アメリカのトランプ大統領は11日、処方薬の価格を大幅に引き下げることを目的とした大統領令に、翌12日朝に署名する意向を表明した。自身のトゥルース・ソーシャルで「アメリカ史上、最も重要な大統領令のひとつ」と強調し、「薬価は30%から最大80%引き下げられる」と述べた。
この大統領令は「最恵国待遇(Most Favored Nation)」政策を導入することで実現されるとされている。この制度では、アメリカが世界で最も安く薬を購入している国と同じ価格で処方薬を入手できるようにするもの。
この政策の恩恵を受けるのは、主に連邦高齢者医療保険「メディケア・パートB」の加入者である。最恵国待遇医薬品政策では、月額保険料を支払うことで、外来治療などの医療サービスが提供される。新たな政策では、高額な処方薬について、製薬会社にはメディケアに対して、比較対象となる国々の中で最も低い価格の適用を義務付けている。
トランプ氏は発表の中で、長年にわたり製薬業界がアメリカ国民に不当な価格負担を強いてきたと批判。
「製薬会社は長年、『研究開発費がかかる』と言ってきたが、そのすべてのコストをアメリカ国民、つまり“カモ”にだけ押しつけてきた。選挙献金が奇跡を起こすこともあるが、私には通じない。共和党にも通じない。私たちは正しいことをやる。これは民主党が長年主張してきた政策でもある」
2024年にアメリカ保健福祉省(HHS)が発表した報告書によると、アメリカ人は世界中で最も高額な薬価を支払っており、その平均は他国の2倍以上にのぼる。特に高額薬についてはその差はさらに大きい。
今回の大統領令は、トランプ氏が2020年の任期中にも打ち出していた政策を復活させるもので、当時は規制の策定途中で政権交代が起き、実現には至らなかった。
新たな政策のもとでは、メディケア・パートBがカバーする対象薬について、製薬会社は一定の「比較対象国」における最低価格を、GDPや流通量などの調整後に適用することが義務づけられる。
アメリカメディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)内の精算官室によると、トランプ氏が2020年に提案した7年間のパイロットプログラムは、連邦政府、州政府、メディケア受給者に対して合計878億ドル(約12兆9867億円)の節約効果をもたらすと試算されている。
しかしこの政策は、当時4件の訴訟と全国的な差し止め命令に直面し、予定通りの実施が妨げられた。
こうした「最恵国待遇」に基づく薬価政策については、大統領令とは独立して超党派の議員たちも関心を示しており、新たな法案が提出されている。
ジョシュ・ホーリー上院議員とピーター・ウェルチ上院議員は、5月5日に法案を共同提出した。この法案では、アメリカ国内で販売される処方薬が、カナダ、フランス、ドイツ、日本、イタリア、イギリスの6か国での平均価格を上回ることを禁止している。
この法律案に違反した製薬会社には、価格差の10倍に相当する罰金が、販売単位ごとに科されるという厳しい制裁が設けられている。
ホーリー氏は、「この法案は、トランプ大統領の2020年の政策をさらに前進させるものだ」としている。
「この超党派法案は、ビッグファーマ(巨大製薬会社)に有利な現在の薬価市場を正し、再び処方薬を手頃な価格に戻し、アメリカ国民が必要な医療を受けられるようにするものだ」
ウェルチ議員も声明で、「人々が薬を買うか、食卓に食事を並べるかの選択を迫られるような状況は、誰にもあってはならない」と述べ、アメリカの薬価が他国の最大5倍に達する現状を強く批判した。
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