焦点:ウクライナ侵攻受けNATO拡大機運、「露の脅威」現実に

2022/04/06
更新: 2022/04/06

[バルデュフォス(ノルウェー) 4日 ロイター] – 今年3月、ノルウェー北部の沿岸に銃声と砲声が響き渡った。フィンランドとスウェーデン両軍が初めて連合部隊を編成、北大西洋条約機構(NATO)と合同演習を実施した。

両国ともNATOには加盟していない。演習はずっと前から決まっていたが、ロシアのウクライナ侵攻を背景とした欧州の緊迫感の高まりを象徴する形になった。

スウェーデン軍の将校はロイターに「脅威が存在すると認識していないなら、あまりにもおめでたい。欧州全域の安全保障環境は一変しており、われわれはそれを受け入れ、適応しなければならない」と語った。

ロシアのプーチン大統領はNATOの東方拡大を阻止する意味もあってウクライナに侵攻した。しかし、それがかえって北欧諸国の間に警戒感を引き起こし、近いうちにロシアの近隣国がNATOに新規加盟する皮肉な展開につながるかもしれない。

フィンランドはロシアと国境を接し、その距離は1300キロに及ぶ。同国のニーニスト大統領は3月28日、フェイスブックへの投稿で、NATOのストルテンベルグ事務総長に新規加盟受け入れの諸原則と手続きの詳細を問い合わせたことを明らかにした。

また、ハービスト外相はロイターに対し、NATOに加盟する30カ国の「ほぼ全て」と新規加盟の可能性を議論したとし、4月半ばまでに議会へ必要事項を提出すると述べた。

中立を掲げ、1814年以来戦争をしていないスウェーデンはもう少し慎重だ。それでも地元テレビ局が最近行った世論調査では、フィンランドが加盟するならスウェーデンもNATOに入りたいとの意見が59%に達した。

NATO加盟国の一部は、既にフィンランドとスウェーデンをパートナーとみなしている。米海兵隊のバーガー司令官は演習中、記者団に対して、正式加盟に絡む政治問題を別にすれば、両国は訓練を通して「戦友」になったと言い切った。

ストルテンベルグ氏は3月上旬、NATOはウクライナで起きている戦争に関してフィンランド、スウェーデン両国とあらゆる情報を共有していると発言。両国は定期的にNATOの会合にも出席しており、ストルテンベルグ氏は演習中、世界で両国ほど近しいパートナーはいないと話した。

ただ、ストルテンベルグ氏は「われわれが加盟国に提供する絶対的な安全保障は当然加盟国にしか適用されない」と述べ、非加盟の両国が置かれた重要な立場の違いを指摘した。つまり両国は、どの加盟国への攻撃もNATO全体への攻撃として対応する集団安全保障の網の目には入っていない。

ロシアはこれまで、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟には繰り返し反対しており、インタファクス通信によると、3月12日の外務省談話で、両国が加盟すれば「重大な軍事的、政治的結果を招く」と警告している。

ストルテンベルグ氏は、フィンランドとスウェーデンが「速やかに」加盟することは可能との考えを示した。今年1月には、「プーチン氏はロシアと国境を接するNATO加盟国が減ることを望んでいる。だが(現実には)彼がNATO加盟国を増やしつつあるのだ」と述べている。

<戦争の記憶>

ロシアとの国境近くにあるフィンランドの町イマトラで暮らすクーセラさん(80)は、実際の戦争を知る1人だ。1939年から44年の間に当時のソ連がフィンランドに2回侵攻し、幼かったクーセラさんは父を失い、兄弟とともにスウェーデンに逃れた。戦争が終わって帰国し、父が眠る墓を訪れた。「(当時のことは)いつも心の奥底にある。父が生きていればどんな感じだったのだろうか」と話す。

フィンランドはソ連との戦争で約9万6000人が死亡、5万5000人の子どもが父親を失った。ソ連への領土割譲で40万人余りが家をなくした。

だが、フィンランド国民は頑強に抵抗する姿勢を示し、この戦争以降は強力な国防力を持ちつつ、ロシアと友好関係を築くという明確な国家目標を定めてきた。同国は徴兵制を敷き、男女合わせた予備役はおよそ90万人。国際戦略研究所(IISS)によると、欧州最大級の規模だ。フィンランドとロシアの国民同士の交流は活発で、イマトラでは今年、1772年にロシア帝国のエカチェリーナ女王が当地を訪れてから250年を迎えたことを祝う催しも計画されていた。

現在、イマトラにあるロシアとの国境検問所は警備の人員が配置されていない。フィンランドの治安当局は、ロシアの軍事力がウクライナや国内の作戦に集中的に投入されていると説明。それでも、状況はあっという間に変わり得ると警告した。

ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、フィンランド国内では各地の予備役部隊、女性だけの予備役部隊に応募する人が増えている。応募した女性の1人のルーメさん(48)はイマトラ近郊の住民で「国民は祖国を守る意思を誰もが持っていると思う」と語った。

フィンランドは食料、燃料、医薬品の国家的な緊急配給制度を持つ数少ない欧州諸国の1つ。第二次大戦以降、全ての主要な建物は地下シェルターを備えることが義務付けられ、全国5万4000の施設に人口550万人のうち440万人を収容できる。

NATO加盟支持者はここ1カ月で増加し、直近の世論調査で加盟賛成が62%、反対はわずか16%となった。

治安当局は3月29日、フィンランドのNATO加盟議論を快く思わないロシアが、世論操作や威嚇に動く事態に警戒すべきと注意を呼び掛けた。ハービスト外相はロイターのインタビューで「国防政策について拙速に決定する必要はない。だが(NATOに)加盟する可能性によって、われわれが干渉やハイブリッド攻撃の標的になってもおかしくない。フィンランドはこれに備え、NATO加盟国の対応にも耳を傾けなければならない」と語った。

<スウェーデンも雰囲気一変>

スウェーデンがロシアに脅威を感じるようになった時期は、フィンランドよりも遅かった。例えば冷戦終了後は国防費を削減し、緊急用シェルターの保守管理も放棄していた。しかし今や雰囲気は一変しつつある。ロシアが2014年にクリミアを強制編入すると、スウェーデン政府は再び軍備を強化し、ロシアのバルト艦隊本拠地に近いゴトランド島の兵力も増強。その年に限定的な徴兵制を復活させた。

今月に入って政府は、国防費を2倍に拡大して国内総生産(GDP)の2%前後にするとともに、いざとなれば最大700万人が避難できるように防空壕ネットワークを再整備する方針を打ち出した。

3月2日に出た世論調査では、ロシアの脅威が増したと答えた人の割合は約71%と、1月時点の46%を大幅に上回った。手動式発電ラジオや水のろ過装置など防災用品がよく売れている。

外交関係者や政治家は、フィンランドのほうがスウェーデンより早くNATOに加盟することになりそうだと言う。フィンランドのハービスト外相はこの問題で「ほぼ毎日」スウェーデンの外相と話し合っていると明かした。

ある外交政策専門家は「フィンランドが単独加盟するのは理想的ではない。加盟手続きに内在するあらゆるリスクがフィンランドに降りかかるからだ」と解説した。

スウェーデンでは、政府と野党が安全保障政策の分析作業を進めており、5月にも結果が公表される見通し。アンデション首相は3月30日に出演したテレビ番組で、この結論がどうなるか見極めるのが大事だと強調した。与党の社会民主労働党はNATO加盟に反対しているが、野党4党は加盟を支持している。

*カテゴリーを追加し再送します

(Robin Emmott記者、 Essi Lehto記者、 Simon Johnson記者)

Reuters
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