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権力闘争の余波か 中共軍の人事停滞が示す体制の歪み

2025/11/12
更新: 2025/11/12

中国共産党の第20期第4回中央委員会全体会議(四中全会)以降、人民解放軍の高官人事をめぐる混乱が一段と深まっている。複数の上級将校による不正関与が相次いで発覚し、主要ポストの一部では「代理」任命や下位ポストの人材登用による暫定対応が続いている。

専門家は、こうした事態を中共軍内部の権力闘争の表れとみなし、軍の統治構造に潜む歪みが顕在化したものだと指摘する。混乱の収束は容易ではないとの見方が広がっている。

空母「福建」就役式に異例の欠席相次ぐ

5日、中共軍の第3の空母「福建」が海南省三亜市で正式に就役した。2019年の空母「山東」就役式には複数の大将級将校が出席したが、今回は中央軍事委員会副主席の張升民のみが姿を見せ、他の出席者はすべて中将級にとどまった。

注目を集めたのは、通常であれば出席が慣例とされる海軍司令官の胡中明、南部戦区司令官の呉亜男、同政委の王文全、軍委装備発展部部長の許学強らが一斉に欠席した点である。

式典直前には、海軍元政治委員・袁華智の失脚が正式に発表されたほか、武装警察部隊司令官の王春寧も四中全会前に取り調べを受けていた。中国メディア「財新網」によれば、現在、武警司令職は曹均章が「代理」として務めているという。

昇進ラッシュと人事の流動化

11月3日に開催された「全軍宣講会」には、中央軍事委員会各機関から9人の中将が出席したが、そのうち7人は過去2か月以内に昇進したばかりの将官だった。急速な人事異動が進むなか、軍上層部の流動化が一段と鮮明になっている。

独立評論家の杜政氏は、台湾メディア『上報』への寄稿で、総後勤部の張林中将が全国人民代表大会代表の資格を剥奪されたことに伴い、副手の陳熾が職務を引き継いだ可能性を指摘。また、国防動員部部長の劉発慶が四中全会を欠席したため、副部長の張立克が一時的に代理を務めているとみられると述べた。

さらに、訓練管理部の王春中将が姿を見せなかったことから、劉鏑がすでに後任に就いた可能性もあるという。ただし、これらの人事は正式発表に至っておらず、現時点では「代理」または「低配置(下位ポストの任命)」の段階にとどまっているとの見方が強い。

習近平の側近にも異変

一方、軍委弁公庁主任の方永祥が最近の習近平主席の外遊に同行しなかったことも波紋を広げている。現在は、副主任の邱楊が「代行」として職務を担っているとされる。方永祥は中央委員候補でありながら、四中全会で選出されず補充人事も行われなかった。このため、すでに取り調べを受けているとの観測が広がっている。

「代理」任命は権力対立の反映

台湾国防安全研究院の沈明室研究員は、中国軍が「代理」人事を採用するのは「やむを得ない場合」に限られると指摘。対象者が取り調べ中であるか、上層部間で人事方針が一致していないことを意味するという。

沈氏によれば、代理職に就く者は慎重に観察される立場にあり、上層部からの信頼が薄いため業務意欲が低下する傾向がある。また、名目上の中央軍事委員会主席は習近平であるものの、実際に軍内で強い影響力を持つのは副主席の張又侠であり、両者の間に人事方針をめぐる対立が存在すると分析している。

台湾国防安全研究院・国防戦略与資源研究所の蘇紫雲所長も、「代理」や「低配置」といった人事措置は張又侠が独自の権力基盤を築こうとしている兆候だと指摘。「企業の試用期間のように、昇進させて様子を見たうえで、最終的に正式任命するかどうかを判断する仕組みだ」と述べた。

軍内権力闘争の「新常態」

評論家の李林一氏は、「代理」人事や「低配置」はいずれも中共軍内部の権力闘争の延長線上にあると指摘する。四中全会は一時的な停戦にすぎず、派閥間の駆け引きは続いている。軍内部の混乱は今後、「新たな常態」として定着するおそれがあるという。