米中央情報局(CIA)は先週、映像を公開し、中国共産党(中共)の高官および党の下級幹部らに向けて離反を呼びかける工作を仕掛けている。これらの映像は異例なものだ。
この動きは、中国の政界に動揺を与えると同時に、アメリカが従来の対中政策を転換し、より積極的に中共の内部崩壊を促そうとしている兆しと見られる。
公開された映像は2本で、いずれもハリウッド風の演出がなされており、対象は中共体制内で不満を抱える人物たちだ。1本目は高官向けで、党内の粛清や内部抗争の実態に触れながら、「運命を自らの手に取り戻せ」と訴える内容。2本目は下級幹部向けで、「あなたの努力は一部のエリートの私腹を肥やすだけ」とし、「天は自ら助く者を助く」と結んでいる。
CIAのジョン・ラトクリフ長官は、「これらの映像は中国本土のネット検閲を突破し、関係者の目に届くことを期待している」と述べた。
この動きについて、現在オーストラリアに在住している、紅二代(高官の子弟)や中共の元高官と接点のある学者・袁紅氷氏は、「アメリカ政府が中共体制の打倒を視野に入れた戦略的転換を行った明確なシグナルだ」と評価する。袁氏は「これまでのような中国体制に迎合する宥和政策から脱し、共産主義的専制主義に対抗する方針への転換だ」と指摘した。
習近平政権のもとで進められてきた個人独裁体制の強化と反腐敗名目の粛清は、体制内に広範な不満と不信を生んでいる。袁氏によれば、CIAの呼びかけが特に強く響くのは、すでに粛清された官僚や、海外資産を持つエリート層だという。
前者は、習近平による排除を受けたことで政権に強い敵意を抱いており、機会があれば報復に動く意志があるのではないかとみられている。後者は、ロシア・ウクライナ戦争で西側諸国がロシア当局者の海外資産を凍結した前例を踏まえ、習近平の強硬外交路線によって自らの資産が危機に晒されることを恐れている。
一方、現在、中共体制内では、習近平への対抗を視野に入れる三つの政治勢力が存在すると袁氏は述べる。第一に、胡耀邦の子・胡徳平や劉少奇の子・劉源らによる民主化推進派。第二に、鄧小平の子・鄧樸方や陳雲の子・陳元らによる改革開放回帰派。そして第三に、毛沢東主義を信奉する極左派勢力である。
これらの勢力は、「習近平の終身独裁を阻止する」という一点で一定の協調関係を築いており、次期党大会(21大)での習近平の再任阻止を目指しているとみられる。ただし、CIAによる単独の呼びかけでは、これらの政治グループに対しては十分な影響力を持たない可能性があるとも指摘した。
袁氏は、「もしアメリカ政府が本気で中共の内部崩壊を促すのであれば、CIAではなくアメリカ議会の名義で公式な呼びかけを発するべきだ」と強調した。その場合、少なくとも前述の民主化派と改革開放派は呼応し、議会と連携する可能性が高いという。
さらに袁氏は、中共高官たちの多くが、習近平体制の先行きに深い不安を抱いており、すでに地方政府や軍部と秘密裏に連携を図っていると証言。たとえば、粛清された軍幹部の苗華や何衛東は、江蘇・浙江・上海などの地方幹部と親密な関係を築いていたという。「これは中紀委(中国共産党中央規律検査委員会)が問題視していた『派閥形成』に他ならず、体制内での分裂が進行している証拠だ」と語った。
中共内部では、最下層の村長から上級官僚に至るまで、人間関係と利害の鎖が連なり、組織としての結束が崩れつつあると袁氏は分析する。「彼らもまた、習近平による個人独裁が崩壊した際、自らの身をどう守るかに必死だ」と述べ、CIAの呼びかけがその不安心理に巧みに付け込んでいると指摘した。
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