世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の信者である後藤徹氏は、ジャーナリストの鈴木エイト氏によるテレビ番組などでの発言で名誉を毀損されたとして、1100万円の損害賠償を求めて提訴した。その控訴審判決が2025年8月26日、東京高裁で言い渡され、裁判所は一審で鈴木氏に賠償を命じた判決を取り消し、後藤氏の請求を棄却。鈴木氏の逆転勝訴となった。
後藤徹氏は判決後の記者会見で「予想にしなかった結果」であり、「とてもこれは受け入れられない判決」であると、強いショックと不満を表し、支援者に対して「本当にお詫び申し上げます」と謝罪した。
後藤徹氏は2023年10月、鈴木エイト氏が自身のブログやテレビ番組で「引きこもり」と表現したことが社会的評価を著しく傷つけたとして提訴した。発言が名誉毀損に当たるかどうかが争点となった。
2025年1月の東京地裁一審判決は、一部について名誉毀損を認め、鈴木氏に11万円の支払いを命じた。しかし、今回(同年8月26日)、控訴審の東京高裁は、一審判決を取り消し、後藤氏の請求を棄却。鈴木氏の逆転勝訴となった。裁判所は、鈴木氏の発言には真実性、または真実と信じるに足る相当な理由があると認定した。
一方、後藤氏は「引きこもり」との表現は「監禁は嘘だった」と言うのと同義であり、最高裁が認めた事実を否定する行為だと主張している。
後藤氏はまた、今回の判決が確定すれば「旧統一教会の信者であれば監禁して脱会させてもよい」という歪んだ考えが社会に広がりかねないと警告した。その結果、信者に対する拉致・監禁事件が再び多発するのではないかとの強い危機感を示した。
これまで統一教会の一部信者は、親族や「脱会屋」と呼ばれる改宗活動家によって、信仰をやめさせることを目的に拉致・監禁され、強制的に棄教させられる事例があった。こうした行為は、日本国憲法が保障する信教の自由を侵害するものだといえる。
後藤氏自身も拉致・監禁の被害を受け、約12年5か月にわたり自由を奪われていたとされる。最初は新潟で監禁され、その後は東京のマンションに移された。期間中、精神的にも肉体的にも深刻な苦痛を強いられたという。
4300人以上の信者が拉致監禁で強制棄教
家庭連合の発表によると、1966年以降これまでに、同法人の信徒4300人以上が拉致・監禁による強制的な改宗の被害を受けてきたという。
典型的なケースでは、親族が「脱会屋」や反対牧師(脱会を支援する活動を行っているキリスト教系の牧師)に教唆され、信徒をマンションの一室などに監禁する。そして、家族や親戚、脱会屋、反対牧師、元信徒らが交代で説得を行い、時には侮辱的な言動や暴力を伴う場合もあるとされる。
監禁の期間は1か月から半年程度が多いが、1年以上に及ぶ例もある。過去には、マンション6階のベランダからの脱出を試みて重傷を負った信徒、脱会屋からの性的暴行を訴えた信徒、さらには監禁中に自殺に追い込まれたケースも報告されている。
被害者は監禁中に強い恐怖や屈辱、孤立感にさらされる。その結果、解放後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病を発症するなど、長期にわたる精神的後遺症に苦しむ人も少なくない。
「拉致監禁」と呼ばれる行為について、信者の棄教(脱会)を促す活動に関わった脱会屋や一部キリスト教牧師、支援弁護士などは、別の表現を使う場合が多い。彼らはこれを「保護説得」や「脱会説得」などと呼び、信者の家族が外部の専門家(いわゆる脱会屋や牧師)と協力し、信者を一定期間隔離したうえで、信仰について集中的に話し合いや説得を行うことだとしている。
また、全国霊感商法対策弁護士連絡会などの一部弁護士団体は、こうした活動を「保護」「説得」「監視」とも表現しており、拉致され被害を訴えている人々と脱会させる側の呼称に違いがある。
最高裁の司法判断 拉致監禁は許されない
この拉致監禁をめぐり、後藤氏は親族や活動家らを相手取り損害賠償を提訴。2014年11月、東京高裁は監禁の事実を認定し、総額2200万円の賠償を命じた。2015年9月、最高裁が被告側の上告を棄却し、判決は確定。「家族であっても違法な拉致監禁は許されない」との司法判断が示された。
鈴木エイト氏が勝訴に
今回の控訴審で東京高裁は、鈴木氏が番組内で「監禁」ではなく「引きこもり」と表現した点について、取材経緯を踏まえ「真実性、または真実と信じるに足る相当な理由がある」と判断した。
一方、2025年1月の東京地裁判決では、別件訴訟において後藤氏の主張を認める判決が確定していた事実を鈴木氏が知っていたとして、一部名誉毀損を認定していた。今回の逆転判決後、鈴木氏は「一審からの主張がすべて認められた」と評価している。
原告側の徳永信一弁護士は、控訴審判決を「ひどすぎる」と厳しく批判した。裁判所は鈴木氏の発言が後藤氏の名誉を傷つけた事実を認めつつも、「真実相当性」(発言が真実と信じるだけの合理的な理由があった)を根拠に、違法性を否定したと説明している。
徳永弁護士は、これでは過去の裁判で確定した「拉致監禁の被害者」という事実認定と、本件で「引きこもりであった」とする判決が矛盾した形で両立することになり、司法的論理が成立しないと指摘した。
さらに、この判決が確定すれば、今後も統一教会信者に対する拉致監禁行為が正当化される風潮が広がりかねないと強く懸念し、判決は「常識に反する」として最高裁への上告方針を明らかにした。
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