トランプ米大統領は6月3日、鉄鋼・アルミ製品の輸入関税を現行の25%から50%に引き上げる大統領令に署名した。新たな関税は、日本時間6月4日午後1時1分から適用される。ホワイトハウスはこの措置について、「ダンピングへの対抗、国内の生産能力の保護、国家安全保障の確保」が目的だとしている。
イギリスからの輸入製品は当面25%の税率が維持され、今回の引き上げの対象から除外される。今後の対応は、米英間で締結された「経済繁栄協定(EPD)」の履行状況に応じて決定される予定だ。
80%の設備稼働率が安全保障の指標
トランプ政権は、従来の25%関税は一時的な価格支援の効果はあったが、鉄鋼・アルミ産業が長期的に健全な状態を維持し、国防上必要な生産能力を確保するには不十分だったとしている。2021年にはアメリカの鉄鋼産業の設備稼働率が一時的に80%に達したが、2022年と2023年にはそれぞれ77.3%、75.3%へと低下した。政権は80%を国家安全保障を確保するための基準と位置づけている。
今回の関税引き上げにより、外国製の安価な鉄鋼・アルミ製品による市場圧力を緩和し、米国産業の競争力を守る狙いがある。
通関体制の強化と厳罰措置も
今回の措置は、1962年通商拡大法第232条に基づき、大統領が国家安全保障を理由に輸入構造を見直す権限を行使したもの。対象となるのは製品に含まれる鉄鋼・アルミ成分であり、それ以外の素材には既存の税率が適用される。
米税関・国境保護局(CBP)は、輸入業者に対し、鉄鋼・アルミの含有量を正確に申告するよう求める新たな通関指針を発表。虚偽の申告が判明した場合、高額な罰金のほか、輸入資格の停止や刑事責任が問われる可能性もある。
英国は一時的に免除 今後の判断は協定履行次第
トランプ氏は、イギリスからの鉄鋼・アルミ製品については当面25%の関税を維持し、今回の引き上げからは除外する方針を示した。この措置は、5月8日に署名された米英経済繁栄協定の履行を促すためとされる。将来的に英国が協定の義務を果たさない場合には、関税を50%へ引き上げる可能性もある。
英フィナンシャル・タイムズ紙によれば、同国の業界団体は協定の履行に進展がないことへ懸念を表明し、スターマー首相に対して迅速な対応を求めている。EPDの条項では、英国が中国製の原料を排除するなど、安全保障上の基準を満たした場合、米国市場での「ゼロ関税枠(関税が免除される特別枠)」が認められる可能性がある。
ホワイトハウスは、関税や輸入枠の再検討を7月9日以降に実施するとしており、イギリスの対応次第で見直しが行われる可能性がある。
ホワイトハウス「過去の関税政策は有効だった」
ホワイトハウスの声明によると、トランプ政権の第1期中に導入された第232条関税により、2016年から2020年にかけて鉄鋼・アルミの輸入量は約3分の1減少し、数千人の新規雇用が生まれたという。これに伴い、賃金が上昇し、国内には100億ドルを超える投資が集まり、新たな製鉄所の建設も進んだ。
また、米国際貿易委員会(USITC)や経済政策研究所(EPI)の調査を引用し「関税による物価への影響は一時的で、インフレを引き起こすことはなかった。むしろ国内産業の回復を後押しした」としている。
日本政府 強く見直しを求める
赤澤経済再生相は3日の記者会見で、鉄鋼・アルミ関税の倍増に対し、今回の関税引き上げについて「極めて遺憾であり、強く見直しを求める」と述べた。5日から8日までの4日間、ワシントンを訪問し、5回目の関税交渉に臨む予定だ。
林芳正官房長官は4日午前の記者会見で「措置の詳細や日本への影響を十分に精査しながら、引き続き必要な対応を行っていく」と述べ、「米国政府による一連の安全措置は極めて遺憾」だとし、「これまでの日米協議の結果も踏まえつつ、引き続き政府一丸となって最優先かつ全力で取り組んでいく」と表明した。
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