南米ボリビアで大規模な自然破壊 背後にあるのは中国向け牛肉の生産急増

2021/11/20
更新: 2021/11/20

ブラジルと国境を接し広大な熱帯雨林を自国内に有する南米の国、ボリビア。いま、この国の豊かな自然環境が経済的な理由で「合法的に」破壊されている。自国民を環境破壊に突き動かすものは一体何なのか、大紀元記者が調査を行った。

輸出の急拡大

ボリビアにある9つの州のうち、サンタ・クルス州は面積が最も大きく、温暖な気候も相まって農業が盛んな地域だ。放牧地を拡大し、より多くの食料を生産するため森林伐採や焼畑農法が行われていたが、森林火災の問題がだんだんと顕在化してきた。

この問題が深刻化する発端となったのが、2019年4月にボリビアと中国共産党の間で交わされた一つの協定だった。

当時の大統領で「社会主義運動(Movimiento al Socialismo : MAS)」党を率いていたエボ・モラレス氏は、中国への牛肉の輸出を増加する協定に署名した。

2019年8月、モラレス氏は中国向けの牛肉2コンテナ分を初出荷したと発表した。しかしボリビア国内では、急増した牛肉の需要に対応するため、サンタ・クルス州のチキトス地区では1万5625ヘクタールもの耕作地が燃やされ、牧草地に換えられてしまったとの公式報告が出されている。同年12月にボリビア国防省が発表したところによると、火災による被害は4472世帯に及び、負傷者98人と死者1人を出した。約4000万本の木が灰と化した。

ボリビア対外貿易協会(IBCE)によると、中国への牛肉輸出量は2019年の3000トンから2020年の1万トンへと飛躍的に増加している。同国から輸出される牛肉の8割は中国向けだった。

焼畑農法が唯一の手段

サンタ・クルス州の西郊外に位置するポロンゴ村に住むマヌエル・バルガス氏は、約10ヘクタールの広さの農場を持つ畜産業者だ。しばしばジャングルを燃やし、牛の放牧地を作っている。

サンタクルス県ポロンゴ(Porongo)村にあるマヌエル・バルガス氏の牧場。2021年9月26日撮影(Autumn Spredemann/The Epoch Times)

「牛は食べ物を食べなければならないし、牛が増えればより多くの土地を開墾する必要がある」。バルガス氏は大紀元の取材に対し、肩をすくめて言った。

「牛を飼うにはお金がかかる。ほかと比べれば、私は小さな牧場主に過ぎず、大型機械を買う金銭的余裕なんてない。火を放って森林を燃やす方法が一番手っ取り早いのだ」。

牛肉増産と森林火災の関係性

環境問題を主に扱う南米のメディア「モンガベイ」の報道によると、牛肉の輸出量が増加した時期は、ボリビアの熱帯雨林で大規模な森林火災が起きた時期とちょうど重なっていた。火災により100万ヘクタール近い熱帯雨林が被害を受けた。

約2万4000もの家畜生産者が住むサンタ・クルス州はボリビア有数の牛肉生産地だ。山火事の発生件数も全国で2番目に多く、隣接するベニ州と合わせると焼失した面積は全体の94%を占める。今年7月までにサンタクルス州では33万8000ヘクタールが焼失した。

「中国との取引のせいでジャングルは深手を負った」。このように語るのは、ボランティア消防士で、元陸軍捜索救助隊長の経験を持つフリオ氏だ。

消火活動の合間に一休みする消防士たち。2019年8月、チキトスにて撮影(Cesar Calani Cosso/Epoch Times)

彼はモラレス政権時代に与党の「社会主義運動」党で働いていたこともあるため、フルネームを公表しないことを条件に大紀元の取材に応じた。

フリオ氏は、2019年8月にサンタ・クルス県のチキトス地方で森林火災の消火活動に参加した際の恐ろしい体験を語った。

「火災から逃げ遅れた動物たちの死体を見ました。なんとか生き残ったものも2日から3日で死んでいきました。火事が何もかも焼き尽くし、動物たちにはなにも残されていなかったのです」。

中国との取引は「災害」

自然環境が大規模に破壊されている現状に対し、農業に詳しいボリビアの経済学者エドゥアルド・ホフマン氏は、ボリビアと中国共産党との牛肉取引は 「災害」だったと大紀元記者に語った。

「賛否両論といっても、牧畜を収益源としていない人にとって、メリットなんてないのだ」とホフマン氏。儲けているのはアグリビジネス業界と政府だけであるにもかかわらず、政府はすべての人々が豊かになるという青写真を描いていると指摘した。

ホフマン氏は中国に対する輸出取引と2019年以降の森林火災との関係について、「関連性があるかどうかは疑問の余地がない。絶対に関係がある」ときっぱり言った。

モラレス元大統領は2019年4月25日、中国との貿易協定の締結の前後に、牧場主が焼畑することを合法化する法律を制定した。

その法律では、政府の「統合火災管理方針」に従う限り、焼畑を許可するというものだった。政府は、今後の農業の見込みがある牧場には3年間、家畜の資産がある牧場には5年間の許可を与えた。さらに、政府の許可を得ずに土地を燃やした場合でも、適切なタイミングで罰金を支払えば、その金額が一部減免されるというインセンティブまで法律に組み込まれていた。

牧場では、バルガス氏が山火事に対して曖昧な態度を崩さなかった。「何ができるというのか。お金に背を向けろというのか」と、牧場で草を食べている牛を見ながらつぶやいた。「確かに(火事は)毎年ひどいが、いずれは消えるんだ」。

一連の問題に関して、ボリビア当局はコメントを控えた。

(翻訳編集・田中広輝)

南アメリカを拠点とする記者です。主にラテンアメリカに関する問題をカバーしています。
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