オピニオン 上岡龍次コラム

米中の戦略と戦略が無い日本

2023/06/10
更新: 2023/06/12

緊張が高まる米中関係

中国は覇権を世界に拡大したことでアメリカとの関係が悪化。アメリカから見れば中国からの挑戦になるので警戒する。だが中国はアメリカを恐れることなく人民解放軍の強化を進めたことで緊張が高まるだけだった。そして中国とアメリカの関係は対立関係へと変化していく。

人民解放軍とアメリカ軍の対立関係は以前から続いているが台湾海峡と南シナ海でエスカレートしている。米軍偵察機RC135は5月26日に南シナ海の国際空域で活動していると人民解放軍の戦闘機が「不必要に挑発的な操縦」で異常接近したと発表した。さらに台湾海峡で6月3日、人民解放軍の艦艇がアメリカ海軍駆逐艦の約140メートルまで接近した。

アメリカは中国との外交関係を強化する意向だが中国からの明確な返答は得られていない。本来であれば双方が衝突回避の対策や譲歩をする動きを見せるが、中国とアメリカの場合は何も見えてこない。

 

戦略を持つ国と持たない国

結論から言えば中国とアメリカは戦略を持つが日本は持たない。本来であれば国防のための戦略を持って挑むが日本だけが無いのが現状だ。何故なら第二次世界大戦で敗北すると戦争と軍隊を放棄し、代わりに自衛隊を保有するが独立国家としての体裁を整えるだけの飾りとしての存在に留められている。実際に自衛隊統合幕僚会議が三矢研究(1963)を行っていることが暴露されると当時の野党が噛み付いている。このため日本は戦争の研究・戦争計画・戦略に関することは禁忌に近くなった。

中国  :持久戦略・瀬戸際外交戦略
アメリカ:決戦戦略
日本  :無し

中国は接近阻止戦略を採用いているが、これは持久戦略に該当する。中国は太平洋を超えて来航するアメリカ海軍空母艦隊を段階的に攻撃して損害を与える。そして大陸までアメリカ海軍空母艦隊を引き寄せて沿岸部で撃破する構想を持っている。これを実現するために弾道ミサイルの弾頭に対艦ミサイルを装備した兵器まで開発する。

アメリカ海軍は基本的に世界各地で活動するため攻撃的な決戦戦略で挑んでいる。これは海軍として基本的な方針であるため中国に対しても変わらず採用している。日本は戦後から自衛隊を国防に使うが戦略が無いため結果的にアメリカ頼みになっている。

 

中国の問題点

中国は持久戦略として接近阻止戦略を採用し適合した兵器まで開発した。だが大陸から太平洋上のハワイまで攻撃できるとしても、アメリカ海軍空母艦隊が既に大陸の沿岸部まで到達していたら無意味な戦略と兵器だった。

中国の接近阻止戦略はアメリカ海軍空母艦隊がハワイから行儀良く大陸まで移動し、中国の攻撃を段階的に受けてくれることが前提。アメリカ海軍空母艦隊が自ら攻撃を受けるはずもなく、初期段階から大陸の沿岸部で活動することで中国の接近阻止戦略を無効化している。このため中国の兵器開発は時間と金の無駄になった物が存在する。

第二次世界大戦までのアメリカ海軍空母艦隊は複数の空母を中心に配置して一つの艦隊として運用していた。戦後の冷戦期になるとソ連の核攻撃を想定することになる。当時のアメリカ海軍はソ連からの核攻撃に対応するために、一隻の空母を中心とした現代の空母艦隊に編成を変えた。

これで複数の空母艦隊を分散運用することで核攻撃に対応できるようになった。仮に一つの空母艦隊が核攻撃を受けても他の空母艦隊は生き残れる。この概念は中国の接近阻止戦略にも対応できる柔軟性を持っていたため大陸の沿岸部でも活動する根拠になっている。

中国としては段階的にアメリカ海軍空母艦隊に損害を与え、弱った時に沿岸部で攻撃して勝利する目論見だった。根底から戦略を破砕されたので別の戦略へ移行した。中国は接近阻止戦略から瀬戸際外交戦略へ変更したと推測する。瀬戸際外交戦略は相手国にコストが合わない小さな戦争を売りつけて譲歩を求める戦略だ。

この瀬戸際外交戦略を採用して成功しているのが北朝鮮。この成功例を目の前で見ているから中国は台湾と南シナ海で実行しているのだ。何故中国は強烈にアメリカを軍事的に威嚇するのか?それは、人民解放軍では勝てないから瀬戸際外交戦略でアメリカに譲歩を求めている。つまり中国の人民解放軍は張子の虎なのだ。

 

日本の問題点

日本の問題点は戦争の研究・戦争計画などを持てないことが問題。三矢研究などで野党から叩かれたことで防衛庁時代から研究に関して萎縮した。朝鮮半島の有事を想定した予測だけで叩かれるのだから、戦略や戦争計画などは無いのが現状なのだ。

これらは政治家が決めることであり自衛隊側の責任ではない。政治家が想定する戦場を決めることで自衛隊が陸海空を統合運用する。戦後日本は国境の内側に敵軍が侵攻してから反撃するから戦略が無い。だから国境の外である台湾・南シナ海で活動する戦略や戦争計画などは無いのだ。
 

国防方針の手順
1:国防の基本方針で防衛の目標を定める。
2:どのように守るかの「戦略」を立てる。
3:仮想敵国に対する「防衛戦争計画(Defense war plan)」と「有事動員計画」を作成するとともに、予期しない脅威の発生に対応する「不測事態対処計画(contingency plan)」を備えておく。
4:防衛戦争の危険が発生しないように、国際社会と協力する「関与の戦略」を立てる。
5:戦闘ドクトリンを研究開発し、それを演練する常備軍を編制する。そして、防衛戦争計画と動員計画の発動に備えた「平時体制」を整備する。
6:防衛インフラストラクチャーを強化するため、基地を戦略的に展開・整備する。

 

基本的に国防方針を保つ必要が有るが、今の日本は国内を戦場にする専守防衛が基本方針。これでは戦略が持てないから、国境の外で戦う国防方針に変更しなければならない。これで戦略を持てるので、次に防衛戦争計画(Defense war plan)・有事動員計画・不測事態対処計画(contingency plan)を持つことで戦争に対応できる日本となる。

 

不測の事態に備えよ

中国の人民解放軍は接近阻止戦略をアメリカ海軍空母艦隊に粉砕された。そこで瀬戸際外交戦略に切り替えて対抗する張子の虎。台湾海峡と南シナ海で人民解放軍が強烈に威嚇するのもアメリカに譲歩を求めるため。これは弱い犬ほどよく吠える現象だからアメリカが強気に出れば中国の瀬戸際外交戦略を破砕する。

だがアメリカが警戒しているのは不測の事態。人民解放軍の攻撃性が拡大するなら偶発的な戦闘から国家間の戦争に発展する可能性が有る。アメリカが譲歩しないから人民解放軍の攻撃性が拡大しているのだから、日本は中国とアメリカの戦争に巻き込まれることを想定すべきだ。何故なら、今の日本にできることはそれだけなのだ。

 

この記事で述べられている見解は、著者の意見であり、必ずしもエポックタイムズの見解を反映するものではありません。

戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。
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