湖南省の地方紙「瀟湘晨報」の記者が、子ども用救命胴衣の品質を調べる過程で衝撃の実態を突き止めた。なんと検査機関にサンプルを送らなくても、お金を払うだけで「合格証」が買えるのである。
きっかけは、地元住民から「市販の救命胴衣の品質に問題がある」と調査を求める声が寄せられたことだった。そこで記者が複数の救命胴衣を購入し検査に出そうとしたところ、ネット上で「送検不要、数百元で完璧な合格証が買える」とうたう仲介業者に遭遇した。
調査を進めると、依頼を受けた検査会社が「オーダーメイド」で合格報告書を作る仕組みが存在していることが判明した。
実際に救命胴衣の写真を送り600元(約1万2千円)を支払うと、十数項目すべて「合格」とされた報告書が届いた。報告書には CMA(中国計量認証=国家が認めた検査機関に与えられる資格) や CNAS(中国合格評定国家認可委員会=中国で唯一の検査機関認定機関) の印章が押され、番号やQRコードまで付いていた。QRコードを読み取れば公式サイトにアクセスでき、国家市場監督管理総局のページで番号を照会できる仕掛けになっており、あたかも正規の検査を経た本物の合格証のように見えた。
さらに飲料用カップの検査も依頼し、サンプルの代わりに空っぽの袋を送ったが、それでも三日後には「合格」扱いとなった。担当者は「何を送っても構わない。要は送ったという形さえあればいい」と言い切っていたという。
事件が報じられると、関連する照会サイトは一時的に閉鎖されたが、後に再稼働した。しかし、それ以前に検索できた報告番号は、国家市場監督管理総局の公式サイトからすでに削除されていた。現在、市場監管当局が調査に着手しているという。
命を守るはずの救命胴衣と検査制度が、金さえ払えば「合格」に化ける。中国の検査業界の闇は想像以上に深い。結局この国で最も強力な安全基準は「現金」だったのか。

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