを知る。学生たちは孔子学院を大学教育の一環だと考えるだろう。しかし学生が孔子学院で学べば、ある種の中国政府の洗脳教育を受けてしまい、価値観の形成に際して大きな影響を受けてしまう」。

矢板支局長はまた、孔子学院問題における日本と他の先進国の温度差について、「欧州や米国ではこの問題が認識されており、政府も措置を講じている。しかし、今のところ日本政府は何の具体的措置も講じていない」と述べたほか、「日本の自民党保守派の多くの議員がこの問題を警戒」する動きがあると紹介した。

(王文亮)

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