ポルトガルの中道右派の少数政権は、右翼政党からの圧力を受け、2025年6月23日(月)に移民政策の見直し強化を発表した。主な内容は、外国人がポルトガル国籍を申請するために必要な合法居住年数を、現行の5年から10年に倍増させるというものである。
アントニオ・レイタン・アマロ内閣府大臣によれば、居住年数の延長に加えて、合法移民の家族に対する在留許可の発給手続きを厳格化するほか、重大犯罪を犯した帰化市民の国籍を剥奪できる新たな条項も盛り込む方針である。
背景と政治状況
ロイター通信によれば、ポルトガルの人口は約1050万人であり、近年移民の増加が顕著である。移民政策の見直しは、2025年5月の総選挙における主要争点の一つとなっていた。選挙では、反移民を掲げる右翼政党「チェガ(Chega)」が議席を伸ばし、議会最大の野党に躍進している。
今回の法案は今後国会に提出される予定であり、チェガ党の支持を受けて可決される可能性が高いとみられている。
新たな制度案
アマロ大臣は、「政府の基本方針に従って、帰化や入籍の基準を大幅に引き上げる」と述べた。
新制度では、一般の外国人に対しては10年間の合法居住が求められる。一方、ブラジル、アンゴラ、モザンビークなどのポルトガル語圏諸国出身者については、7年の居住で国籍申請が可能とされる。
現行制度においては以下の条件が求められている
- 最低5年間の合法居住歴
- 十分なポルトガル語力
- 3年以上の刑期を伴う犯罪歴がないこと
- 国家の安全保障上の脅威と見なされないこと
これに加え、新制度ではさらに以下の要件が追加される見通しだ
- ポルトガル文化や市民権に関する基本的な理解
- 民主国家の原則に対する支持の表明
- 過去に実刑判決を受けて服役した経歴がないこと
移民数の増加と制度見直しの背景
経済統計プラットフォーム「Pordata」によれば、2023年にポルトガルで帰化した外国人は14万1300人であり、2022年と比べて20%減少している。さらに、政府によれば、2024年初頭の時点で40万件以上の帰化申請が未処理のままである。
ポルトガル移民・庇護庁(AIMA)の推計では、2024年末までに合法的に居住する外国人は150万人を超える見込みであり、その中で最も多いのがブラジル人(約45万人)である。
移民の急増を背景に、ポルトガル政府は2023年2月に「ゴールデンビザ」制度を廃止した。この制度は、一定額以上の投資を行う外国人に永住権を付与するもので、中国の富裕層を中心に高い人気を集めていたが、住宅価格の高騰を招いたとして強い批判を受けていた。
特に、リスボンおよびポルトといった大都市では、地元住民が適切な住宅を確保できなくなる事態が深刻化しており、政府はこうした社会的圧力に対応するかたちで制度の廃止を決定したとみられている。
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