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イーロン・マスク氏の報われない人生

2025/05/01
更新: 2025/05/01

私の近所に駐車しているテスラの自動車には、「イーロンが狂っていると知る前にこの車を買った」と書かれたバンパーステッカーが貼られており、まるで傷をつけないでくれと懇願しているかのようだった。

興味深いメッセージだ。それは抗議なのか、嘆願なのか、それともその両方なのか? この車が素晴らしいのは明らかで、彼もそれを気に入っている。しかし最近では、テスラの自動車を運転するという行為自体が、マスク氏の政治的行動ゆえに、何らかの暗黙のメッセージを帯びるようになっている。

リベラル派のエリートたちは、地球への愛を示すステータスシンボルとして、何年もこの車を購入してきた。しかし、そのすべてが変わってしまった。今、彼らはまるで実存的危機を揺るがすような危機を感じている。というのも、エリート層の間で、この車に背を向ける動きが広がり始めているからだ。

そして財産に対する暴力キャンペーンが始まった。暴走集団が販売店を襲い、自警団が国中の車やトラックを破壊した。その結果、これまで疑われるだけだった左派政治の一面が明らかになった。つまり左翼は暴力的な傾向を秘めており、それは憂慮すべきことであり、恐怖ですらある。

「人は自分の購入物によって定義される」という考え方は、私たちの消費行動が単に製品そのものに関するものではなく、それを製造している企業に対する賛否の表明でもある、という意味だ。その一例が、バドライトに対する大衆消費者のボイコットに見られた。

しかし、こうした暴力的な行動は、単なる消費者によるボイコットをはるかに超えている。自由市場において、何かを買わないという選択に異を唱える者はいない。だが、他人の選択に対して攻撃的な言動を取るのは、まったく別の問題だ。

最高経営責任者(CEO)の政治的な行動が、同社を製品の主要な顧客層との関係悪化へと引きずり込んだのは間違いない。

それが売上と株価の大幅な下落を招いた主な原因であることも、ほぼ確実だ。

電気自動車全体の販売は増加傾向にあるようだ。しかしテスラは、極めて混乱した選挙と、CEOによる公務員制度の解体を試みる動きの末に、不釣り合いな損失を被った。

この落ち込みはあまりに深刻で、マスク氏は政治から距離を置き、再び会社と自身の評判の立て直しに集中しようとしている。確かに、数か月前と比べて彼の発言は控えめになったように見える。市場は彼を謙虚にさせ、ビジネスに立ち返らせ、政治という泥沼から引き戻したのかもしれない。

「政府効率化省(DOGE)」と呼ばれる彼のプロジェクトは今も続いており、最終的には彼の正当性が証明されるだろう。しかし現時点では、彼は大きな痛手を負っている。当初、支出削減によって2兆ドルを節約できると見積もっていたが、裁判所の判決や手に負えない官僚制度の影響で、その見積もりは繰り返し引き下げられてきた。

現在の見積もりは1500億ドルであり、その多くが訴訟費用として消える見込みだ。恐ろしい現実だ。マスク氏が米大統領の全幅の信頼を得てしても実現できなかったのなら、それを可能にする者が他にいるのだろうか?

マスク氏がCOVID-19のロックダウンに公然と反対する最も目立った企業人となって以来、彼の政治的な変化を注意深く見守ってきた。ほんの10年ほど前までは、ごく普通の企業リベラルだった。しかし、パンデミックを経て彼は変わった。政府が「どの企業を開き、どの企業を閉じるかは自分たちが決める」と宣言したとき、彼は文明そのものが攻撃されていると感じ、それに立ち向かうと誓ったのは、自然な反応だった。

彼は、世界が閉鎖されていく中で、自分の工場だけは営業を続けると宣言した。抗議の意味も込めて、会社をカリフォルニア州から移し、法人登記もデラウェア州から別の場所へと移転させた。彼の突然の政治的目覚めは、採用や昇進における実力主義を損なうような、政府や企業のさまざまな方針への激しい批判へと変化した。「ウォーク思想」への批判も強めたが、それには彼自身の私的な家庭の問題が深く影響していた部分もある。

検閲とプロパガンダにまみれたTwitterを買収し、それをより自由なプラットフォーム「X」へと転換させたのだ。その結果、公共的な言論空間は大きく刷新され、2024年のドナルド・トランプ氏の勝利にも大きく貢献することとなった。彼は全従業員の5分の4を解雇し、肥大化していた組織を抜本的に改革。Xを、世界で最も人気のあるニュース兼SNSアプリへと再構築した。

