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「106万円の壁」撤廃決定 パート・アルバイトの厚生年金拡大と今後の影響

2025/05/16
更新: 2025/05/16

政府は5月16日、パートタイムや短時間労働者の厚生年金加入を拡大する年金制度改革関連法案を閣議決定した。長年「働き控え」の要因とされてきた「年収106万円の壁」を、法案公布から3年以内に撤廃する方針が盛り込まれた。今国会での成立を目指しており、成立すれば2026年10月をめどに新制度がスタートする見通しだ。

「106万円の壁」とは何か

現在、パートやアルバイトなど短時間労働者が厚生年金に加入するには、「勤務先が従業員51人以上」「週の所定労働時間が20時間以上」「月額賃金8万8千円(年収換算約106万円)以上」「雇用期間2か月超の見込み」「学生でない」といった条件を全て満たす必要がある。このうち「月額8万8千円(年収106万円)以上」という賃金要件が「106万円の壁」と呼ばれ、保険料負担を避けるために働く時間や収入を抑える「働き控え」現象を生んできた。

撤廃の背景――最低賃金上昇と人手不足

「106万円の壁」撤廃の背景には、最低賃金の上昇で週20時間働くだけで106万円を超えるケースが増え、賃金要件としての意味合いが薄れてきたことがある。また、保険料負担を避けて労働時間を抑える働き控えが広がり、人手不足が深刻化していた。政府は、年収を気にせず働ける環境を整え、労働参加を促進する狙いがある。

さらに、社会保険の加入者を増やすことで保険制度の財政基盤を安定させ、収入による加入制限をなくして公平な仕組みを目指す政策的意図もある。

3年以内に「106万円の壁」撤廃

今回の法案では、「106万円の壁」を法案公布から3年以内に撤廃することを明記した。これにより、週20時間以上働くパートやアルバイトは、年収要件に関係なく厚生年金に加入できるようになる。働き方の多様化や人手不足への対応、将来の年金受給額の底上げが狙いだ。

(企業規模要件も段階的に撤廃)
厚生年金の加入が義務付けられる企業規模の基準も見直される。現在は「従業員51人以上」とされているが、2027年10月に「21人以上」に緩和し、2035年10月には完全撤廃する方針。これにより、小規模事業所で働くパートも厚生年金の対象となる。

保険料負担への配慮策

年収106万円未満で働く人が厚生年金に加入すると、保険料負担で手取り収入が減る課題がある。そこで政府は、年収156万円未満の人に限り、企業が保険料の一部を肩代わりできる時限措置を2026年4月から導入する方向で調整している。企業の判断で肩代わり割合を設定できるが、全額負担は認められない。肩代わり分を受けても将来の年金額は変わらない。

制度改正による影響と課題

この改正により、パートやアルバイトで働く人は「年収の壁」を意識せずに働きやすくなり、就業調整の必要がなくなる。将来的な年金受給額や社会保険の保障も手厚くなる一方、保険料負担増による手取り減少や、企業側の負担増など課題も残る。

また、週20時間未満の勤務であれば引き続き厚生年金加入の義務はないため、「106万円の壁」が「20時間の壁」に変わるだけとの指摘もある。

労働市場・企業への長期的影響

「106万円の壁」撤廃は、働き控えの解消による労働力の安定化や人手不足の緩和、女性や高齢者の労働参加促進、社会保険制度の持続性向上など、労働市場全体に大きな影響をもたらす。パート労働者も厚生年金に加入することで将来の年金額が増え、老後の貧困リスク低減も期待される。

一方、企業は社会保険料の負担増や雇用管理の見直しが求められ、特に中小企業では経営圧迫のリスクが高まる。採用や定着率向上などプラス効果もあるが、雇用契約やシフト管理の複雑化、コスト管理など新たな課題も生じる。

今後の見通し

政府・与党は今国会での法案成立を目指しており、成立後は3年以内に「106万円の壁」撤廃が実現する。働き方改革や人手不足対策、老後の生活保障強化に向けた大きな転換点となるが、現場の混乱や企業・労働者双方の負担増への対応も今後の課題となる。

「年収106万円の壁」撤廃は、パートなど短時間労働者の就労拡大と将来の年金充実を目指す一方、保険料負担や制度運用の課題も抱えている。今後の国会審議と現場の対応に注目が集まる。