農業研修生、元留学生…日本の農産物が中国に流出した様々なルート

2022/08/19
更新: 2022/08/20

農林水産省は5月、ブドウ「シャインマスカット」の中国への無断流出が年間100億円の損失を生じさせていると試算し、話題となった。ブドウのほか、いちご「紅ほっぺ」、かんきつ「紅まどんな」など日本が誇るブランド農産物も中国や韓国に渡った。

流出ルートについて、中国メディアは農業振興の成果をアピールするさい、たびたび触れている。そこには来日した農業研修生留学生、民間交流参加者など、さまざまなルートの存在が浮かびあがった。中国側の資料には、品種の持ち出しが正しい手続きを経ているかどうかについての説明がない。

シャインマスカット、開発後早い段階で流出か

シャインマスカットの場合、少なくとも3つの流出経路が報じられた。

バラの香りをするシャインマスカットは中国では「陽光玫瑰」と呼ばれている。ほかにはシャインの中国語読みにちなんで「香印青提」「香印翡翠」とも呼ばれている。

中国メディア観察網8月4日付によると、シャインマスカットは07年12月、浙江葡萄産業協会の関連企業によって浙江省金華市に導入された。日本国内の報道では、同品種の流出時期が2016年とされているが、中国側の報道ではそれより約10年も前にすでに中国で栽培されていたこととなる。

同協会の副会長が経営する会社は1987年から日本の品種を中国で栽培し始めた。当時、日本に留学している娘に新品種の情報を収集してもらい、「藤稔」をはじめ数十種類の品種の栽培を試みたという。そのうち、シャインマスカットを含む複数の品種の栽培に成功した。糖度が28度に達するシャインマスカットは、中国で「果物界のエルメス」との異名を持つようになった。

もう一つのルートは中国人留学生だった。雲南省宣伝部傘下のニュースサイト、雲南網2019年2月12日付によると、岡山大学に留学し、現在上海交通大学で教授を務める人物は2012年、交流活動のために日本を訪れ、友人からシャインマスカットの苗を3本入手した。中国農業部(省)に持ち込みの申告をしたが、入国時税関で2本を没収された。残された一本の苗を使って栽培に成功した。同教授はシャインマスカットを「陽光玫瑰」と命名した。

中国の長江より南の土地は長らくブドウの栽培に不向きとされていたが、同教授は技術を改善し、中国南方での栽培を可能にした。「陽光玫瑰」はその後、湖北省、雲南省、湖南省、広西省、広東省、江蘇省など華南各地の政府に脱貧困の起爆剤として積極的に導入された。

シャインマスカットの栽培面積は20年に少なくとも5万3000ヘクタール、日本の栽培面積(19年に1840ヘクタール)の29倍に相当する。中国で栽培された果実は、香港や東南アジアにも輸出されている。

なお、登録品種を自家増殖し、海外に持ち出すことは、今年4月に種苗法が改正される前も法律で規制されている行為だ。

江蘇省通州市のブドウ農家曹海忠氏は、2009年に日本からシャインマスカットを直接持ち出した1人だ。「ブドウ大王」とも呼ばれる曹氏は、栽培技術を習うために16回も日本の専門家のもとを訪れ、これまで持ち帰ったブドウは40種類以上に上る(南通州網2017年8月25日)。

農業研修生も流出経路に

かんきつ「紅まどんな」(中国名:紅美人)の流出には農業研修生が関わっていた。2001年に浙江省から愛媛県に派遣された複数の研修生は翌年の帰国の際、紅まどんな、晴姫、媛小春など10数種類のかんきつを持ち帰った。彼らは2012年に再び来日し、その際にも複数の品種を持ち帰った。彼らが中国で経営する農園には現在約百種類の日本産かんきつ系商品作物が栽培されている。(毎日頭条2022年2月12日

愛媛からオレンジ「天草」を持ち帰ったのも研修生だった。1991年、かんきつ栽培の技術を習得するため、浙江省象山県から愛媛県吉田町(現:宇和島市)に派遣された研修生は、休日を利用して、農作業の手伝いなどを通じて周辺の農家と親しくなった。ある農園の経営者から育成中の新品種の苗を譲ってもらった。1年ほどの研修期間を終えたこの研修生は23種類の苗を持ち帰り、そのなかに「天草」も含まれていた。

日本人専門家の存在

日本から中国に苗を持ち帰っても、土壌、水質、天候、肥料などの違いにより、栽培を成功させるのは容易なことではない。そこで登場するのが日本人専門家だ。

日本の専門家が栽培技術を中国の農家に伝えた結果、多くの商品作物が中国で栽培されるようになり、産地の形成も進んだ。中国から海外市場に輸出された作物は、日本の農家を脅かす存在となった。

静岡県藤枝市在住の山上優氏はイチゴ品種「紅ほっぺ」の開発者の一人だ。NPO法人日本シニアボランティアズ協会(定年退職後の中高年技術者等が、海外の開発途上地域に技術支援を行なう団体)が安徽省合肥市長豊県からの依頼を受けて、山上氏を派遣した。山上氏は7回訪中し、イチゴ産業の発展のための指導を行った(人民網日本語版2015年12月17日)。

山上氏ら3名の専門家の指導により、長豊県は安徽省における「国外の技術導入」の成果を示した模範的拠点となり、数年連続イチゴ栽培ナンバー1の県としての座を保っているという(出典は同上)。

リンゴ栽培の専門家である塩崎三郎氏は2007年5月、河南省三門峡市外国専門家局の招請を受け、三門峡市で果樹栽培の技術指導を行った。中国メディアによると、同氏は100回以上中国を訪れた。

NPO法人日本シニアボランティアズ協会のホームページ(HP)によると、1985年から2021年3月までに中国へ派遣された農、畜、水産、経営管理などの専門家は3,901人に上る。

果樹栽培、脱貧困政策として利用も

中国で近年、生活レベルの向上につれ、品質の良いものを求める風潮が強まっている。その影響は食にも及び、形と味で優れている日本の農産物は富裕層を中心に人気を得ている。中国のSNS微信(ウィーチャット)で「日本 品種」を検索すると、ブドウ、いちごのほか、かぼちゃ、スイカ、キャベツ、バラ、菖蒲など様々な農産物がヒットする。そして「日本から導入した品種」と隠さずに宣伝されている。中国メディアの報道によれば、日本からの品種導入は90年代からすでに始まっていた(騰訊網2019年8月29日付)。

長期にわたる流出の背景には中国の国策が存在する。1994年8月、世界の農業技術に追いつくため、中国では『海外先進農業技術導入』プロジェクトが始動し、96〜00年までの5年間、海外から1000の技術を導入することを目標に掲げた。日本のデコポン「不知火」の導入はプロジェクトの成果の一つとしてあげられている(騰訊網2019年8月29日付)。

とくに果樹に関しては、中国の地方政府が脱貧困対策として導入する場合が多く、公的機関が栽培技術や産地形成の面でサポートしている。

日本も中国からの研修生を受け入れたり、中国に専門家を派遣したりするなど中国の農業発展に協力してきた。だが、中国側はこうした善意につけ込み、技術を盗んでいるとは当時、想像もできなかったことだろう。

今年4月1日、日本では種苗法改正案が施行され、育成者が栽培地域を日本国内に限定するなど新品種の海外流出を阻止することが可能になった。ただ、流出経路は一つではないうえ、多面的な対策が求められる。また、これまで日中友好の美名の下で行われてきた日中間の各種の交流が国益にかなうものであるかどうかも検証する必要がある。

李沐恩
李沐恩
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