ウクライナ紛争 中露主導の新秩序の台頭か

2022/03/19
更新: 2022/03/19

米国の同盟国や共和党の高官らは、バイデン政権の対応を注意深く見守っている。もし米国がロシアの軍事侵攻を容認するならば、台湾を狙う中国に対して誤ったメッセージを送ることになるからだ。実は、もう手遅れなのかもしれない。

問題は、米国がその従属国であるウクライナを守れなかったことではなく、中国との対立を避けてきたことである。中国共産党が香港の民主主義を踏みにじったとき、米国は助けようとしなかった。新型コロナの起源については、嘘を重ねる共産党の責任を追及してこなかった。

何十万人もの米国人が亡くなった。しかし、米国の安全保障を担う「エスタブリッシュメント」(既存の支配層)は、中国に対して何の行動も起こさない。国家情報機関の諜報員は、中国自身が自ら公表しない限り武漢での真相を知る術はないと、バイデン大統領に報告したという。つまり米政府は、中国が危険なウイルスを流出させた可能性について、いかなる責任も問わないと決めたのである。

この背景を見ると、キエフの惨状は原因ではなく、結果に過ぎない。ロシアによる侵攻が中国の台湾侵攻を招くのではない。新型コロナをめぐる責任追及に失敗し、中国共産党を牽制できなかったために、ロシアを含む反米の国が増長したのである。

ウクライナ紛争は、米国のリーダーシップを否定する「中露主導型」の新しい国際秩序の台頭を浮き彫りにした。米国主導の世界秩序は終わりを告げるのだろうか。

50年前、ニクソン大統領は敵対関係にあった中国を訪問し、国交を樹立した。キッシンジャー外交政策顧問は、中国との関係を改善し、中ソ間に楔を打てば、ソ連に対抗できると考えたのである。しかし米国の現政権は、中国とロシアの接近を防ぐという戦後最大の戦略目標を台無しにした。

ソ連崩壊後、ロシアは欧米の助言を得て、「ショック療法」と呼ばれる経済の自由化を図った。しかしそれは、共産主義で既に腐敗していた制度を復活させたに過ぎなかった。現在のロシアの支配構造は当然の結果といえる。オリガルヒ(振興財閥)のピラミッドの上には、怒りに燃える元KGBの将校(プーチン)が座っている。

プーチンの台頭を尻目に、米国のエスタブリッシュメントは中国をグローバリズムの中心に据えた。中国共産党が支配する安価な労働力に依存する政治・経済秩序である。これは米中のエリートを裕福にする一方、米国の労働者階級と中産階級、また国家安全保障を犠牲にして成り立つ仕組みである。

中国との歴史的な国交樹立から半世紀が経った。ニクソンとキッシンジャーが米国の利益のために形成した地政学的な戦略は根底から覆された。北京とモスクワは、かつてないほど緊密な関係にある。バイデン政権下にある米国は、今や哀れな懇願者になり下がったのである。

ニューヨーク・タイムズの報道によると、米国の情報機関はプーチンのウクライナ計画について、中国のスパイ組織と情報を共有していたという。米国は中国に依頼し、プーチンを抑制しようと試みたのだ。

非常に不思議な話である。バイデン政権の失態を常に擁護するメディアであることを考えると、事実は報道よりも悪い可能性が高い。いずれにしろ、この報道はバイデン政権の奇妙な戦略を露わにした。ホワイトハウスは中国を「挑戦者」、「競争者」と呼んでいるが、実際は中国を「お世話になっている大国」として接している。

バイデン政権は崩壊しつつあるエスタブリッシュメントを象徴しているのか。彼らがこの国をあの世に引きずり込むかどうかは、緊迫する海外情勢に挑戦できる新たなアメリカン・リーダーシップの台頭と、その手腕にかかっている。

執筆者プロフィール

リー・スミス(Lee Smith)

ベテランのジャーナリスト。「Real Clear Investigations」「Tablet」などの情報紙で活躍する。著書に「The Permanent Coup」、「The Plot Against the President」がある。

オリジナル記事:「Ukraine War Highlights the Rise of a New International Order」より

(翻訳編集・郭丹丹)

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