こうした行動によって、彼は新政権の政策に対して大きな影響力を持つようになった。彼に託されたのは、Twitterで成し遂げたことを今度は政府で実行することだった。つまり、政府を刷新し、より効果的かつ効率的に機能させ、政府財政に一定の透明性をもたらすことが求められたのだ。

マスク氏はいくつかの点で成果を上げてきた。とはいえ、政府を変えるのは、CEOとして指揮できる民間企業を変えるのとは比較にならないほど難しい。彼はトランプ政権内で広範な影響力を持っていたが、彼自身が望んでいたほどではなかったかもしれない。彼は予算削減を望み、既存の枠組みの中でそれを実現しようと努力した。実際、米国際開発庁(USAID)のような腐敗の温床を徹底的に解体した例もある。

自分の評価としては、マスク氏のこれらの活動はまさに英雄的だと思う。彼は言論の自由の回復に貢献し、無駄や詐欺の一部を排除し、行政プロセスの簡素化を進め、会計や人事に関して新たな基準を打ち立てた。DOGEは彼なしでも続いていくだろう。

また、米Xの関連企業である米xAIが開発した「Grok(グロック)」が人工知能(AI)分野で形成されつつあった独占状態を打ち破り、OpenAIが非営利の立場を手放した後に抱いていた市場支配の野望を打ち砕いた、という事実はあまり知られていない。Grokがそれを不可能にしたのだ。現在でも、マスク氏のGrokというAIエンジンは、あらゆるAIツールの比較において非常に高い評価を得ており、特にユーザーインターフェースの面では抜群に優れている。

マスク氏は自動運転分野でも明らかにリーダー的存在であり、交通の在り方をあらゆる面で革新する可能性を持っている。しかも、それをすべてオープンソース技術で実現している。

自分はテスラのオーナーではないし、電気自動車全般については深刻な疑問を抱く記事も多く書いてきた。それでも、自分は消費者の選択を支持する立場だ。もし彼の車が優れていると思うなら、買えばいいし、乗ればいい。

 彼はまた、あらゆる義務化、補助金、さらには特許による保護にも反対していることを明確に示しており、これは驚くべきことだ。全体として言えば、彼は一貫して並外れた誠実さを持って行動してきたと言える。

さらに、彼は純粋な動機から政治の世界に飛び込んだ。

検閲を終わらせたいという思い、腐敗を止めたいという願い、政府財政を立て直したいという信念からだった。彼は終始誠実で、並外れた行動を取ってきた。その働きに対して報酬を得るどころか、むしろ経済的な犠牲を強いられてきたのだ。

この一連の出来事は、公共の役割や勇気、そして正しいことをするという姿勢について考えさせるものだ。マスク氏は本気で世界を変えようとした。彼は勇敢だった。Twitterを買収するという巨額のリスクを負い、それは結果的に報われたように見える。トランプ陣営に加担することで、彼は自らの全企業の地位を危険にさらした。

安全な道を選ぶこともできたのに、彼はあえて別の道を選んだ。

なぜ彼はすべてを賭けたのか? それは、彼が心の底から「正しいことだ」と信じていたからだ。この冷笑的な時代において、それは実に美しい姿勢だ。しかし同時に、彼の犠牲が報われるどころか罰せられているという点に、ある種の悲劇性がある。

これは、ビジネス文化全体にどんなメッセージを送っているのだろうか? それはこうだ。正しいことのために首を突っ込むな。代わりに、権力者が誰であろうと何であろうと、より従順で、より好意的であれ。それが利益を守る最善の方法だ。

これは、ビジネスにとって非常に不幸なシグナルだ。これほどの実績を持つ人物が、「正しいこと」や「真実のため」に立ち上がるのは極めてまれなことだ。言論の自由や一般的な自由を信じるすべての人々は、マスク氏に感謝すべきだ。彼の行動が、自由を深刻な危機から救ったと言えるかもしれない。その代償は、今も彼自身が大きく背負っている。

彼は何か違ったやり方ができたのだろうか?  彼自身もそれについて何か考えを持っているかもしれないが、肝心な時に正しいことをしたというのが彼の基本的な考え方だ。彼が下した大きな決断について、何かを変えるとは到底思えない。

テスラのバンパーステッカーでマスク氏を批判している件については、それがどんな動機であれ、実に情けなく、卑怯な行為だ。彼はさまざまな面で、私たち全員の恩人だった。この時代において、すべての英雄が報われない人生を送る運命なのだろうか? そうかもしれない。だが、最終的には彼らが勝つだろう。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
ブラウンストーン・インスティテュートの創設者。著書に「右翼の集団主義」(Right-Wing Collectivism: The Other Threat to Liberty)がある。